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映画「Eggs 選ばれたい私たち」の川崎僚監督インタビュー

 

「エッグドナー」に志願した2人の女性の「産まなくても母になりたい」の真意

(2021年3月29日10:30)

映画「Eggs 選ばれたい私たち」の川崎僚監督インタビュー<br> 
「エッグドナー」に志願した2人の女性の「産まなくても母になりたい」の真意
「Eggs 選ばれたい私たち」に込めた想いを熱く語った川崎僚監督(都内で)

エッグドナーを題材にした映画「Eggs 選ばれたい私たち」が4月2日からテアトル新宿ほかで公開される。子供のいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)に志願した30歳目前の独身主義者の女性とレズビアンの女性の対照的な2人の女性を通して、社会から求められる女性像と実像のずれに悩みながらも「母になりたい」と願う女性たちを自身の体験を交えながら等身大に描いた。川崎僚監督はインタビューで、エッグドナーの問題や女性の生理についての赤裸々な描写の意図などについて大いに語った。以下、川崎監督との一問一答。


――この作品を企画することになったきっかけやテーマとは?

川崎 「新聞で卵子提供を受けてお子さんを授かって育てていますよという記事を拝見したんですね。社会全体で子供をっていう時代での新しい形の選択肢の一つだなと思って、私はとても肯定的にとらえていたんですけど、ネットではバッシングがすごかったんですよ。血がつながってないじゃないか、そんなの親子じゃない、みたいな。それに凄くびっくりして違和感を覚えたんですね。なんで、誰も不幸になっていない制度なのに、人の価値観を第三者が傷つけて、それがいいものなのか悪いものなのか判断を下そうとする、勝手に白黒つけようとすることに凄く違和感を覚えたんです。それと同時に、卵子提供者って誰なのかなってすごく不思議に思いました。姉妹なのか親族なのか、もしかして友達だったり、全然知らない人なのかなあって。そこから調べていって初めてエッグドナーっていうドナー制度があることを知って、とても驚きました。ああ、こういうのがあるって知らないで30歳間際まで過ごしてきたけど、たぶん20代の若い子も今できるのに知らないんですよね。若いうちにこのことを知っていればドナーになれるのに、選択肢として知らないっていうことにびっくりして。その時私は結婚もしないし子供産まないっていう人生の選択をしていて、勝手にその時は自分の人生決めつけていて、一生このままだと、一生独身で行くんだと思っていたんです。でも、キャリアウーマンの先輩で、子供を産まなかったことを後悔している方が多くて、それを聞くたびに、私も将来いつかこのまま自分の意思を貫いたら後悔する日が来るんじゃないかとすごく怖かったんですね。社会に産むべきだといわれているのに抗って産まないことに対して何か罪悪感のようなものがあって、社会に攻め立てられている感じがしてたんですね。だからドナー登録をすることである種私が女性としての役割を果たすことで、その罪悪感から解放されるんじゃないかなって。そこに希望を見出して、実際にドナー登録会に参加してみました。最終的に私はいろいろと考えて登録はしなかったんですけど、登録していたらどうなっていたんだろうと思いましたし、私や周りの友達のこの問題に対する本音みたいなものを素直に描きたくって、知ってもらいたいなと思いこの企画ができました」

映画「Eggs 選ばれたい私たち」の川崎僚監督インタビュー<br> 
「エッグドナー」に志願した2人の女性の「産まなくても母になりたい」の真意
「Eggs 選ばれたい私たち」の葵役・川合空㊧と純子役・寺坂光恵(©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会)

――映画では寺坂光恵が演じる独身主義者の純子と河合空演じるレズビアンの葵の2人が、それぞれの思いでドナー登録をするんですけど、監督の考えは、この映画の中の主人公の純子の思いに近いんですか?

川崎 「純子がまさに私そのものだな、と。等身大の自分です」

――もう一人の葵はレズビアンで純子とは対照的なキャラクターで、その2人のドラマがとても面白かったですが、2人を登場させたのはどんな狙いだったんですか?

