「記者たち 衝撃と畏怖の真実」イラク戦争の疑惑に迫った記者たちの闘い

(2019年3月31日)

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  • 「記者たち 衝撃と畏怖の真実」
    (TOHOシネマズシャンテ)

2003年に開戦したイラク戦争の大義名分となった大量破壊兵器が実は存在していなかったことが後に明らかになったが、実はイラクが大量破壊兵器を保有していないことを知りながらイラク侵攻を正当化するために情報を操作しているという疑惑を追及した地方の新聞社を傘下に持つナイト・リッダー社の記者たちの活躍を題材にしたロブ・ライナー監督の実録映画。サブタイトルの「衝撃と畏怖」はイラク侵攻の軍事作戦名だった。

2001年9月11日に起きた米同時多発テロを受けて、米軍は首謀者とされたウサマ・ビンラディンと彼が率いるテロ組織アルカイダのメンバーの引き渡しに応じないアフガニスタンに侵攻してタリバン政権を崩壊させたが、ビンラディンは逃亡して行方をつかめなかった。その後ブッシュ政権は独裁者サダム・フセインが君臨するイラクが大量破壊兵器を保有しているとして2003年3月20日、首都バグダッドを空爆で火の海にしてイラクに侵攻した。

ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどの有力紙がイラクの大量破壊兵保有を報道する中、ナイト・リッダー社ワシントン支局の記者ジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)とウォ―レン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)は、取材を進めるうちに大量破壊兵器問題の重大な疑惑が浮上して裏取りに奔走する。

当時のブッシュ大統領の演説やラムズフェルド国防長官、チェイニー副大統領などが大量破壊兵器について語るニュース映像がふんだんに使われ、当時にタイムスリップしたかのような臨場感、緊迫感があり、政権の疑惑と真相を追い詰めていく2人の記者の執拗な取材に目が離せなくなる。
アクの強い個性的な演技で定評があるハレルソンが粘り強い取材で真実に迫る記者を熱演。マースデンは対照的に冷静な知性派記者を好演している。2人の上司で政権の疑惑を追及する手を緩めない熱血支局長ジョン・ウォルコット役をロブ・ライナー監督が演じているのも見逃がせない。さらには豊富な人脈を使って同社の取材をサポートする元従軍記者のジョー役のトミー・リー・ジョーンズ、ジョナサン記者を支える妻役でミラ・ジョヴォヴィッチ、ウォ―レン記者の恋人役にジェシカ・ビールなど豪華キャストがわきを固めている。

それにしてもニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストがイラク戦争をめぐってブッシュ政権の監視役をはたせなかったのはなぜなのか?ニューヨークのシンボルだったワールド・トレード・センタービルが航空機2機の自爆テロで破壊された米同時多発テロが米国民に与えた衝撃と愛国心の高揚が渦巻くなか、アフガニスタン侵攻でビンラディンを仕留められずイラク侵攻へと突き進んでいった米国内の激流が米主要マスコミも飲み込んでいったのか、などなど余韻が残り考えさせられる作品だ。(2019年3月29日公開)