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「少年の君」 いじめに苦しむ女子高生と不良少年の出会いと数奇な運命

(2021年7月19日12:00)

「少年の君」 いじめに苦しむ女子高生と不良少年の出会いと数奇な運命
「少年の君」(7月16日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー)

中国の高校を舞台に、過酷な受験戦争のさなかに優秀な成績で大学を目指している主人公の女子高生が、壮絶ないじめにあうなかで偶然知り合った不良少年と心を通わせ、彼に守られながら受験勉強を続けるうちに、ある重大事件に巻き込まれて運命の歯車が大きく狂っていく2人の数奇な青春を鮮烈に描いた社会派サスペンス。中国ではほとんど宣伝が行われなかったにもかかわらず3週連続No.1ヒットとなり、興行収入250億円を記録。香港のアカデミー賞といわれる香港電影金像奨で作品賞・監督賞・主演女優賞など8冠を獲得。第93回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされるなど国際的にも高い評価を得た2019年の中国内陸・香港合作映画。ヒロインのチェン・ニェンには、中国映画界の巨匠チャン・イーモウ監督の「サンザシの樹の下で」でデビューし可憐なヒロインを演じて人気が沸騰し「13億人の妹」と呼ばれた人気女優チョウ・ドンユイ、不良少年を演じるイー・ヤンチェンシーは国民的アイドルで本作で演技派俳優としての地位を確立したといわれる。監督は香港出身で俳優・映画監督として活躍するデレク・ツァン。

■ストーリー

進学校に通う成績優秀な高校生のチェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)は、「高考」と呼ばれる中国の全国統一大学入試を控え、友達もいなく殺伐とした校内でひたすら孤独に勉強する毎日を送っていた。そうしたなか、同級生の女子生徒がクラスメイトのいじめを苦に、校舎から飛び降り自殺する。生徒たちが群がり少女の遺体に無神経にスマホを向けて写真を撮る光景に耐えられなくなったチェンは彼女の遺体にそっと自分の上着を掛ける。それがきっかけでいじめの矛先はチェンに向かっていった。唯一の身寄りである母親はチェンの学費を稼ぐためにいかがわしい化粧品の販売をして借金を抱え夜逃げ同然に家から出てゆく。同級生の3人組の女子生徒のいじめグループからの陰湿ないやがらせや暴行がエスカレートする中、下校途中に集団暴行を受けている少年シャオペイ(イー・ヤンチェンシー)を見かけ、とっさの判断で彼を救ったことから孤独な魂を抱える2人は心を通わせてゆく。チェンは彼にボディガードを頼み、彼に守られながら受験勉強に集中するが2人に思わぬ重大事件が待ち受ける。

■みどころ

北京大学、精華大学など一流大学を目指して受験生がしのぎを削る中国の過酷な受験戦争の実態。さらには、いじめグループがターゲットを定めてSNSで誹謗中傷を繰り広げたり、グループで後ろから飛び蹴りしたり髪の毛をハサミで切るなどの陰湿ないじめの実態。いじめで女子生徒が自殺しても学校は犯人摘発に及び腰で、いじめグループは次のターゲットに向かうといったいじめの連鎖などの実態。さらにはハングレのような不良少年グループを支配するマフィアの男など中国の負の側面がリアルに克明に描かれている。そして不良少年と心を通わせていじめの地獄から脱出して大学に進学しようとする孤独な女子高生をチョウ・ドンユイが繊細にしたたかに演じて圧倒的な存在感を見せている。チョウは本作で第39回香港電影金像奨最優秀主演女優賞、第33回金鶏奨最優秀主演女優賞、第14回アジア・フィルム・アワード最優秀主演女優賞などを受賞した。また、共演のイー・ヤンチェンシーもチェンを最後まで守り抜こうとする不良少年役を熱演している。過酷な現実と試練の中でピュアな想いを貫こうとする2人のドラマは鮮烈で胸を打つ。デレク・ツァン監督の父親は世界的に大ヒットした香港ノアールの傑作「インファナル・アフェア」シリーズなど数多くの香港映画に出演している香港の人気俳優で監督のエリック・ツァンだという。同シリーズに代表される“香港ノアール”のDNAを感じさせるテイストに加えて中国社会の問題に鋭く切り込んだ社会性など様々な要素が詰まった青春サスペンス映画になっている。
(2021年7月16日公開)