「ブラック・クランズマン」実話に託したスパイク・リー監督の痛烈なメッセージ

(2019年3月25日)

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  • 「ブラック・クランズマン」
    (TOHOシネマズ六本木ヒルズ)

「ドゥ・ザ・ライト・シング」「マルコムX」などで知られるブラック・ムービーの巨匠、スパイク・リー監督が監督・脚本・製作を務めてノンフィクション小説を映画化した話題作。昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール(「万引き家族」)に次ぐグランプリを受賞。アカデミー賞で作品、監督、助演男優(アダム・ドライバー)、脚色、編集、作曲の6部門でノミネートされ脚色賞を受賞した。
1979年、コロラド州コロラドスプリングスの警察署に初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワース(ジョン・デビッド・ワシントン)は、ある日新聞で過激な白人至上主義の団体「ク―・クラックス・クラン」(通称KKK)のメンバー募集の広告を見て電話で応募し、黒人を差別する発言を繰り返して採用される。自分はメンバーと会えないので同僚の白人刑事フリップ(アダム・ドライバー)に協力してもらい、電話はロンが担当し、フリップがロンに成りすましてメンバーと接触する形で2人が連携してKKKへの潜入捜査を敢行するというストーリー。

リー監督の「マルコムX」に主演して注目されたオスカー俳優デンゼル・ワシントンの長男のジョン・デビッド・ワシントンがロンを熱演してゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされた。(受賞は「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレック)。アダム・ドライバーも存在感を見せてアカデミー賞主演男優種にノミネートされた(受賞は「グリーンブック」のマハーシャラ・アリ)。サスペンスあり、笑いあり、黒人とユダヤ人を排斥しようとする過激なKKKの実態や過酷な黒人差別の描写など見どころ満載に加えて人種問題について考えさせられる映画になっている。

ロンが潜入する黒人の学生連合の集会での幹部の演説、そしてKKK幹部の演説がかなり長く真正面からストレートに描かれていてまるで両方の集会に参加しているような臨場感がある。KKKの集会で幹部やメンバーが「アメリカ・ファースト」とどこかで聞いたようなメッセージをいうのが印象に残った。

アカデミー賞の授賞式で脚本賞を受賞したときのリー監督が、受賞スピーチで名指しはしなかったもののトランプ大統領を批判して、トランプ大統領がツイッターで反論するなど物議をかもしたのは記憶に新しい。作品賞が同様の人種差別問題を題材にした「グリーンブック」に決まったとき、怒ったリー監督が会場から出ていこうとしたというエピソードもあった。
「誰かが誰かを車に乗せて通り過ぎていくたびに僕は負ける。今回は座席が入れ替わっていたけど」とコメントしたという。29年前の1990年、リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」がアカデミー賞にノミネートされず、「ドライビングMissデイジー」が作品賞など4部門を受賞したことがあった。この映画は1948年のジョージア州アトランタを舞台に、黒人運転手(モーガン・フリーマン)と元教師のユダヤ系老婦人デイジー・ワサン(ジェシカ・ダンディ)の交流を描いたもので、ダンディは80歳で最高齢の主演女優賞を受賞した。
「グリーンブック」は運転手が白人で「ドライビングーー」は運転手が黒人だったが2つの作品に共通するのは、人種差別の問題を題材にしながら人種を超えた心温まる人間的交流であり美談といえるかもしれない。また作品としての評価も高かった。

これに対してリー監督の「ブラック・クランズマン」は、笑いやラブロマンス、サスペンスといったエンターテインメントの要素もあるが、黒人差別に対してブラック・パワーで闘う黒人を中心に据えた映画で、過酷な差別の歴史を告発し、ブラック・イズ・ビューティフルといったメッセージ色が濃厚なハードなブラック・ムービーだ。アカデミー賞が今回も前者を選択したのはそれが今も変わらないアカデミー賞会員の多数派の選択だったということだろう。もともともと作品賞は「ROMA/ローマ」か「グリーンブック」といわれていた。
ただ、「ドゥ・ザ・ライト・シング」の評価が高かったにも関わらずアカデミー賞には全くノミネートされなかったが、「ブラック・クランズマン」は作品賞をはじめ6部門にノミネートされ、リー監督が今回初めてオスカー(脚色賞)を受賞したのは29年前とは大きな違いがある。ほかにも「ブラックパンサー」や「ビール・ストリートの恋人たち」も作品賞にノミネートされておりブラック・ムービーがハリウッドで大きな存在感を見せている。(2019年3月22日公開)