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「太陽の蓋」 3・11東日本大震災から10年、原発事故の激動の5日間をリアルに再現

(2021年3月3日12:30)

「太陽の蓋」 3・11東日本大震災から10年、原発事故の激動の5日間をリアルに再現
「太陽の蓋」(新聞記者役の北村有起哉㊨)(©「太陽の蓋」プロジェクト/Tachibana Ttamiyoshi)

3・11東日本大震災と福島原発事故から間もなく10年、原発事故の発生から5日間の激動を描いた映画「太陽の蓋」が2月27日から東京・渋谷区のユーロスペースで公開中だ。2016年に公開された「太陽の蓋」を再編集した90分版の同作は、数多くの報告書や資料を分析し、原発事故に対応した当事者の政治家や閣僚に直接取材し、放射能汚染が残る福島で撮影を敢行して原発事故の舞台裏と真相に迫っている。

ユーロスペースでは初日に室井佑月氏がゲストとして登壇して製作の橘民義氏とトークショーを行った。そして2月28日に立憲民主党幹事長で参院議員の福山哲郎氏、さらには映画評論家の寺脇研氏(3月6日)、社会学者でジャーナリストの永田浩三氏(7日)、れいわ新撰組代表の山本太郎氏(8日)、同作に出演している俳優・北村有起哉(9日)、立憲民主党の衆院議員・辻本清美氏(10日)、原発事故当時の首相で立憲民主党最高顧問の菅直人氏(11日)といった豪華ゲストが午前10時30分からの回の上映終了後にトークイベントを行う。3月20日からは横浜市中区のシネマ・ジャック&ベティほかで公開される。

福島原発事故を題材にした映画は最近では昨年3月に公開された「Fukushima 50」があり、福島原発事故の発生時に発電所にとどまって対応業務にあたった福島第一原発の吉田昌郎所長ら約50人の作業員、通称「フクシマ50」の闘いを描いた。これに対して「太陽の蓋」は原発事故の真相を追う新聞記者をキーパーソンにして、原発事故の対応に当たった菅直人首相や連日記者会見して原発の現状を伝え続けた枝野幸男・内閣官房長官、福山哲郎・内閣福官房長官らが実名で登場して官邸の対応や、電力会社の幹部の混迷ぶりなど当時日本列島を震撼させた原発事故発生からの5日間がドキュメントタッチで描かれる。
事故の真相を追跡する東京中央新聞記者の鍋島に北村有起哉、鍋島の妻に中村ゆり、菅直人首相に三田村邦彦、枝野官房長官に菅原大吉、福山哲郎内閣官房副長官に神尾祐、官房副長官秘書官の坂下に袴田吉彦などのキャスト。

「太陽の蓋」 3・11東日本大震災から10年、原発事故の激動の5日間をリアルに再現
「太陽の蓋」(菅首相役の三田村邦彦=中央)(©「太陽の蓋」プロジェクト/Tachibana Ttamiyoshi)



■ストーリー

2011 年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0、最大震度7の未曽有の東日本大震災が発生し巨大な津波が福島、宮城。岩手各県の海岸を襲い、建物や車や電柱などが次々に流される大惨事の映像がテレビのニュースで流れ日本列島を震撼させる中、福島第一原発は全電源喪失の異常事態に陥る。冷却装置を失った原子炉は温度が上がり続け、チェルノブイリの原発事故のような最悪の事態が迫る。想定外の事態に科学者たちは判断を誤り官邸は情報不足で混乱する。電源確保が進まず時間は刻々と過ぎて地震発生の翌日の3月12日午後3時36分、1号機の原子炉建屋が水素爆発を起こして屋根が吹き飛び大量の放射能が空中に飛び散る戦慄の映像がテレビのニュースで流れる。3・4号機も爆発しメルトダウンの危機が迫る中、官邸は現場の情報を把握しようと奔走し、鍋島は官邸で情報収集し元原発関係者の話を聞くなどして原発の現場で何が起きているのか真相に迫ろうとする。

■見どころ

三田村扮する菅首相が自衛隊のヘリに乗って直接福島原発の現場を視察するシーンも登場し、北村演じる記者の鍋島がノートパソコンに向かって「指揮をとる総理大臣が官邸を離れ、直接被災地を訪れるのは異例の事で、進まぬ救助と原発事故対応への政府の混迷がうかがえる…」などと記事を書く。官邸の対応の詳細や、「撤退」を言い出す電力会社(映画では仮名)本店と福島の原発で命がけで闘う現場作業員たちとの意識のずれなども浮き彫りにされる。さらには福島の住民が遠くへと何度も避難場所を変更させられるなど翻弄される様子や、原発の現場で対応する作業員の両親の葛藤などが描かれる。事故から10年たつ今も汚染水が日々大量に発生し、収容するタンクのパッキンが劣化して汚染水漏れが起きているという。そしてあれだけの原発事故を起こしながら、まだ原発に依存しようとする電力会社とそれにお墨付きを与える原子力委員会など原子力発電所について改めて考え直す必要があること突き付ける映画だ。

