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高校生を描いた青春映画「君が世界のはじまり」と「アルプススタンドのはしの方」のとっておき情報

(2020年8月3日11:30)

映画評論家・荒木久文氏が、高校生を描いた映画「君が世界のはじまり」と「アルプススタンドのはしの方」の見どころととっておきの情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、7月28日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

高校生を描いた青春映画「君が世界のはじまり」と「アルプススタンドのはしの方」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

荒木   こんにちは。お願いします。

鈴木   こんにちは。7月ももう終わりですよ。

荒木   早いですね。今頃の時期は普通は夏休みに入って、子供たちや生徒さん学生さんたちもそれぞれイキイキと勉強したり、遊んだりの一番楽しい時期なのですが、今年はまだ学校に通っているんですよね。先生も大変だけど、みんな大変ですよね。
今日はそんな若い人たちに頑張れという意味も込めて、高校生を描いた映画を2本ご紹介したいと思います。

鈴木   おお!いいじゃないですか。

高校生を描いた青春映画「君が世界のはじまり」と「アルプススタンドのはしの方」のとっておき情報
「君が世界のはじまり」(7月31日公開)

荒木   まず一本目の作品は7月31日公開『君が世界のはじまり』という、ふくだももこ監督の最新作です。

ストーリーですが、舞台は大阪のある町。高校2年生のえんちゃん、今人気の松本穂香ちゃんが演じています。彼女は勉強もできるんですが、なにか物足りない退屈な毎日を送っています。
えんちゃんの親友の琴子ちゃん。琴子ちゃんは彼氏を頻繁に変える、恋多き女です。
いつも先生に追いかけられている問題児なのですが、二人は気が合っていつも一緒にいました。そんなある日、琴子ちゃんがサッカー部の業平君に一目惚れしたことで、2人には違和感が生じます。なぜかというと、えんちゃんが偶然業平君の秘密を知ってしまい、急接近したので恋のライバルのようになってしまい、徐々にすれ違うようになっていきます。
えんちゃんと同じ高校に通う女子高生のジュンちゃん。彼女も家庭の問題を抱えていたのですが、その反動からか東京から転校してきた男の子の伊尾君と出会い、求めるものもわからぬまま付き合うようになりますが、それでも思いの捌け口を見つけられないジュンちゃん。
他にも、琴子ちゃんに思いを寄せているサッカー部キャプテンの岡田君なども絡み、高校生たちの葛藤は続きます。
そんなある朝、テレビで「父親を殺した高校生が逮捕された」と緊急報道がされます。
それを聞いた6人の高校生たちは、え、あの人なのか?あいつなのか?とそれぞれに想像します。さて父親を殺したのは…?というちょっとミステリアスな部分もある作品です。

主な6人の登場人物ですが、思春期ど真ん中で全員が悩みや葛藤を抱えてます。と言っても暗い映画ではないです。笑えるシーンと暗いシーンが交互に出てくるような感じです。

自分の環境や感情に振り回されて、悩むっていうのは若いときは多いですよね。若い時、ダイちゃんもありませんでした?

鈴木   ありました、ありました!ありすぎましたね。 荒木   そうですよね。やっぱりキラキラばかりの青春じゃなにもんね。
br> 鈴木   本当そうですよ。

荒木   進学やクラブ活動の問題なんかも絡んでくるしね。
今我々は当時のこと無意識に蓋して、いい思い出だけ思い出そうとしてるけど、よく考えてみると暗黒時代あるよね。

鈴木   あるある、暗黒時代。もう嫌な思い出たくさんあるもん。

荒木   そうですよね。

この作品、刺さる刺さらないがはっきり出る映画でしょうね。まず世代によってというより 環境と地域性によるかな。僕やダイちゃんみたいに地方で公立の中高と上がってきた人たちには意外に刺さると思います。比較がいいのかどうなのかわからないですが、中島みゆきっぽい環境だった人は刺さるかもしれないね。逆に、都会の一貫校のエスカレートで下から上がってきた子とかはあまりピンとこないかも。ですので、ユーミン的な人たちかな。比較が古くて申し訳ないんだけど。

もう一つは、地域性ですね。
舞台は大阪の小さな町なので、出てくる若者たちはみんな口調は荒めのコテコテの関西弁です。えんちゃん役の松本穂香ちゃんも大阪の堺市出身なので関西弁がごく自然です。他の出演者も全員関西出身で、関西人が共感するコテコテの関西弁。関東の人には何言ってるかわからないところもあるくらいです。これが独特の味付けをしています。会話のテンポも良い!たぶん東京弁だとここまで伝わってこないんでしょうね。関西弁の人にはより理解できると思います。
そんな二つの大きな要素を感じましたね。

