「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」 韓国スパイの息詰まる北への潜入工作

(2019年7月19日)

「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」 韓国スパイの息詰まる北への潜入工作
「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」(シネマート新宿)

実業家に成りすまして北朝鮮に潜入して金正日総書記と面会した実在の韓国人スパイの暗躍と苦悩と決断をリアルに描いたサスペンス映画。コードネーム「黒金星(ブラック・ビーナス)」のパク・ソギョンが北に潜入して命がけの特殊工作を行うドラマや南の諜報機関と北の密約など歴史の裏側が描かれていて興味深い。

1992年、北朝鮮が核開発を進めていることが分かり朝鮮半島に緊張が走るなか、韓国の情報機関「国家安全企画部」の将校パク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は室長のチェ・ハクソン(チョ・ジヌン)に工作員(スパイ)として北朝鮮に潜入して、北の核開発の実態を探ることを命じられる。ソギョンは調子のいい陽気な実業家になりすまして北京で金正日総書記の側近で対外経済委員会の所長リ・ミョンウン(イ・ソンミン)に会い、商談を持ち掛けるとカネと南の機密情報を要求される。

リ所長に同行していた国家安全保衛部のチョン・ムテク課長(チェ・ジフン)からは敵意をむき出しにして警戒されるが、リ所長は次第にソギョンを信頼するようになり、金正日総書記に面会させてもらう。やがて南北融和を図る広告事業を展開することが決まり、ソギョンは視察を名目に本来の目的の核施設への接近を図る。

ところが1997年、韓国では次期大統領選挙をめぐって金大中が台頭し、南と北が裏取引をしてソギョンが命懸けで進めてきた南北共同事業が無に帰すことが分かり激しく苦悩するというストーリー。

工作員ソギョンは「007」シリーズのジェームズ・ボンドのような派手なアクションは全くなく女っ気もゼロだが、「南が送り込んだスパイ」と発覚すればその場で殺害される可能性もある、命がけの北朝鮮への潜入劇はリアルで緊迫感に圧倒される。また、リ所長との虚実入り乱れての駆け引き、本物そっくりの金正日総書記の存在感。軍事境界線などでの北朝鮮軍の挑発は実は南と北の密が裏にあった説などの舞台裏側のエピソード。さらには南北の板挟みになるソギョンの苦悩と最後の賭けなど見どころの多い韓流スパイ映画になっている。
(2019年7月19日公開)