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「ある画家の数奇な運命」と「小説の神様 君としか描けない物語」のとっておき情報

(2020年10月6日20:15)

映画評論家・荒木久文氏が、「ある画家の数奇な運命」と「小説の神様 君としか描けない物語」の見どころととっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、9月29日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

「ある画家の数奇な運命」と「小説の神様 君としか描けない物語」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   荒木さーん!お願いします。

荒木   お願いします。いよいよ秋ですね。寒くなってきてね。月並みですが、読書の秋、芸術の秋ですね。今日はね10月2日公開の作品から、絵と小説の映画のお話になります。ダイちゃん好きな画家とか絵はありますか?

鈴木   好きな画家っていうのは特にないんですけど、色使いが艶やかなビビッドな絵を見ると元気になるからそういう絵が好きですね。

荒木   そしたら今日ご紹介するのは現代美術なんですけど、合ってるかもしれないです。

「ある画家の数奇な運命」と「小説の神様 君としか描けない物語」のとっておき情報
「ある画家の数奇な運命」(©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG)(10月2日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー)

まずは現代アートの巨人と言われるゲルハルト・リヒターをテーマにした『ある画家の数奇な運命』というドイツ映画です。
現代美術が好きな人だったらご存知だと思います。ゲルハルト・リヒター。現在88歳のドイツ生まれ。現在、世界で最も重要な芸術家の1人、「ドイツ最高峰の画家」と呼ばれています。地元の東ドイツで1956年まで絵画を学びますが、スターリン主義体制から逃れ西ドイツに脱出。1960年代からフォトペインティングやカラーチャート、何層にも重ねた色の抽象画など、独自の作風を展開していきました。
よく知られているのは、ロンドンの競売でエリック・クラプトンが持っていたゲルハルト・リヒターの抽象画『アプストラクテス・ビルト(809-4)』が約2132万ポンド(約26億9000万円)で落札され、当時、生存する画家の作品としては史上最高額になったということです。その後36億円の値がついた絵もあるという話です。この映画は現代美術界の巨匠、ゲルハルト・リヒターをモデルに、ドイツの激動の時代を生きた芸術家の半生を描いた人間ドラマです。

ストーリーです。戦時中ナチ政権下のドイツ。主人公はドイツの少年クルト君。彼は自分のきれいなおばさんの影響で幼いころから美術や音楽などの芸術に親しみ、感性の豊かに幼い時代を過ごしていました。
ところがそのおばさんが精神のバランスを崩し、強制入院させられた挙句他の患者たちと共にガス室で殺されてしまいます。これは、いろんな障害がある人の子孫は残さずに根絶やしにしてしまうというナチスの断種法(種を断ち切る)により、多数のドイツ人の精神的・肉体的障害者がガス室に送りこまれ殺されました。ナチスはユダヤ人だけではなく同じドイツ人の障害のある人たちも抹殺していたんですね。

そして戦争が終わり、青年になったクルトは東ドイツのドレスデンの美術学校に進学し、そこで出会った女性エリーと恋をします。彼女の父親は医者だったのですが、なんとエリーの父親こそが元ナチス高官で彼のおばをガス室で殺した張本人だったのですが、誰もその残酷な運命を気づかぬまま二人は結婚します。

やがて東ドイツの美術界に疑問を抱いたクルトは、ベルリンの壁が築かれる直前に妻のエリーと西ドイツへ移ります。そして、デュッセルドルフの美術学校で学びますが、担当の教授からは、作品を全否定されるなどして苦しみます。しかしクルトは一生けん命に努力し、ついに自分だけの表現方法を見つけ新しい作品を完成させます。同時にその作品は罪深い過去を隠し続けた、義理の父を震え上がらすものだった…ということなのです…。

いかにもドイツ映画というか、暗いのですが、静かで重厚感のある雰囲気に溢れていて心にずしりとくる内容です。3時間を超える長い作品ですが、観ている感覚としては本当にあっという間でした。それだけひき込まれるストーリー展開が素晴らしいです。僕個人的には今年トップクラスの作品です。

鈴木   出た出た出た!

荒木   どこまでが真実でどこまでが創作されたものかは注意深く伏せられてはいるんですが、大河ドラマのように、登場人物の人生が十数年の時を経て運命的に交錯するところが巧く作られています。後半の現代アートの説明シーンはこれまた新鮮です。絵を好きな方じゃなくても知的好奇心を満足させてくれます。リヒターの飛躍となった作品というのは、写真を精密に模写してそれを加工して微妙にぼやかすんです。その作品がすごく力のあるものになるんですが、その発想がすごいなと思いました。まさに大河ドラマのようなスケールの大きい作品です。

主人公クルトを演じるのはトム・シリングという方で、なかなかいいです。監督はフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督です。2018年、第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。第91回アカデミー賞では外国語映画賞と撮影賞にノミネートされた作品です。興味のある方はちょっと長いんですけどいい作品なので、是非観ていただきたいです。

鈴木   荒木さんのお墨付きですね。

荒木   本当にいい衝撃を受けた作品です。10月2日公開の『ある画家の数奇な運命』というドイツ映画をご紹介しました。

ということで1本目は絵の話だったのですが、次は小説の映画です。ダイちゃんは普段小説などはどんなもの読みますか?

