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ドイツ映画「お名前はアドルフ?」と異色のドキュメント映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」のとっておき情報

(2020年6月15日)

緊急事態宣言の解除でいよいよ映画館もコロナ対策をして再開されたなか、映画評論家・荒木久文氏がドイツ映画「お名前はアドルフ?」と日本のドキュメント映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」の新作映画2本をピックアップ。そのユニークな内容などを解説した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、6月9日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

ドイツ映画「お名前はアドルフ?」と異色のドキュメント映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

荒木   さあいよいよ新作映画の公開が始まりました。

前回  順番に公開されるからそんなに混乱しないよと言っていたのですが、ざっと見ると本数 多いんですよね。6月末までに80本以上、100本くらいいくんじゃないかな。公開ラッシュです。思ったよりバーっと来ましたね。

今日はそんな6月公開新作映画の中から、あえて大型映画を避けてちょっと個性的な作品2本を厳選してご紹介したいと思います。

鈴木   我々個性的だからいいじゃないですか!

荒木   あはは。個性的と言えば、「ダイ」ちゃんの名前は個性的ですよね。大って書いて「まさる」とか読むことはあるけど。誰が付けたの?

鈴木   父親ですね。

荒木   大っていうと鈴木ですよね。

外国の場合、名前(ファーストネーム)が先に来るほうですが、それを言っただけで苗字(ラストネーム)がすっと出てくる有名人いますよね。

ポールといえば?

鈴木   ポールか~ひねってもしょうがないな。マッカートニー

荒木   シルベスターといえば?

鈴木   スタローン

荒木   ジョン・エフといえば?

鈴木   ケネディ

荒木   次は、日本人にはちょっと難しいかもしれませんが、アドルフと言えば?

鈴木   ヒトラー

■「お名前はアドルフ?」ワンシチュエーションのインテリジェンス溢れる会話劇

荒木   そうですよね。誰もがそう来ますよね。
ということで、まず今日の一本目は「お名前はアドルフ?」というタイトルの現在公開中の作品です。大笑いのドイツ映画です。

さっそくストーリーから紹介していきます。
舞台は、ドイツのライン川のほとりにある高級な一軒家。優雅そうな夫婦が住んでいます。 夫は哲学者で大学の文学部教授。妻は学校の教師。ある日二人は親しい身内を集めた食事会を開きます。参加者は夫婦のほかには妻の弟、そして夫婦の親友で音楽家の男性、妻の弟の恋人で妊娠中の女性もあとから加わるということで、とりあえず4人の食事が始まります。楽しいディナーになるはずでした。
ところが…。<br> ことの発端は、妻の弟がこれから生まれてくる子どもの名前を「アドルフ」にすると宣言したのがきっかけです。それを聞いてほかの3人はただただあっけにとられます。

元々アドルフという名前は、ドイツでは人気のある伝統的な名前だったらしいです。その名をつけることが法律で禁止されているわけではないんですが、当然ながら戦後生まれの男の子にはほとんどいないわけですね。ちなみにヒトラーという苗字は多くいたらしいんですが、ほとんどみんな苗字を変えてしまっているようです。

そういう事なので、妻の弟が生まれてくる子供の名前を「アドルフ」にするとしたことから、楽しい食事会はふっとんでしまい激しい口論の場へ変わってしまいます。

映画の前半はこの「アドルフ」という名前自体に罪はあるのか?というテーマ中心の会話というか論争が繰り広げられます。
後半は、妊娠中の弟の恋人が食事会に合流し、そこからまた違った展開が出てくるのです。 名前の話からスタートした論争、というより口喧嘩がどんどんヒートアップしていき、名前のことなんか吹っ飛んで全員のシビアな喧嘩が始まるんです。

長い間とても仲の良かった参加者5人が、怒りまくり、なりふり構わずお互いのことを秘めていたうっぷんや、つもりに積もった負の感情をぶちまき始めるわけです。面と向かって悪口が止まらなくなるんです。最後、あっと驚く意外な真実があらわになってぐちゃぐちゃのカタストロフィーを迎えます。

この作品は元々フランスで上演された舞台劇で、ドイツで映画化して150万人動員の大ヒットとなりました。

この映画は原作の舞台と同じく、ワンシチュエーションのインテリジェンス溢れる会話劇です。舞台俳優なので国際的に有名な役者はいませんが、皆さんとても上手いです。90分のリアルタイムノンストップ会話劇で、計算され尽くされているんですね。そのテンポの良さとユーモアさで全く飽きさせません。
この面白さは観ていただくしかないんですけど、最後見事な結末です。興奮ものです。