川崎 「ドナー登録の説明会に行ったときに不安で、どういった方がドナーになるんですかという質問をしてたんですね。そしたら医療従事者の方がいてとか、いろいろな方の話を教えていただけて。その中にレズビアンの方がいたんです。私だったら心と体が一致しなかったら苦しくて悲しむだろうに、その方は女性に生まれた意義を、せっかくだから誰かの役に立てて果たしたい、と。さらに謝礼金をもらってそのお金で性転換手術を受けるんだ、と。とてもポジティブにとらえてドナーに登録して、そして選ばれた人の話を聞いたんですね。なんてかっこいいんだろう、素敵だなと思いました。逆境に負けなくてポジティブで、近くにいたら仲良くなりたいなって思ったんですよね。だから、もし近くにいたらかたくなな主人公の純子にいい化学反応を起こして、素敵な友達になれるんじゃないかなって。いいパートナーシップが築けるんじゃないかなと思って、それでこの2人の物語にしたんです」

――葵に関しても実際にモデルがあったっていうことですね。

川崎 「ただお会いしたことはなくて、そういう人がいたって話を聞いて」

――自身の女性としての経験や体験を織り交ぜながら企画にしたということですね。

川崎 「ドナー登録の説明に行った経験もそうですし、親からのプレッシャーだったりとか同級生の友達の結構つらい話だったりとか、私の経験だし私の友達の物語だし、それを素直に全部さらけ出して、この問題を抱えている女性の気持ちを和らげたいなと思いましたし、何より知らない人に知ってもらいたいなと、理解してもらいたいと思いました」

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「エッグドナー」に志願した2人の女性の「産まなくても母になりたい」の真意
「Eggs 選ばれたい私たち」のポスター

――エッグドナーというのはこの映画で初めて知ったんですけど、日本ではまだ法的な整備がなく、ハワイやシンガポールに行って卵子を抽出するといった問題などが描かれていますけど、エッグドナーの今のそうした現状について、こういうところを改善したらいいんじゃないかという意見はありますか?

川崎 「あります。なぜわざわざ海外に行かないといけないのか。(卵子提供を)希望されているご夫婦がお値段を負担するんですよね。お金がもったいないですし、何よりわざわざ(海外に)行って帰ってくるという時間ももったいない。2,3週間滞在しないといけなくて、私たちドナーは仕事を休んでいくわけじゃないですか。仕事があるから私無理だわっていう人が絶対出てくるんですね。行って何をするかというと、観光して時間をつぶして、たまに検診に行って卵子を抽出するんです。だったら働きながら日本でできるじゃないですか。その方が絶対スムーズだし、選択肢が皆さん広がる。なんで日本はこんなに複雑にしちゃってるのか、もっとシンプルに、お子さんが欲しいという要望に応えられるような制度になればいいなと思います」

ーー第三者の卵子提供によって産んだ子供との親子関係を認めるかどうかという民法上のことがあるので日本では認められないということでしょうか。

川崎 「これは2、3年前に撮った映画なんですけど、やっと今その辺の法的整備もされてきたらしくて、今後は親子関係も認められるようになるそうです。血縁も大切だとは思うんですよ。でも血がつながってないから親子じゃないとかそういうのもすごくナンセンスだなと思います。血がつながっててもうまくいってない家族もいるわけじゃないですか。自分とは違うからと言って、つながってないご家庭を批判する必要はないわけで。お互い違う価値観で生きている人を認めあえれば、そのまま受け入れてあげればいいだけなのになと思います」

――そうですよね。産んだけど様々事情で育てられないから子供を出すというのは認められているわけですものね。

川崎 「そうです。里親制度はあるわけですから」

――エッグドナーのNPOの組織もあるようですね。

川崎 「いろんな団体がありますね。国が仕切ってやってるわけではないので、NPOの団体もありますし、ちょっとビジネスっぽい感じの団体とか、あと病院で説明会をしているようなところとか」

――法整備なり制度などをちゃんと統一した方がいいでしょうね。

川崎 「そうですね」

――主人公の純子が30歳間近で独身主義で「女は結婚して子供を持つのが幸せだ」という世間的な価値感を嫌っているという考え方はどんなきっかけで出てくるんでしょうか?それも一つの考え方だとは思いますが。

