「空母いぶき」 自衛隊の航空母艦が敵の攻撃を受けて防衛出動する緊迫のドラマ

(2019年5月29日)

空母いぶき
「空母いぶき」(TOHOシネマズ渋谷)

かわぐちかいじ氏の同名コミックが原作で、フィクションでありエンターテインメントだとはいえ、現実の防衛問題とリンクするところが多く、外部からの武力攻撃が発生したときなどの自衛隊の防衛出動がいかにセンシティブな問題であるのかを改めて考えさせられる映画だ。

そう遠くない近未来のクリスマスイブ前日の12月23日未明、沖ノ鳥島の西方450キロの波留間群島の初島に国籍不明の武装集団が上陸。日本の領土が占領されてしまう。海上自衛隊は直ちに訓練航海中の第5護衛軍団に出動を命じる。その旗艦は自衛隊初の空母「いぶき」だった。

現場海域に急行すると、いきなり敵の潜水艦からミサイル攻撃を受け、敵空母も出現して日本政府は戦後初となる「防衛出動」を発令。迎撃ミサイルを発射し、いぶきから発艦した戦闘機が敵戦闘機とバトルになるなど”戦闘状態“がエスカレートしていく。戦闘シーンはリアルで緊迫感があり、戦闘行為をめぐって強硬派の艦長・秋津1佐(西島秀俊)と穏健派の副長の新波2佐(佐々木蔵之介)の対立、敵から攻撃され対応する戦闘機アルバトロス隊の隊長(市原隼人)と隊員の柿沼(平埜生成)、首相官邸での激論、取材でいぶきに乗船していたネットニュースの女性記者(本田翼)と新聞記者(小倉久寛)がその時とる行動などなど、緊迫のドラマが続く。

気になったのは初島を占領する「国籍不明の武装集団」の正体だ。日本の領土の小さな島を武力で占領しようとする目的は何だったのか。中国は尖閣諸島の実行権を主張して監視船による領海侵犯や航空機による領空侵犯を繰り返しているが、いきなり武力で占領するとは考えにくい。映画では「東亜連邦」という名前が出てくるがここが荒唐無稽な感じもした。といってもこの映画はドキュメンタリーではなくフィクションなのだが。

だが「いぶき」は空母に改修することが決まっている海上自衛隊の護衛艦「いずも」を連想させる。「いぶき」は戦闘機が発艦しやすいように前方がせりあがった甲板を備えていたが、「いずも」も現在平らな甲板を似たような甲板に改修するといわれている。

来日したトランプ米大統領が28日、海上自衛隊横須賀基地を訪れ停泊中のいずも型護衛艦かがを視察し、米軍兵士と自衛隊員を前に行ったスピーチで、日本が米国から最新鋭ステルス戦闘機F35を105機購入して同盟国で最大の保有国になると賞賛して「日米(軍事)同盟の強化につながる」とF35の”爆買い“に感謝した。そうしたなか琉球新報は「このステルス戦闘機F35。沖縄の米軍基地では既に海外や県外の米軍基地所属機が飛来し、最近は宜野湾市の普天間飛行場周辺で『人間の聴力の限界に迫る』と表現されるほどの騒音をとどろかせています」(28日付け電子版)と報じているのも見過ごせない。

現実とフィクションが入り混じって突っ込みどころ多い映画「いぶき」だが、平和のためにいかに戦争を避けるのかがテーマにもなっているように見えた。いずれにしても戦争や自衛隊や憲法について改めて考えさせてくれる映画であることは間違いない。

佐藤浩市がこの映画で演じた総理役について語ったコメントが一部で波紋を呼んだが、確かにそれらしきシーンはあった。トイレから出てくるときに顔をしかめているほんの一瞬のシーンで、あの発言騒動を知らないと気が付かないほどのものだった。全体的に見て敵の攻撃に政府内の強硬派が反撃を強く主張する中はっきりした意見は言えず、逃げ腰になりながらも戦争に突入する最悪の事態を避けようとする総理を、自身のポリシーを反映させつつ巧みに演じていたような印象だった。先週末の観客動員数で「コンフィデンスマンJP」(2週連続1位)に続く2位の好スタートとなったが、あの騒動が宣伝に一役買った可能性も捨てきれない?(2019年5月24日公開)