ふくだももこさんが監督なのですが、主人公のえんちゃんは監督自身がモデルだと思われます。この人も大阪府茨木市生まれ。
映画学校の卒業制作で作った『グッバイ・マーザー』という作品が色々な映画祭で評判になりました。そしてこの番組でもご紹介しましたが、同じ松本穂香さん主演の『おいしい家族』で話題になりましたよね。

また小説家としても活躍中で『えん』という作品で第40回すばる文学賞佳作を取っています。

鈴木   おお、すごいね。

荒木   今回のこの映画は、小説『えん』とその後書いた小説の『ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら』を統合して脚本を書いたようですね。
そしてこの作品、ブルーハーツの歌が非常に重要な役割を果たしています。いわゆるエールソングというか、応援歌の原型みたいなものです。ブルーハーツの歌は私のような者でも感じますが、やり場のない想いや気持ちを吹き飛ばしてくれると言う印象もあります。

鈴木   彼らの音楽は完璧に世代超えてますもんね。

荒木   そうなんですよね。
そんな状況の中で聞くと心に染みるというか、元気になる、吹っ切れて息苦しさが解放され絶望が少しの希望に変わる感じがします。
みんな表に出さないだけでいろんな問題を抱えているし、こういう鬱屈した時代ですからね。ニュースにありましたが、小学生のストレスが大変らしいですね。もちろん中学生や高校生もそうなんでしょうけど。特に今年のような時期は大変です。そんな時に寄り添ってくれる作品です。
7月31日公開の『君が世界のはじまり』です。
鈴木   タイトルもいいですね。

荒木   いいですよね。

高校生を描いた青春映画「君が世界のはじまり」と「アルプススタンドのはしの方」のとっておき情報
「アルプススタンドのはしの方」(7月24日公開)

そして2本目です。高校生映画で甲子園絡みです。
ダイちゃんは松戸高校ですよね?高校野球との縁はどうなんですか?

鈴木   全然なかったんですよ。野球部が強かったとか弱かったとかいうレベル以上に、野球部が大会に出るための人数が足りてなかったような、そんな感じでしたね。

荒木   そうですか。じゃあ3年間甲子園とは縁がなかった?

鈴木   全然違う世界の話でしたね。

荒木   (予選の)応援に行ったこともないの?

鈴木   ないないないない。そんな鈴木ダイ責めるより荒木さんどうなんですか?

荒木   うちの高校は2度甲子園行ってますよ。

鈴木   は!?

荒木   2回甲子園出てます。

鈴木   え…それっていわゆる高校野球の甲子園に出たってことですか?

荒木   そうですよ。

鈴木   まじですか!?え、荒木さんそれって何、どこ、どういうこと?

荒木   別に私がプレーしたわけじゃないから威張ることでもないんですが、長野県立上田高校っていうんですけど。

鈴木   有名な高校ですよね。たぶんね。

荒木   有名じゃないですけど、2度奇跡のように出ているんですよ。

鈴木   ちょっと初めて聞いたよ、その話。

荒木   私が生まれた頃1回と、69回高校野球だからいつになるんだろ、30年前くらいかな。私あんまり緊張することないんですが、テレビで見ててお腹痛くなりました。

鈴木   わはは。荒木さんがですか?要するに野球少年でも高校球児でもなかった荒木さんが?

荒木   そういうもんなんだよ、甲子園出ちゃうと。関係ないのにね。

鈴木   やっぱり熱くなるもんですか?

荒木   なるもんなんですよ。

こんなこと話してると本編に行けないんで、そろそろ本編の話をします。

例年でいえば今日あたりは甲子園への地方予選たけなわで、各県の代表校が決まってくる時期ですよね。そして8月中旬から本番甲子園大会というパターンになるんですが、今年はご存知のように新型コロナの影響でね。野球に限らず今年はインターハイも中止でしたし、文科系のクラブの全国大会、合唱や演劇も中止と本当に高校生、特に3年生は残念でしたよね。周りの人も声をかけるのも忍びないと言っている人が多かったです。 そんな今年の夏、高校野球をテーマにしたちょっと面白い作品『アルプススタンドのはしの方』というタイトルの作品が7月24日から公開中です。

ある地方の野球場。夏の高校野球の県予選の応援席アルプススタンドが舞台です。
4人の高校生たちが母校の応援に来ているんです。
まず2人の演劇部女子部員、野球のルールも知らないような安田(小野莉奈)と田宮(西本まりん)は、何か訳がありそうでお互いに妙に気を遣っているようです。そこに遅れてやって来たのは元野球部の藤野くん(平井亜門)。辞めちゃったので今グランドでプレーしている元チームメイトに複雑なまなざしを送っています。そしてちょっと離れたところにぽつんと一人立って見ているのは、帰宅部の成績優秀女子・宮下さん(中村守里)。彼女は、今、少し下の応援席でトランペットを吹いている吹奏楽部の部長の女の子に成績学年一位の座を明け渡してしまったばかり。そういった事情を抱えた高校生たちが複雑な想いで応援しているわけです。母校チームは格上の強豪校相手に押されまくりの試合が、終盤には1点を争うスリリングな展開へと突入していくのですが…というストーリーです。