川崎 「男性に嫌な思いをしていてっていうのはあるんですけど、結構今の時代独身主義という人は意外と多い気がして。自分で自分に納得するように生きていく中で、パートナーがいない幸せもありますよね。あと20代だから今のうちに結婚をしなければいけない、子供を産まなければいけないというのがほんとにナンセンスだと思います。例えば、わかんないじゃないですか40,50で結婚するかもしれないし、お子さんだって40歳で産む方だってるわけだから、そこを決めつけないでほしいなっていうのがあって。私たちの世代は独身主義ですけどってわざわざいう人はいないけど、今のままでも幸せかなっていう風に独身をゆっくり貫いている方も多くいるなっていう印象はあります」

映画「Eggs 選ばれたい私たち」の川崎僚監督インタビュー<br> 
「エッグドナー」に志願した2人の女性の「産まなくても母になりたい」の真意
川崎僚監督

――そして、純子が葵からナプキンの借りることをめぐるやり取りのシーンがとても印象的で、葵が「1パック10枚入りが298円だから(1個)30円」と請求するシーンは笑ってしまって、まあ笑っている場合じゃないんですけど」

川崎 「そうですね。その通りなんですけど」(笑い)

――あのへんはすごくシビアですよね、女の人ってね。

川崎 「好きで買ってるわけじゃないのに何で税金が10%なんだろうなあとか。結構人によって個人差があって数とかも違いますけど、毎月絶対かかる必要経費で、結構な年数かかるわけですよね、だから国によっては最近生理用品は無料になりましたとかありますけど(スコットランドが昨年11月世界初の生理用品無料化)、そういうのも日本は全然ないし、消費税が変わったときに新聞は(軽減税率の対象で)8%なのになんで生理用品は10%なんだという話がありましたよね。おかしいなと思って。私たちには結構切実な問題ですね」

――健康保険が適用されてもおかしくないですよね。

川崎 「そうですよね、血が出てますからね。確かに言われればそうかもしれない」

――その辺はやっぱり女性は大変なんだなっていうのを改めて映画を見て思いましたね。

川崎 「そう言ってもらえるのはとてもうれしいです。知らないのが一番よくないと思って。日本では生理を日本はタブー視していると思うんですけども、する必要はないと思います。やましいものではないというか、下ネタではないわけですからね。それなのになんか言いづらいみたいのがあって、男性はよくわからないで、何かそういうのがあるっぽいぞと、そして生理用品のきれいなCMとかを見てて、女性がちょっとイラついただけで『生理か』とか言われたり(笑い)。いや、そうじゃないんだよっていうところをちゃんと知ってもらってお互い理解し合うのがベストだなと思うから。生理用品を下着にああやってつけてるのは男性は知らないだろうなと思って」

――(映画の中に純子がトイレでナプキンを装着するシーンがある)初めて見ました。

川崎 「だから逆にそこを私は描きたかった。省略しないで、こうつけてんだよ私たち、トイレに血が流れるんだよとか、スカートが汚れちゃうんだよとか知ってほしかった」

――あのシーンは目から鱗というか、今まで映画の中でああいうシーンは見たことなかったですね。

川崎 「私も見たことがなかったです」

――それと葵が、15歳から閉経するのが50歳としたら、1日4回取り換えるとして「35万2800円の無駄」というセリフがありましたが、この映画のタイトルが最初は「Wasted Eggs」で「無駄な卵子」だったということで、やはり無駄だと?

川崎 「子供を産むために必要なものが生理なので。人にもよりますけど、生理痛って本当に痛くて大変で、服が汚れたりとか本当に面倒くさいものなんですよね。子供を産まなきゃ意味がないものなのでやっぱり無駄だなと思いますし。子供を作るための部屋が剥がれ落ちていくのを毎月見ていると、私はこれからずっと無駄にこれを繰り返すんだなっていう劣等感のようなものがあって。だから当時の自分は、子供が産めるのに産まないと思いました」

――この映画でエストニアのタリン・ブラックナイツ映画祭とイタリアのレッジョ・エミリア・アジア映画祭に参加して国際映画祭にデビューしましたが、現地での反応はどうでしたか?