いつも偉そうなことを言っている人がとんでもない差別意識を持っていたり、インテリと言われる人が学歴や性に対して古い考えだったりといういわば現代人を皮肉っているのが特徴的です。
また、共感できる人物が目まぐるしく変わるところも特徴的です。責める側と責められる側が次々と変わるんですね。
会話劇と言えば前にもご紹介しましたが、私の大好きなイタリアの群像喜劇映画、パオロ・ジェノヴェーゼの「おとなの事情」やその前のロマン・ポランスキーの「おとなのけんか」とちょっと似ています。
とっても知的でエキサイティングです。この手の作品が好きな方は見逃す手はないと思います。とても面白いです。
「お名前はアドルフ?」という、現在公開中の作品です。

お名前で思い出しましたが、「悪魔くん事件」って覚えていますか?

鈴木   あったね!「悪魔」って名前付けた父ちゃんね。

荒木   26、7年前ですよね。生まれた自分の子供に「悪魔」という名前を付けて役所に届けたという事件がありました。役所が拒否して裁判所で争い、連日テレビのワイドショーで取り上げられて騒がれましたよね。裁判所では「あくま」という名前もOK という結論が出たのですが、結局父親は「悪魔」という名前は付けませんでした
。 あの赤ちゃんも30歳近くになって今はサラリーマンやっているみたいです。ちょっと変わったあのお父さんのことが気になって調べてみたら、覚せい剤やら泥棒やらで何回か逮捕されてまだ監獄にいるとのことです。

鈴木   そうなんですかぁ…いやでも息子さんしっかりしてるんだねぇ。

■「なぜ君は総理大臣になれないのか」日本の現代史の一面として貴重な記録

ドイツ映画「お名前はアドルフ」と異色のドキュメント映画「なぜ君は総理大臣になれないのか?」のとっておき情報
(「なぜ君は総理大臣になれないのか」=公式HPから)

荒木   ということで、2本目です。

新型コロナのおかげで今まで社会の中で見えなかったことが随分見えてきたんじゃないかなと思います。そのひとつが政治の姿ですね。
ここぞというときに政治の役割って何なのかということやリーダーの在り方について注目されていますよね。言うまでもなく日本の政治のリーダーは内閣総理大臣ですね。 ダイちゃんの回りには、政治家や政治を目指している人とかいますか?

鈴木   市議会議員を目指しているとか秘書をやっているとか、そういう感じですね。

荒木   割といますよね。
世の中で政治家を目指すという人は、一部を除いて基本的にはトップ、つまり総理大臣を目指して大志を抱いているんではないかと私は思います。
そういう意味で、こんなタイトルの作品を紹介したいと思います。
6月13日公開の映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」です。
この映画は大島新さんという映画監督が、ある国会議員を17年間追っかけて撮影したドキュメンタリーなんです。
そのある国会議員とは、小川淳也さんという衆議院議員で今50歳ぐらいです。
小川さんは香川県高松市生まれ。東大を卒業後、自治省(現:総務省)に入省し退官した元官僚。
2003年32歳の時から、何回か地元香川1区で民主党から立候補しますが落選します。2005年に比例四国ブロックで復活して初当選。その後鳩山内閣、菅内閣で総務大臣政務官を務めます。
2018年5月以来無所属ですが、無所属といっても立憲民主・無所属フォーラムのグループに所属なので基本的に野党側ですが、まあ「中道」と考えていいでしょう。超リベラルな思想ではありません。右でもなく左でもなく、真ん中。今時の若い政治家っぽくスリムでイケメンですけど、野党の政治家だし、小泉進次郎さんみたいに世間に名前を知られているメジャーな人ではありません。
知らないでしょ? 小川淳也。
鈴木   知らないです。聞いたことないですね。

荒木   彼の国会の活動で目立ったのは昨年の1月でしたかね。厚生労働省の不正統計問題ってありましたよね。景気動向や経済政策の指標となる重要な統計が、今の内閣に都合のいいように歪められていたという問題ですね。
僕もテレビで見ていましたが、この時の国会での小川さんの論戦・追究は素晴らしく鋭くて「統計王子」と世間でも話題になりました。弁舌も爽やかでとても頭がいいという印象を受けました。この国の将来に対する危惧と想いもとても強く感じました。

ではなぜ、大島監督がこの野党の一衆議院議員に着目しドキュメンタリー映画を撮るため17年も追いかけたのか。しかも「総理大臣になれない」などとショッキングなタイトルの作品を撮ったのか?ということなのですが…。

