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映画「ハリエット」 奴隷解放に命をかけた黒人女性の壮絶な戦いの実話

(2020年6月6日)

「ハリエット」奴隷解放に命をかけた黒人女性の壮絶な実話
「ハリエット」(TOHOシネマズ渋谷)

いま米国では黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に膝で首を押さえつけられ窒息死した事件に抗議して「#JusticeforGeorgeFroyd」(ジョージ・フロイドに正義を)、「#BlackLivesMatter」(黒人の命は重要だ)を旗印にした抗議デモが全米を揺るがしているが、人種差別と差別撤廃運動の原点がこの映画で描かれている。アフリカ系アメリカ人として史上初めて新しい米ドル紙幣に肖像が採用されることが決まった実在の奴隷解放運動家、ハリエット・タブマンの激動の半生を描いた作品で、ハリエットを演じた英国の女優で歌手・ソングライターのシンシア・エリヴォ(33)は第92回アカデミー賞で主演女優賞と劇中自ら歌う「スタンド・アップ」が歌曲賞にノミネートされた。監督はアフリカ系アメリカ人の女優で映画監督のケイシー・レモンズ(59)。

■ストーリー

1984年、米メリーランド州のブローダス農場の奴隷ミンティ(シンシア・エヴォリオ)は、夫の自由黒人ジョン・タブマン(ザカリー・モモー)と一緒に、奴隷主に会い、弁護士の書類を見せて自由になる権利があると掛け合うが、その場で書類を破られ「奴隷は一生自分の所有物だ」といわれる。さらには借金の返済に迫られた奴隷主が、ミンティを南部に売りに出したことを知り、自由を求めて単身農場を脱走。奴隷主のギデオン(ジョー・アルウィン)が部下や犬を引き連れて追跡し、橋の上でつかまるが、「自由か死よ」といってギデオンの説得を振り切って川に飛び込み、奇跡的に助かり追っ手を逃れて奴隷制が廃止された隣のペンシルバニア州にたどり着く。そこで奴隷解放運動家のウィリアム・スティル(レスリー・オドム・Jr.)に出会い、ハリエット・タブマンと改名して、農場に残された肉親や仲間を解放するために命懸けで不屈の闘いを繰り広げ、やがて奴隷解放運動のカリスマとして「女モーセ」「黒人のモーセ」と呼ばれ、南北戦争では黒人兵を率いて戦う「英雄」になっていく。

■みどころ

シンシア・エリヴォが「自由かしからずんば死か」の不屈の精神で自由を求めて戦う実在の奴隷解放運動家ハリエット・タブマン(1820年または1821年~1913年3月10日)を熱演して圧倒的な存在感を見せている。人格を否定されて家畜のように所有の対象として奴隷主に隷属する過酷な奴隷制度と戦い続ける強靭な精神力や、奴隷主たちの追跡をかわす知恵と勇気など、ドキュメント映画のようなリアルな緊迫感で最後まで引き付けられる。彼女の戦いは南北戦争で北軍の勝利して1865年12月の奴隷制廃止へとつながっていく。しかしその後もトイレが黒人と白人に分けられたり、レストランやホテルも白人と分けられるなど過酷な人種差別が公然と続き、キング牧師らによる公民権運動と1964年の公民権法の制定で、長年アメリカで続いてきた人種差別は終わりを告げる。だが、あくまで法の上のことで、人種差別は現在まで続き、白人至上主義とされるトランプ大統領によって米国の分断がさらに深まったといわれる。ジョージ・フロイドさん事件を引き起こした米国の人種差別について考えさせられ、その原点には奴隷制度があったこと。そして奴隷解放のために戦ったハリエットの誇り高き精神が現在の抗議運動にも脈打っていることを考えさせられる作品になっている。(6月5日公開)

■コロナ感染対策下の映画館での感染リスクは?

コロナ対策の自粛要請に伴い3月下旬から都内の映画館は休館していたが、緊急事態宣言の全面解除に伴って5日から都内の主要な映画館が再開された。入り口で体温測定システムの前に立ち体温を測り、座席は前後左右に1席ずつ間隔を空けたチェスボード盤方式で座席指定券を販売。飲食時以外はマスクを着用するなどコロナ感染対策を取っての新しいスタイルでの映画鑑賞となった。体温を測定し、ソーシャルディスタンスを保ち、会話はせずに、マスクをしての映画鑑賞は、レストランや居酒屋などで酒を飲んでマスクを外して大声で会話するのに比べれば感染リスクはかなり低いのではないだろうか。
一方で、座席の半分は空席になることもあり入場者数はコロナ前と比べてかなり少ないように感じられた。しばらくは以前の観客動員は望めそうになく、映画界もコロナでかなりダメージを受けたとみられるが、いずれにしても、映画館の大きなスクリーンで見る映画はやはり格別である。