川崎 「すごく好意的な反響で、日本の中の小さな物語ではあるんですけど、テーマはグローバルだってプログラマーの方に言っていただきました。女性のお客さんが多かったんですけど男性のお客さんも自分の問題だといってくださって、すごく関心を持っていただきました」

――エストニアとイタリアの反応の違いとかはありましたか?

川崎 「イタリアは現地に行けてないので分かりませんが、エストニアでは日本のこういった映画が上映っされるのはとても珍しいことみたいで、たくさんの方から興味を持ってもらえました。自分たちに通じる普遍的なテーマと、日本独特の風潮を描いた描写を楽しんでいただけました」

――葵は従姉の純子に「ちゃん付けはやめて」というシーンが何回かありましたが、あれは自分を女の子のように見ないでほしいということですか?女の子が好きなレズビアンだということなので。

川崎 「小さいときから一緒にいるから子ども扱いしないでほしいという、要は対等な大人同士で、昔のまんまの自分を、小さいときに女の子っぽい服を着てたりしていた時の自分を引きずらないでほしいわけで、だからやめてって、対等でイーブンで、お互い弱み(母親に黙ってエッグドナーに応募したり独身主義やレズビアンについても言っていない)を握り合っているわけでしょっていうところで」

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「エッグドナー」に志願した2人の女性の「産まなくても母になりたい」の真意
卵が割れるシーン(©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会)

――映画の中でボールに入れた卵をかき混ぜる音が効果的に使われていましたがあれはどんな狙いがあったんですか?

川崎 「私自身、当時30歳を迎えるまでタイムリミットを設けられているような気持ちで。ずっと時計の針に時間に追われているような気持ちになっていたんですね。それを表現したかったんですけど、その気持ちって人によって個人差があって、時計の秒針のように常に一定ではないわけですよ。焦りから解放される時まですごくせめ立てられるときもあって、その不規則な音を求めていて。その時に卵子から卵と連想していって。卵をかき混ぜる音がすごく私たちの強迫観念を表している感じがして。これは映画なので言葉だけではなくてスクリーンの音でも感じてほしかったので、あの音をとても大切に使いました」

――それと波打ち際を歩くシーンが何回か出てきますが、あれはどういう意図があったんですか?

川崎 「私は大分県の生まれで海が近くにあったんです。地元の意味もあるんですけど、母なる海というかすべてを包みこんでくれるお母さんだと思っていて。波打ち際を漂うことによって、母になるのかならないのかというせめぎの場所に彼女がいるという表現でもあって、それで心の揺らぎ、遺伝子上の母親になるのか、本当になりたいのかっていう、私は自分の力でほんとはいつか将来産みたいんじゃないかっていう悩みの表現ですね」

――それとブラックアウトするシーンの時間が普通の映画よりちょっと長かった感じがしましたがあれは何か意図があったんですか?

川崎 「そうですね。無意識に作っていた間なんですけど。三木孝浩監督からコメントをいただいたんですが、ブラックアウトの表現に触れてくださっていて、『日常にある小さな「死」』と放言していました。確かにそうかもな、と。お客様に心地よく気持ちを消化しながら見てほしくって間を作ってるわけですね。だから無意識で彼女の心がぐっと来ているところの間を自分でブラックアウトで作っていたんだと。日常でただ生きているだけなのにすごく否定された気持ちになって心が死んでしまう瞬間みたいなものが日常に多かったよなというのがあってそれでなのかな」

――監督はプロデユーサーから脚本、監督、編集、それに衣装まで担当されていて大変だったんじゃないですか。

川崎 「めちゃくちゃ大変でした。自社映画でお金がなかったのでいかに安く作るかっていうと、人件費を削るしかないんですね。そうすると全部自分でやってしまうのが一番手っ取り早くて、その代わり自分で準備期間を丁寧にとって準備してきたんですけど、自主映画ならではのクレジットになっていて。私の名前がエンドロールに何度も出てくるという(笑い)」

――衣装っていうのも担当で。
川崎 「そうですね恥ずかしいからクレジットを削っておけばよかったなと思いながらも…」

――いや、手作り感があってよかったと思いますけど。
川崎 「私の私物と女優さんの私物を使って、ちょっとだけ買い足したんですけど」

――それと純子が言ってるんですけどエッグドナーに応募したことについて「結婚しないで子供産まないで、このまま独身貫いて、ある日ふと子供がいたらなあっていう後悔。自分が産まなくてもいいからどっかに自分の血を分けた子供がいると思ったら、後悔が和らぐ気がするの。自己満だね」と言ってます。葵も、レズビアンで女の子が好きで、「女に生まれてきちゃった意味みたいなものがエッグドナーになったら見いだせるような気がして」といって彼女の「ボランティア精神とかじゃなくて、自己満ですね」と言わせてます。そこはどうなんですか?

