「芳華―Youth―」 激動の時代に踊りと恋に青春を賭けた若者たちの群像劇

(2019年4月14日)

  • ブラッド・ピット
  • 「芳華ーYouthー」(新宿武蔵野館)
  • 毛沢東が主導した文化大革命(1965~1976年)の嵐が吹き荒れ、1976年9月の毛沢東の死去、同年10月の毛夫人・江青ら四人組の逮捕による文革の終焉、1979年の中越戦争(中国のベトナム侵攻)と激動が続いた1970年代の中国で、歌や踊りや演劇で人民解放軍兵士の士気を高めるために創設された文芸工作団(文工団)の踊り子や楽団員たちの活動とラブロマンスを描いた中国の文芸大作映画。

    監督・製作はチャン・ツィイー主演の「女帝エンペラー」(2006年)、「唐山大地震」(2 010年)などで知られる中国映画界の巨匠・馮小剛(フォン・シャオガン)で、監督は1970年代に7年間、文工団の美術部に所属し青春時代を過ごしたという。同じく文工団に所属して8年間バレエを踊ったことがある原作者のゲリン・ヤン(厳歌苓)とタッグを組んで当時の文工団をスクリーンに蘇らせ青春群像劇を映画化した。

    17歳で才能が認められ文工団の舞踏班に入団することが決まったホー・シャオピン(ミャオ・ミャオ)は、団員のリウ・フォン(ホアン・シュエン)に連れられて文工団のけいこ場を訪れ、文工団の分隊長(ヤン・ス―)が団員に紹介するところから映画は始まる。父親が労働改造所(反革命分子や犯罪者を労働を通して矯正する施設)に入れられているシャオピンにとって、文工団は新しい人生を歩みだす希望の場所となるはずだったが、入団早々、同室の先輩・リン・ディンディン(ヤン・ツァイユー)の軍服を黙って持ち出して写真館で軍服姿の写真を撮ったことがバレてダンサーたちからいじめられる。

    やがて毛沢東が死去し、文革が終焉を迎え時代は大きく変わり大学入試制度が復活して、模範兵のフォンは政治委員から大学進学を進められるが断る。団員のディンディンに恋していたからだった。フォンはある日、ディンディンに告白して拒絶されるが思いが余って彼女を抱きしめてしまう。同僚に目撃され、ディンディンは「模範兵を汚した」と責められる。ディンディンは保安部の取り調べに体を触られたとうそをつき、フォンは伐採部隊に異動を命じられる。
    一方、シャオピンは文工団を見限るようになり、慰問中に代役で踊ることを命じられると仮病を使って嫌がり野戦病院に異動させられなど、それぞれの団員の運命が大きく変わっていく。ちなみに映画のストーリーテラーで、ダンサーから後に中越戦争の従軍記者を命じられるシャオ・スイツ(チョン・チューシー)は原作者がモデルだという。

    団員同士の恋愛やダンサーたちの他愛のない日常のおしゃべりや人間模様などが生き生きと描かれ、どんな歴史の激動の中でも変わらない青春の恋や悩みや希望と挫折のドラマが鮮烈に抒情的に描かれる。1979年の文工団の解散と1991年に元団員たちが再会するシーンも胸に迫るものがある。ダンサーたちの一糸乱れぬダンス、歌声など心にしみる音楽と踊りと数奇な運命に翻弄される群像劇に最後まで目が離せない。(2019年4月12日公開)