「太陽の蓋」 3・11東日本大震災から10年、原発事故の激動の5日間をリアルに再現
トークイベントを行った室氏佑月㊨と橘民義氏(東京・渋谷区のユーロスペース)

■トークイベントで室井佑月氏「責任者である人たちがいい加減」

公開初日の2月27日にユーロスペースでトークイベントを行った作家でタレントの室井佑月氏は、この映画を見るのは4回目だという。製作の橘民義氏に感想を聞かれて「一番びっくりしたのは、原発ってかなり高度なことをやっているから世の中の一番の知識とか知恵を持ってる人が確実に管理してやってるものかと思っていたんですけど、映画の中でも出てきますけど結構なんていうんですか、責任者である人たちがいい加減で、今の世の中のコロナのことでもでもわかったんですけど、そういう感じじゃないですか。今日映画を見て改めて思ったんですけど、3・11の原発の事故の時から、そういうことが私たちに露呈されてきたんじゃないかなって思います」と指摘した。

これを受けて橘氏は「専門家がちゃんとやってればいいんだけど、福島の現場の方は最後まで一生懸命よくやってくれたと思います。しかし、東電の本店は全くそれとは関係なく早く撤退しようとか言ったり、それから役人の立場でもって(原子力安全・)保安院とかで入ってくる人は全く素人だったり、東大経済学部卒だなんて言ったりして、そんなことなんですよね。だから本当に専門家がきちっととやってるというのが一番あるべき姿なのに、そうでなかったという何ともいえない状況だったと思うんですよね」と当時の状況について指摘した。

室井氏は「本当によく覚えてますけど、当時レベル3からレベル7にまで上がるっていうのはすぐわかってたんですよ。それをすぐに発表しなかったわけで、マスコミの偉い人は家族に避難させて、私があの時思ったのは、本当はベントが遅れたのは、海水を入れると容器を扱うのが大変になるからという話が出てきていたんですけど、そういう話が(マスコミに)載る以前の問題で、もうメルトダウンという言葉を使うなとか、放射能という言葉を使うなとか、最初のころはきちんとした厳格な新聞の大手がそうで、それが何でかって考えると、今はわかるんですけど、原発の会社が出版社にすごいお金を広告で出してたからなんですね」

橘氏は「そうですね。そもそもおかしいのは電力会社っていうのは地域独占なんですよね。東京電力しか東京では電気を売ってはいけないと、当時はなっていたんで、本当は宣伝する必要なんかないんですよね、競争がないわけですからね。だけど経費としていっぱい広告費を使ってテレビ局だろうと新聞社だろうと出版社だろうといっぱいお金を出しているのはそういう意図があるんじゃないかと思われてもしょうがないですよ」という。

室井氏は「そうだと思います。その広告っていうのが実は私のところにも何回か来たことがあるんですよ。私は原発関係とかCMはやらないって決めてたのでお断りしてたんですけど、広告の原稿はほかにもいろいろやりましたけど破格でした。バブルの終わりのころの単価で考えてもその2倍なんてもんじゃない。6~7倍」と語った。
「特に東京電力なんて、東京だけでやってりゃいいのに地方の局とかね、そういうところまで平気でコマーシャル出していたんですよね」と橘氏。「どうとも思わないじゃないですか。電気代に上乗せすればいいんで」(室井氏)「そうそう総括原価方式っていうやつでね、とにかくいくら経費が掛かってもいいんですよね。それに乗せて電気代にしちゃうから電気代は上がっていくけど経営は全く困らない。これは誰でも経営できるよね。私も経営者の端くれですけど楽だなあと思います」(橘氏)などと指摘するなど白熱したトークを展開した。
その後、客席で聞いていた室井氏の夫で前新潟県知事の米山隆一氏は橘氏に紹介されて客席からあいさつし、新潟県の柏崎刈羽原発の問題で東電からいろんな説明を受けていたことを明かし原発問題についてコメントした。「福島原発も防護服を着てかなり近くまで見に行ってます。その中で思ったのは偉い人達の建前というのがあって、あれにみんな合わせてるんですね。でも原発事故があって技術者たちがなんか生き生きしているんですよ。今まで嘘ついて安全だといっていたのが、やっと安全じゃないことを前提にして話していて、良かった感が漂ってくる。本当にあれがあるまでは現場の優秀な人たちが、本当はこれ安全じゃねえよと分かりながら、上が安全というから安全にしなきゃいけないっていう前提でやっていた感ががすごく漂っていいた」などと語った。さらに「福島を見に行った時に、ともかく(燃料)デブリの放射線がすごくてロボットが全部死ぬんですよ。放射線があまりにひどくて電子部品が全部ショートしてバタバタとロボットが死ぬという恐ろしい場所だった」などと福島原発の惨状について語った。