川崎 「ドナーっていうととても神々しいというか、奉仕精神にあふれた素晴らしいシステムだと思うじゃないですか。実際そうだとも思うんですけど、登録している人自身がどう思っているか、最初に見た新聞記事もそうですけど、ドナー提供を受けた側の話であって提供する側の話は出ていなくて、ぱっと見聞きしたイメージではなんかすごい奉仕精神溢れる素敵な人なんだなって思うと、自分とはかけ離れたすごい人だと思われてしまいそうで。いやいや皆さんと同じ立場の人なんですよって。ただ誰かのためにではなく自分がやりたくてやってるんだ、そこが自己満なんだっていう意味で使っていて、だからお客さんに彼女たち2人を特殊だと思ってほしくなかったんですよね。身近に感じてほしくてというのもありますね」

――次回作の予定とか構想とかありますか?

川崎 「まだ頑張って練っているところなんですけど、フェミニズムを私たちはき違えちゃってるなって思うんですよね。フェミニズムって女性を優遇することではなくて、男女ともに対等でフラットでいましょうっていう話なのに、これだから男はとか、もっとこうして!こうあるべきだ!みたいな。私たち女性も今までいろんな嫌な思いをしてきたフラストレーションなのか、反動ですごく過剰になってしまっていることがある気がして。でも目の前にいる人が男性か女性かということでその人決めつけちゃいけないし、それは年代も国籍も全部そうだと思うんですよね。目の前の人をそのままフラットに見つめてほしいし、男はどうせそうだと思い込んでほしくない。だからそのはき違いというか、過度なフェミニズムみたいなものに対して、ちゃんと正しい価値感をわかってほしいというか、フラットになってほしいというそういう企画を作れたらいいなと思います」

――今コロナ禍で映画製作は大変だと聞きますが実感されますか?

川崎 「まわりの友達がコロナでどんどんお仕事がなくなっていって、映画館も補填がないのにレイト上映をできないわけですよね。実際にこの映画も緊急事態宣言を受けて、一度延期になりました。とても苦しいなって思っていて、でもその中でも、柔軟に前を向いてやり続けている人は絶対いて。例えばリモートで映画撮影や舞台挨拶をしようという方もいるから、やり方はたくさんある気がするし。それに一生この状態じゃないと信じたいじゃないですか。元どおりの日常が帰ってくるまでお休みするのもありだと思うので、短期的にとらえないで長期的に考えていけたらいいなと思います」

映画「Eggs 選ばれたい私たち」の川崎僚監督インタビュー<br> 
「エッグドナー」に志願した2人の女性の「産まなくても母になりたい」の真意
「映画で自分の問題を描くうちにすごく気持ちが消化されていって」と語る川崎僚監督

――恋愛に対する考え方とかはどうですか?

川崎 「この映画を作ったときはちょっと男なんてくそくらえって思ったときもあったんですけどね。映画セラピーって私は言ってるんですけど、映画で自分の問題を描くうちにすごく気持ちが消化されていって、例えばこの映画を支えてくれたスタッフの方にも男性がいてすごくみなさん素敵な人たちなんですね、だから私が性別で区切ってしまっていた時期があるんだなってすごく気づかされて、今はフラットな状態になってて。とても気持ちが解き放たれてて、でもだからって絶対恋愛しなきゃいけないとは思ってなくて、なんていうんですかね、今の自分でも幸せだし、パートナーがいる自分もそれはそれで別の幸せがあって、それぞれの幸せに優劣があるわけじゃないんだなって思ってるんで。正直どっちでもいいんだって思ってます。素敵な人がいたらその時考えればいいかなと、自分で自分の未来は決めつけないでいたいなって思っています」

――なるほど。あと、趣味とかはどんなことですか?

