第34回東京国際映画祭:コンペ作品「三度目の、正直」上映と質疑応答

(2021年11月3日22:00)

第34回東京国際映画祭:コンペ作品「三度目の、正直」上映と質疑応答
「三度目の、正直」にかけて指を3本立てるポーズをする㊧から野原位監督、川村りら、小林勝行(3日、東京・千代田区の角川シネマ有楽町で)

第34回東京国際映画祭では3日、コンペティション部門に正式出品された日本の映画「三度目の、正直」が東京・千代田区の角川シネマ有楽町で上映され、野原位監督と主演の川村りら、ラッパーで俳優の小林勝行が登壇した。

上映後の質疑応答では、東京国際映画祭プログラミング・ディレクター、市山尚三氏が司会を務め、3人に作品に対する想いなどを聞いた後に客席からの質問を受けた。

野原位監督「こんなにも多くのお客さんに来ていただいて本当にうれしく思っています。今回ワールドプレミアということで初めてお客さんに見せることでとても緊張していました。東京国際映画祭のコンペティションということでありがとうございます。皆さんいかがだったでしょうか少しでも楽しんでいただければ」

川村りら「神戸の小さな街で仲間と一緒に作った映画がこういう場所で上映できて本当に光栄です。ありがとうございます」

小林勝行「本当にありがとうごぜいます。充実しています。ありがとうございます」

司会の市村「この作品は本格的な劇場のデビュー作とうかがっています。監督は濱口竜介監督の『ハッピーアワー』や黒沢清監督の『スパイの妻』の共同脚本を手掛けられたということですが、今回の作品はどれぐらい前から準備されていたのか、その経緯をうかがいたいと思います」

第34回東京国際映画祭:コンペ作品「三度目の、正直」上映と質疑応答
野原位監督

野原監督 「今回脚本は私と川村りらさんと2人でやっているんですけど、この『三度目の、正直』の脚本に関していえば、撮影の直前でも完成していなくて、撮りながらどんどん直してゆくスタイルでやっていました。そこは川村さんが一番大変だったと思うんです。演じながらシナリオを直してと大変な状況だったんですけど、そのおかげで最後まで粘れました」

市村「撮影中に女優をやりながら脚本を書く、かなりハードな撮影だったと思うんですが、大変だったのかあるいはそうでもなかったのかその辺の経験を聞かせてください」

川村「正直なところあまりにも物理的に大変で寝る間もなく、演じている以外の打ち合わせとシナリオの改定に費やせたので、大変だったといえばその辺ですけども、演じることにどのくらい影響しているのかというのは正直今でも自分ではわからなくて。もう少し時間がたってこの映画を見直してみてからどういう作業だったのかなということが分かるかなあと思っています」

市村 「演じるだけでなく脚本もというのはキャスティングの段階ですでに言われていたですか?」

川村 「これに関しては実は別の企画が最初にありまして、その時私は脚本メインで書かせていただくということで、出演としては小さな役だったんですけども、いろいろと変更があって。この脚本で行くとなったときに、このような役回りになったので、自分としては予想外の分量を書くことになりました」

市村 「小林さんは神戸でラッパーとして活躍しているそうですが、今回映画初出演だとお聞きしましたが、監督の方からオファーがあったんでしょうか?」

小林「初出演ではなくてではなくて、僕は音楽活動をしていて光永惇という監督がいまして『寛解の連続』というタイトルなんですが、音楽活動をしててミュージックビデオもリリースされていまして、野原監督がちょっと出てくれたりして仲良くなって、神戸で仲良くさせてもらって、今回演技させてもらったという感じなんです」

第34回東京国際映画祭:コンペ作品「三度目の、正直」上映と質疑応答
川村りら

その後場内からの質問を受けて質疑応答になる。

Q 「あまり役者さんたちが誇張した演技をしてなくて演技らしい演技っていう感じではなかったんですが、監督は各役者さんにどのような演技を求められたんでしょうか」

野原監督 「明確に何かこういう演技をして下さいというのはないんですけど、この映画はご存じの方もいらっしゃると思いますが、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』に出ている役者さんがいっぱい出ていて、小林さんは別ですけど、その多くの『ハッピーアワー』出ていた方たちのベースにあるもの、何か基礎体力みたいなもの、そこに寄せていくというか、皆さん合わせていくような形になった」
「そのときに現場で演出とか動きとかをつけることがメインになりますけど、こういう風に言ってくださいとかはほとんど言わないんです。それは皆さんが演技というか、映画に出演するということを経験されている中で、言葉にはしなくても共通で分かり合えるものが多かったんだと思います」