きっかけは監督の奥さんと小川議員の奥さんと小川議員が同じ高校の同じ学年だったらしいです。2003年、当時32歳だった小川さんは突然、総務省のエリート官僚を辞め「国民のためという思いなら誰にも負けない自信がある」と語りはじめ国会議員に立候補すると言い出しました。
当然の家族の猛反対を「このままでは死んでも死に切れん」と押し切って説得し、「やるからには目標を高く自らトップに立って国の舵取りをしたい」と語ったそうです。
もちろん二世三世ではないので、地盤、看板、お金もない。それなのになぜ?ということで彼に興味が湧き、カメラを回し始めたのがきっかけだったといいます。

それから17年間、民主党が政権をとった時代も含めて小川議員に密着してきたんですね。

鈴木   17年間ってよく飽きなかったですよね。

荒木   本当ですよね。
映画を観てもらうとわかると思うのですが、この小川議員という人今時珍しいんですよ。17年間ずっと「社会を良くしたい」と愚直なまでに真っすぐで全くぶれないんですよ。
私たちが普段テレビで見慣れている政治家たちは与党野党問わず、慇懃無礼だったり、見下したような態度や居丈高に怒ったりのいわゆる灰汁(アク)の強い人たちが多いですよね。 それが全くないんですよ。植物的で。フツーの感覚の人です。穏やかでとても周りに気を遣って生活しているフツーの人なんですよね。
もちろんカメラがあるから意識しているんだろうという人がいると思うのですが、17年間カメラの前でずーっと「演技」はできないですよ。

初当選当時は、見どころのある若手政治家と期待されていたんですが、彼の選挙区香川1区は自民党の強い議員がいるせいで、小川議員は選挙区で敗れては敗者復活の比例当選を繰り返してきました。選挙区当選でなければ発言権も弱いわけで、そのうえ党の利益に貢献しないと党内でもポジションが上がらない。つまり出世できないんですね。
映画の中では、優秀だからといって活躍できるわけではないという現実に苦しむ彼の姿が映されています。
そして政治家が味あう特有の苦しみ。
例えば、誰もいない早朝の通りに立って聞いている人もいない往来に向かって辻説法したり、選挙の前後の修羅場ですよね。家族全員巻き込んで必死に選挙運動するんです。
わけのわからない年寄りや生意気な若者に、野次を浴びせられたり厳しい言葉をかけられたりします。そのうえ落選して、悲しみと落胆と屈辱感で思わず涙が出てくる。そういうところが映っています。

鈴木   そういう裏側って我々見たことないですからね。

荒木   見たことないですよ。
選挙落選後の事務所の沈痛な面持ちも、ちらっとテレビでも映りますけどじっくり映してるのでね。

彼は自分でも語っているのですが、権力への強い欲望が足りないと言われ続けます。 一般の政治家って権力大好きでギラギラしてますものね。いくら気高い政治思想があっても、理想主義的な彼は周りの人々や妻や二人の娘からも政治家に向いていないと言われるんですね。

鈴木   ただただ志が高いだけなんですね。

荒木   そうそう。
監督も思っていたし、見ている私たちも感じるんですね。あまりに理想的で愚直なまでに誠実なんですよ。
映画の結論的に言うと「こういう人だから、総理大臣になれないんだよ」と結論づけている部分もあるんです。

鈴木   逆に言うと総理大臣になってきた方はそうじゃないってことだよね。

荒木   そういうことなんですよ。意地悪な見方をするとね。

ですが、今の日本の政治に失望したり絶望したりしている人も多いのでしょうけど「この国民にしてこの政府」という言葉もありますからね。我々有権者に跳ね返ってくる問題なんです。
そういう意味で考えさせられる映画です。
政治活動を追ったドキュメンタリー映画は珍しいし、ましてや政治家それも無名の議員を追っかけた作品は本当に珍しいですね。日本の現代史の一面として貴重な記録かもしれません。

「なぜ君は総理大臣になれないのか」という6月13日公開のドキュメンタリー映画の紹介でした。

鈴木   それにしてもすごいタイトルですよね。

荒木   そうだよね。タイトル両方とも面白いよね。

鈴木   一度聞いたら忘れることがないなって思います。

荒木   タイトリング大事ですからね。

鈴木   またこうやって荒木さんから新作のご紹介が始まったんだなぁというワクワク感感じましたよ。

荒木   ありがとうございます。<br> 参考にして覗いてみていただけたら嬉しいです。映画館半分しか入れない大変なときですけど、観に行っていただきたいと思います。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。