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福島第一原発事故の現場作業員の壮絶な闘いと事故の真相

(2020年3月7日)

福島第一原発事故の現場作業員の壮絶な闘いと事故の真相
「Fukushima 50」 (TOHOシネマズ六本木ヒルズ)

2011年3月11日の東日本大震災で発生した巨大な津波に襲われた福島第一原子力発電所が全電源を喪失して冷却不能になり、メルトダウンなどの未曽有の危機を迎える中、現場で作業にあたった約50人の「Fukushima50」の決死の闘いを描いたドキュメントタッチの作品。福島第一原発の名物所長・吉田昌郎に渡辺謙、原発1、2号機当直長・伊崎利夫に佐藤浩市のほか、吉岡秀隆、緒方直人、火野正平、平田満などの多彩なキャストで、監督は「ホワイトアウト」(2000年)、「空母いぶき」(2019年)などの若松節郎。門田隆将のノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」が原作。

■ストーリー

マグニチュード9.0、最大震度7の巨大地震により発生した10メートルを超す巨大津波が福島第一原発を襲い、多数の設備が損傷し全電源が喪失するSBO(ステーションブラックアウト)になる。原子炉を冷やせなくなり、メルトダウン(炉心溶融)の大惨事の危機を迎える。1,2号機当直長の伊崎(佐藤浩市)ら現場作業員は、原発内に残って、中央制御室にいる吉田所長(渡辺謙)と連絡を取りながら原子炉の制御に奔走する。全指揮をとる吉田は部下を鼓舞しながら、現場の状況を把握できずに場当たり的な指示を繰り返す本店(東京電力本社)や官邸に怒りを募らせる。そうしたなか、ヘリによる空からの放水などを試みるが事態は改善せず、作業員たちが原子炉内に突入して決死のベント(原子炉格納容器の圧力を下げるため、弁を開けて容器内の機体の一部を放出する作業)の作業が行われる。

■見どころ

福島第一原発の大惨事は記憶に生々しい。ベントで大量の放射性物質が大気中に放出され、原子炉がメルトダウン(炉心溶融)を起こし、さらには水素爆発を起こして原子炉建屋が吹き飛ぶテレビのニュースの映像に日本列島が震撼した。その現場に残って被害を最小限に抑えるために決死の活動を繰り広げ、海外のメディアから「Fukushima50」と呼ばれた作業員らの現場での作業が生々しく描かれている。

また、当時の首相(佐藤史郎)が突然ヘリで現場を訪れたために原子炉の冷却作業が一時中断されるなど、官邸の場当たり的な対応に現場が困惑する様子や、「本店」(東電本社)の現場を無視した指示に吉田が激高する様子なども描かれている。渡辺謙が吉田所長(2013年、食道がんのため58歳で死去)を熱演。また佐藤浩市が現場の指揮をとる伊崎役で存在感を見せているほか、吉田秀隆らが迫真の演技で原発内のパニックと決死の作業を演じている。

1986年のチェルノブイリ原発事故以来最悪とされる大惨事が一体なぜ起きたのか。同事故で業務上過失致死罪で強制起訴された東電の旧経営陣3人の裁判では昨年9月、東京地裁が「旧経営陣3人が巨大な津波の発生を予測できる可能性があったとは認められない」として無罪判決を言い渡した。では47万人が避難を余儀なくされ、高濃度汚染水の海中流出や、2016年に報じられた1368人に上る「原発関連死」など未曽有の被害をもたらした福島原発事故の刑事責任は誰がとるのかなど、原発をめぐるさまざまな問題について改めて考えさせられる映画だ。
(2020年3月6日公開)