Q 「撮影についてうかがいたいんですけどもクレジットでみると2人の方、北川(嘉雄)さんと飯岡(幸子)さんの名前が出ていたんですけど、2人で回すことがあったのか、あるいは時間的なところでここまでは1人、ここからはもう1人というやり方をされていたのか」

野原監督 「同じ現場で同時ということではなくて期間で分けていたということです。2019年の9月11月、2020年の1月から2月にかけて2週間ずつ合計6週間ぐらい撮影しましたが、最初の4週間が北川さんが撮影されて。本当はその4週間で終わるはずだったんですけれど撮り切れなかったということがあって、追加でもう2週間だけ撮影となったときに、どうしても北川さんが海外に行かなくちゃいけないということがあって、飯岡さんにお願いしたという形です」
「2人ともとても尊敬しているカメラマンで2人に撮っていただいたのはとても嬉しかったんですが、2人の特性はそれぞれ違う素晴らしい点があるので、それを同じ作品の中で別のカメラマンが途中から撮ってうまくつながるのかということは考えたんですが、お2人ともプロなので全然気にならずつながりました」

第34回東京国際映画祭:コンペ作品「三度目の、正直」上映と質疑応答
小林勝行

Q 「撮影中の小林さんのエピソード、心に残る何かがあったら教えてください」

川村 「小林さんの影響があり過ぎて、いっぱいあるんですけど、とにかく真っ直ぐな方なので、場の空気が変わるんですね。先に小林さんがクランクアップされたときはスタッフも含めて全員“かっつん(小林の愛称)ロス”が起こって、撮影に行くバンの中でずーっと小林さんのCDをかけながら走っている時間がありました」

Q「映画非常に良かったです。『ハッピーアワー』の方が多く出ているということと、小林さんラッパーだということを含めると、基本的にあて書っぽく作ったんですかということと、共同で脚本を書いたということで役割の振り分けみたいなものはあったのかを教えて頂ければと思います」

野原監督 「あて書きではないんですけども、出演されている方たちから遠くないキャラクターにするということは心がけてやったので、近く感じられる部分は多分にありと思うんですが。小林さんはラッパーというところは同じではあるんですけど、結婚して子供がいてというフィクショナルな設定があった時点でそれ小林さんではなく、映画の中の毅というキャラクターになってくるので、似ているようでまた全然違うキャラクターになったんじゃないかと思っています」
川村 「脚本の共同作業なんですけど、皆さん東京から神戸の方に来ていただいているスタッフが多くて合宿状態でみんなで暮らしていたんです。共同生活をしているので時間を問わず空いている時間を使って撮影準備中も撮影期間中も顔を突き合わせて改稿作業をしていて、お互いの空いている時間に書いたものを相手に渡してそしてまた直してもらうということをずっと繰り返していました」。

野原監督 「こういったやり方は必ずしも2人で望んでやったというわけではなく、もちろん最高の面白い状態に脚本が出来た上で望めたら一番よかったんですけど、そういう状態にならなかった、その状況の中で一番やれる最善の方法という感じになりました」

「三度目の、正直」の内容
月島春(川村りら)は、パートナーの連れ子・蘭がカナダに留学し、言い知れぬ寂しさを抱えていた。そんな時、公園で記憶を失くした青年と出会う。過去に流産も経験している春は、その青年を神からの贈り物と信じ、今度こそ彼を自らの傍で育てたいと願う。一方、春の弟・毅(小林勝行)は音楽活動を続けている。その妻・美香子(出村弘美)は精神の不安を抱えながら、4歳の子を育て、毅の創作を献身的に支えていた。それぞれの秘めた思いが、神戸の街を舞台に交錯する。
「三度目の、正直」は2022年1月下旬、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開される。

(第34回東京国際映画祭、開催期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月) 会場:日比谷・有楽町・銀座地区 公式サイト:www.tiff-jp.net)