川崎 「映画鑑賞と、あとジムに行ってます。意外と最近運動が好きになって。映画って体力勝負なんですよね。体力をつけないと今後商業の世界で勝負していけないなと思って始めたら、すごく楽しくて。今まで文科系だったんですけど、体育会系の方たちの魅力というか、昔はたぶんどうせこの人はこうだってとらえちゃっていたから、自分の価値観と違う人を素直に面白いとか素敵だとか思えなかったんだと思うんです。それがすごくフラットに見えるようになったら、パーソナルジムの先生が今度ボディビルの大会に出る話を聞いて、楽しそうだなとか思えるようになりました。なんか自由になったというか、スポーツも昔はいやいややっていたのが、学生時代とは違って今は楽しんでやれててなんか視野が広がった感じです」

――最近気になった映画ってありますか?

川崎 「いろいろあるんですけど、観た映画っていうことですよね。たくさん観てて悩むなあ。『チャンシルさんには福が多いね』と『82年生まれ、キム・ジヨン』がすごく印象的だったな。『チャンシルさんには福が多いね』は映画プロデユーサーの女性が、監督さんが亡くなっちゃって、仕事を失ってしまって。今まで仕事人間だった彼女がもう1回40過ぎて恋愛するのかしないのか、というお話です。とても共感出来て、「恋愛するのかそうか」ってずっとついて回る問題だけど、やっぱり最後に彼女を救ってくれたのは今まで大好きだった映画だったし、チャンシルさんには恋愛がなかったとしても、お引越しを手伝ってくれたりする素敵な仲間がたくさんいるだけで本当に幸せじゃないですか。あれが本質だなと思いましたし、『82年生まれ、キム・ジヨン』も苦しい描写が続きながらも、私たちのリアルだなと思って、過度にポジテイブにならないところに共感できたというか。こんな厳しい世の中だからこそ変わってほしいよねって。それこそ10年後20年後にあの映画観た人若い人が、『え、こんあことがあったの?ありえない!』って若い子に言ってもらいたいなって言ってもらいたいなって思う、そんな映画でした」

(インタビュアー=阪本)

■映画「Eggs 選ばれたい私たち」

30歳を目前にした独身主義者の純子がエッグドナー(卵子提供者)に志願し、ドナー登録の説明会で偶然従姉妹の葵と再会し、恋人に家を追い出された葵は純子の家に転がり込む。葵はレズビアンだと告白するが純子は気にせず、お互いの率直な思いをぶつけ合いながら、2人の奇妙な共同生活が始まる。エッグドナーに選ばれればハワイやマレーシアなどの海外で卵子を摘出する手術を受け謝礼金がもらえる。数か月でドナーの年齢制限の30歳を迎える純子だが、それでもドナー登録をすることを決め、どちらが選ばれるか不安と期待を感じながら、「遺伝子上の母になりたい」という同じ目標に向かって選ばれるために新しい生活を始めるというストーリー。純子に寺坂光恵、葵に川合空などのキャストで、川崎僚監督の長編映画デビュー作となる。2018年にエストニアの首都タリンで開催された第22回タリン・ブラックナイツ映画祭で日本映画として唯一のコンペティション作品に選出されて国際デビューを飾った。イタリアのレッジョ・エミリアアジア映画祭の正式招待作品にも選ばれた。

■川崎僚監督プロフィール

1986年11月17日生まれ。大分県出身。早稲田大学第二文学部卒業。在学中に演劇。映像の理論を学び、卒業後は女優に。その後、シナリオライターに移行し、プロットライターとして映画・ドラマの企画開発に携わる。2013年4月に映画製作を学ぶためニューシネマワークショップを受講。その後短編映画の監督を続け数々の国内映画祭に参加。2018年、初長編映画「Eggs 選ばれたい私たち」にて、国際映画祭連盟登録のエストニアのタリン・ブラックライツ映画祭に参加。「万引き家族」と共に日本映画代表として紹介され、海外映画祭デビューを果たした。2019年には、文化庁委託業務「ndjc2019:若手映画監督育成プロジェクト」にて製作実地研修監督に選抜された。2020年2月、短編映画「あなたみたいに、なりたくない」が劇場公開された。