ストーリーを聞いてもドラマや事件が起きるわけでもないのに何が面白いの?と思うでしょうが、これがなかなか面白い秀逸な会話劇なんですよ。
この映画『アルプススタンドのはしの方』というのは、2017年に兵庫県立東播磨高等学校が第63回全国高等学校演劇大会、いわば演劇の甲子園ともいえる大会で上演され最優秀賞を受賞した演劇作品なんです。高校生が作った作品。それが原作になっている映画です。

この4人はね、ネタバレになっちゃうかな。
元野球部の藤野くんは天才エースが出てきたことで野球部を辞めてしまっているんですね。演劇部員の2人は、そのうちの1人が原因で演劇の全国大会に出られなかったんです。テストの成績順位が2位に落ちた女子高校生は、1位になった吹奏楽部長に野球部のエースもとられてしまいそうになっているんです。4人みんな落ち込んでいるんです。みんな「しょうがないよな」と自分に言い聞かせているのが共通しているんですよね。だから母校の野球部が強豪校に負けるのは「しょうがない」と思っているんです。
だけど本当にしょうがないのかと。なぜ頑張ってしょうがないことを覆せないのか。
この4人の「しょうがない」というのが、9回の裏表イニングの野球の試合の間に代わってゆくというドラマがあるんですね。

何せずっとアルプススタンドの一角しか映りません。
グランドや野球部員のプレーは一切映し出さず、グランドの様子や進行状態が手に取るようにわかるんですね。会話だけで成り立つこの映画は如何にも舞台の世界。撮影にはお金はかかりませんが、脚本と演出がしっかりしていないと台無しです。言葉遊び的なやりとりの会話劇でなかなか演技が難しいです。俳優さんたちはあまり有名な人はいません。そういう若い人たちを使っています。
監督は城定秀夫さんという、この業界では有名な人です。なぜ有名かというと、アダルト映画のピンク映画の巨匠なんです。見たこともちろんないと思いますが、『味見したい人妻たち』で映画監督デビューして以来『世界で一番美しいメス豚ちゃん』とかですね。

鈴木   いやー、いいタイトルが連発しますね。

荒木   タイトルすごいでしょ。壇蜜さんも出ていた『私の奴隷になりなさい ご主人様と呼ばせてください』とか。とにかく過激な性描写が有名な人なんですが、それが一転して裸のはの字も出てこない高校生演劇の原作を演出するとはということで驚いています。

鈴木   どういうモードチェンジなんですかね?

荒木   非常にいい演出で面白いですよ。
青春群像劇で、ドラマの進展と共に登場人物それぞれが抱えている問題や葛藤が浮き彫りにされていき、主役の高校生たちが実に生き生きとしていて試合終盤からの加速は手に汗握ります。もちろん脚本の技巧として素晴らしいんですが、それ以上に平凡な小さな世界の奇跡が輝いているところが素晴らしいんです。
「しょうがない」という気持ちが高校野球を応援するうちに前向きに変わっていくんです。原作が高校生らしいといえば高校生らしい「しょうがないと思わないで頑張ろう」という真っすぐなメッセージが盛り込まれていて、監督のアダルト映画の表現力で磨かれた演出力とが結びついた爽やかな作品です。前向きになれる面白い会話劇です。

鈴木   でもアダルトムービーも考え方によっては前向きにさせてくれますからね。

荒木   そういうことですよね。ははは。そういうことか。
本当にアルプススタンドのはしの方しか映らない映画ですけど、グランドが目に見えるようなそんな不思議な映画だよね。青春映画の傑作ですよ。
この前ご紹介した『のぼる小寺さん』もいい青春映画でしたし、このところいい青春映画が登場していますね。
ということで、高校野球をテーマにした『アルプススタンドのはしの方』というきらりと光る映画でした。

鈴木   荒木さんの長野県立上田高校のお話を伺った後だから尚更感じるんですが、荒木さんにしては口ぶりが妙に熱かったですね。やっぱり高校野球2回出てると違うのかな。

荒木   いやそんなことないでしょうけど。でもいつもは母校愛とかあんまり感じる方じゃないんですが、甲子園に行って戦うとなると一気にヒートアップしますよね。

鈴木   やっぱりそういうもんなんだね。

荒木   不思議なもんですよ。甲子園ってね。

鈴木   やっぱり何かがあるんですよ。本当に。

荒木   ダイちゃんにも味わわせてあげたかったけど、これは松戸高校じゃ味わえないね。

鈴木   タイムマシーン作ります、とりあえず。

荒木   そうだよね。

鈴木   「そうだよね」じゃなくて。ははは。荒木さん、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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