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「レ・ミゼラブル」 警官の暴走と少年たちの暴動をドキュメントタッチで描いた衝撃作

(2020年3月1日)

「レ・ミゼラブル」 警官の暴走と少年たちの暴動をドキュメントタッチで描いた衝撃作
「レ・ミゼラブル」(新宿武蔵野館)

ヴィクトル・ユゴー原作の小説「レ・ミゼラブル」(1862年)の舞台となったパリ郊外のモンフェルメイユを舞台に、パトロール中の警官たちと少年たちが衝突して予想外の暴動に発展した実際の事件を題材にドキュメントタッチで描いた作品。モンフェルメイユで生まれ育ち現在もそこに住むアフリカ系フランス人のラ・ジリ監督初の長編映画。第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、第92回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた。2月28日(現地時間)に授賞式が行われた“フランスのアカデミー賞”といわれるセザール賞で作品賞を受賞した。

■ストーリー

パリ郊外のモンフェルメイユは移民や貧困層の居住区になり犯罪が多発する地区になっていた。警官のステファン(ダミアン・ボナール)は同地区の犯罪防止班に配属されて、クリス(アレクシス・マネンティ)、グワダ(ジェブリル・ゾンガ)と3人で車で団地が立ち並ぶ地域をパトロールする。そうしたなか、サーカスから子供のライオンが盗まれる事件が発生。
犯人は少年イッサであることを突き止め3人は逃げる彼を追い詰めるが、日ごろからクリスの暴力的な態度に反発する少年たちが集まって3人に抵抗する。そのときグワダがゴム弾を発射しイッサの顔に命中して重傷を負う。その現場を別の少年がたまたまドローンで撮影していたことが分かり、クリスはもみ消しに狂奔。ドローンの撮影データを回収し、イッサの口も封じて事態は収まったかに見えたが、イッサら少年たちの大人数のグループが暴徒化しパトカーを破壊し3人を団地の建物内に追い詰めて襲い掛かる。

■見どころ

ラ・ジリ監督は「本作で描かれているすべてが実際に起きたことに基づいています。ワールドカップ勝利の歓喜はもちろん、地域に新しい警官が来た時のこと、ドローン、盗まれたライオンまですべてです。この地域の素晴らしい多様性を見せたかったんです。私は今もここに住んでいます。これが私の生活であり、ここで撮影することが大好きなんです」(映画「レ・ミゼラブル」公式サイトより)とコメントを寄せている。

警官クリスの普段から差別的で横暴な少年たちや地域住民たちへの対応、警官グワダは抵抗する少年を銃撃(ゴム弾)して重傷を負わせ、さらには少年の手当てを後回しにして、銃撃のもみ消しに狂奔するなど、新任のステファンの制止も聞かず繰り返される一連の暴挙が少年たちの怒りの火に油を注ぎ、ついには大規模な少年たちの暴動に発展する。まさに「ミゼラブル」(悲惨)な現実に鋭くスを入れたドキュメント映画のようなリアルな作品だ。ファッションやミシュランの三ツ星レストランとは全く無縁な、貧困と暴力と差別が蔓延するパリ郊外の町の現実に驚かされ、そして少年たちが暴徒化して3人を襲撃するクライマックスのシーンに圧倒され、衝撃的なラストが待ち受ける。
(2020年2月28日公開)