鈴木   僕最近の本っていうよりは昔の名作とかの方が好きですね。あとは、音楽ものの伝記だったりですね。

荒木   そうですか。私は最近は重い小説は読まなくて軽いものが多いです。小説の映画ですが、FANTASTICS from EXILE TRIBEの佐藤大樹(たいき)くんと、あの奇跡の一枚の橋本環奈さんがW主演の10月2日公開の作品『小説の神様 君としか描けない物語』です。

「ある画家の数奇な運命」と「小説の神様 君としか描けない物語」のとっておき情報
「小説の神様 君としか描けない物語」(10月2日(金)全国公開、配給 HIGH BROW CINEMA、©2020映画「小説の神様」製作委員会)

ストーリーですが、高校の文芸部に所属している佐藤大樹くんが演じる千谷一也(ちたにいちや)くんは実はプロの小説家なのですが、このことは学校では一部の人しか知らない秘密です。中学生の時に作家デビューした彼の小説は、一時売り上げがすごかったのですが、最近は売り上げダウン。SNSでも酷評され、落ち込んで今ではすっかり小説を書くことが嫌になっていました。

ある日、廃部寸前の彼の文芸部に一年生の女の子がやってきます。彼女は小説家千谷くんの大ファンで彼が本人だと気付き勇気を出して入部したいと言ってきました。しかし千谷くんはイライラから彼女に、冷たい言葉をかけてしまいます。その時、文芸部の部室に学校一の美少女で転校生の小余綾詩凪(こゆるぎしいな)が入ってきて「この恥知らず!!」といきなり彼に強烈なビンタを食らわせます。彼女は小説に対する彼の消極的な姿勢が許せなかったんです。これが橋本環奈ちゃんが演じています。

そして翌日、千谷くんは出版社の編集担当者から呼び出され、ある人気作家と二人で協力して共作小説を作らないかと持ち掛けられます。その相手は高校生作家で次々ヒットを生み出す超売れっ子の不動詩凪(ふどうしいな)という美少女だと評判のベストセラー小説家です。千谷くんは二人で共同して小説を書くなんて…と気の進まない状態でしたが強引に引き合わされます。するとその相手は、前日彼に強烈なビンタを浴びせた転校生、小余綾詩凪だったんです。彼女はペンネーム不動詩凪という高校生ベストセラー作家だったんです。
性格も立場も正反対の二人、“協力して大ベストセラーを生みだす”なんてことを実行できるのか?そしてそのうち千谷くんは、彼女のある大きな秘密に気付くことになります。 原作は本屋大賞やベストミステリーの常連の相沢紗呼(あいざわさこ)さんの大ヒット小説です。高校生ベストセラー作家という設定の二人なんですが、ちゃんと出版社から本を出している高校生作家なんているのかと思いますよね。

鈴木   ははは。いるんですか?

荒木   作家って色んな本を読まなきゃいけないし、経験や知識も必要だから早くても大学卒業くらいじゃないと書けないんじゃないかと思うんですけど、実は沢山いるんですよ。

鈴木   沢山いるんだ、やっぱり。

荒木   まず有名なのが日部星花(ひべせいか)さんという女性作家なんですけど、昨年高校2年の時に『DEATH★ガール!』で作家デビューしています。それから、鈴木るりかさんという人もいます。中学2年生のときに『さよなら、田中さん』でデビューし、文学界を騒然とさせました。
男の子で有名なのは、坪田侑也(つぼたゆうや)くんという慶應義塾高校の3年生です。彼は中学校の夏休みの自由研究で執筆したミステリー小説が文学賞を受賞し、高校生になってプロの小説家デビュー。『探偵はぼっちじゃない』という青春ミステリー小説ですね。

鈴木   夏休みの自由研究かぁ。しかしいるんだね。

荒木   いるんですよ。過去にはポルノ小説高校生作家もいたようですよ。あおぞら鈴音(あおぞら すずね)さんは、デビュー時点で16歳の現役高校生でした。官能小説で有名なフランス書院の美少女文庫から数冊出しています。

現役の作家ではまず2018年の直木賞受賞の島本理生さん。それから綿矢りささんも、高校在学中『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。その後『蹴りたい背中』で芥川賞受賞しています。 ダイちゃんの高校にも文芸部ありました?

鈴木   あったけど人数がすごく少なかった記憶があるなぁ。

荒木   そうですよね。とっても地味な人が多かったですよね。

鈴木   二人くらいしかいなかった気がする。

荒木   どこも廃部寸前みたいな感じですよね。今はそうでもないらしいです。私たちの時代だととても地味な人が多くて、佐藤くんみたいにかっこいい人とか、橋本環奈ちゃんみたいな美少女部員なんて全くいないですよね。

鈴木   いないね。ただ本が好き、本を読むのが好きな人が入る部活でしたね。

荒木   社会環境もライトな小説とか高校生向けの小説なんてない時代だったからね。みんな芥川龍之介とか太宰治を読んでましたからね。今は本ばかりかスマホなどがあるから、女子中学生・女子高生向け恋愛小説がたくさんアップされているネット小説のサイトなど多いですよね。環境がいいですよね。さっきの日部星花さんなんかは携帯小説がデビューのきっかけですよね。こうした高校生作家、日部さんや坪田くんや島本さん、綿矢さんのように順調に育っていってほしいですよね。

鈴木   そうですよね。

荒木   映画の話に戻ると、かっこいいけどダメな男子とキラキラ女子。一見正反対の二人が反発しながらも、足りないものを補い合い物語を一緒に作るうちに彼は彼女の誰にも言えない大きな秘密を知ってしまいます。友情を超えて近くなる二人の距離…さあ二人が生み出す物語の行方は?
原作では一緒に作る小説の中身まで書いているんですけど、映画では二人の距離をクローズアップしています。青春ファンタスティックストーリー、キラキラしていてまぶしい限りです。ライトノベルを読むように軽いタッチで楽しんでください。ダイちゃんもたまには小説を読んだり、映画を観たりしてください。

鈴木   はい、わかりました!

荒木   ということで、『小説の神様 君としか描けない物語』という10月2日公開の作品をご紹介しました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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