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「オフィシャル・シークレット」イラク戦争に突き進む米国諜報機関の極秘メールをリークした英国女性諜報部員の数奇な運命

(2020年8月30日15:00)

「オフィシャル・シークレット」イラク戦争に突き進む米国諜報機関の極秘メールをリークした英国女性諜報部員の数奇の運命
「オフィシャル・シークレット」(TOHOシネマズシャンテ)

2003年3月20日のイラク戦争開戦前夜に英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)に勤務していた女性職員のキャサリン・ガンが、米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)から贈られてきた、国連安保理メンバーの盗聴を英国に要請するメールをマスコミにリークして公務秘密漏洩で逮捕・起訴された実際の事件を題材にしたドキュメントタッチの作品。キャサリンをキーラ・ナイトレイ、彼女の弁護を担当する人権派弁護士にレイフ・ファインズ、メールをスクープ報道した英紙オブザーバーの記者にマット・スミスなどのキャストで「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」(2009年)、「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(2015年)などのギャヴィン・フッド監督がメガホンを取った力作。

■ストーリー

2003年1月、英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)に勤めるキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)は、米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)から送られてきたメールを見て愕然とする。イラク侵攻に向かって突き進む米ブッシュ政権が、イラク攻撃の国連決議の賛成票を集めるために国連安全保障理事会のメンバーの盗聴をするよう同盟国の英ブレア政権に要請する極秘メールだった。米国が盛んにあおっていたイラクの大量破壊兵器の保有に証拠がないとイラク戦争に反対していたキャサリンは、そのメールを見て憤りを感じて、イラク戦争を止めようと元同僚で反戦運動にかかわっていた友人を訪ねてマスコミにリークするよう依頼する。そのメールを入手して信ぴょう性などの裏付け取材を続けるマーティン・ブライト記者(マット・スミス)は同僚記者の協力を得て裏を取り、2週間後にメールの内容が英紙オブザーバーの1面を飾る。
GCHQが犯人捜しをはじめるなか、同僚に迷惑がかかると思いキャサリンが名乗り出て、公務秘密漏洩で逮捕・起訴され、イラク戦争は開戦する。人権派弁護士ベン・エマーソン(レイフ・ファインズ)が弁護を引き受け2004年2月に初公判を迎え、キャサリンは無罪を主張するが意外な結末が待ち受ける。

■みどころ

イラク開戦直前のブッシュ大統領やブレア英首相の演説や英紙スタンダードの極秘メールのスクープを伝えるニュース番組などが多数流れて当時にタイムスリップしたかのような臨場感があり最後まで目が離せない展開が続く。米諜報機関からの極秘メールをリークし逮捕され、移民の夫が不利な立場に置かれるのを心配しながら、最後には信念を曲げずに闘うことを決意する実在のGCHQ職員キャサリン・ガンを「プライドと偏見」(2005年)でアカデミー賞とゴールデングローブ勝の主演女優賞を受賞し、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズなどで活躍するキーラ・ナイトレイが熱演している。映画のラストにキャサリン本人のニュース番組の映像が登場するが、イギリス生まれで台湾に育ち、日本に留学して広島で英語を教えていた時に原爆の恐ろしさを知ったという。そうした体験が彼女をブッシュ政権のイラク戦争を正当化しようとする極秘メールのリークに突き動かしたのではないか。またそれを受けて裏付け取材に奔走し、イラク戦争支持だった同紙のスタンスをひっくり返してイラク戦争をめぐる米国の陰謀を象徴する極秘メールの掲載に踏み切るまでのドラマも見ごたえがある。(2020年8月28日公開)