Plusalphatodayツイッター

「WAVES/ウェイブス」 若者たちの愛と挫折と再生のドラマを鮮烈に描いたニューウェーブ・シネマ

(2020年7月06日11:50)

第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞した「ムーンライト」(2016年)などの斬新な作品を製作してきた「スタジオA24」の最新作。高校生の主人公の壮絶な人生と彼を取り巻く恋人や家族の崩壊と再生への希望を描いた作品。フランク・オーシャンやケンドリック・ラマー、カニエ・ウェストなどトップアーティストの曲が全編に流れ、斬新なカメラワーク、映像で見せる。監督は「イット・カムズ・アット・ナイト」(2017年)などの新進気鋭の監督レイ・エドワード・シュルツ(31)。

■ストーリー

高校生のタイラー(ケルヴィン・ハリソン・ジュニア)は高校のレスリング部のエリート選手で、厳格な父親ロナルド(スターリング・K・ブラウン)の期待を一身に集めて練習に励んでいたが、ある日肩の負傷が発覚し、医師からすぐに手術をしないと選手生命は断たれると宣告される。それを隠して試合に出場して肩に致命的なダメージを背負い、失意のどん底に落ちる。そうしたなか、恋人のアレクシス(アレクサ・デミー)が妊娠。中絶を望むタイラーと産もうとするアレクシスが激しくケンカして破局してしまう。タイラーは酒とドラッグに走り、アレクシスとよりを戻そうとして彼女が参加していたパーテ―会場に乗り込んで惨劇が起きる。
1年後、タイラーの事件で家族はバラバラになり、失意のどん底で殻に閉じこもる妹のエミリー(テイラー・ラッセル)の前にタイラーの事件を知りながらも彼女に好意を寄せる不器用な青年ルーク(ルーカス・ヘッジス)が現れ、やがて2人は恋に落ちてお互いの問題をさらけ出しながら再生へと踏み出していく。

■見どころ

少女が自転車に乗って道を走りながらペダルに足をかけて立ち上がって気持ちよさそうに両手を広げるファーストシーンや、タイラーが友人たちと車に乗り音楽に身をゆだねる様子をカメラを360度回して映していくシーン、タイラーとアレクシスの恋人カップルの会話や愛の交歓シーンなど、斬新なショットと映像美と主人公たちの心情を歌うような楽曲を絡めた映像の連続で、予想外の「WAVE」の鮮烈な世界に引き込まれる。
肩の故障が発覚してからのタイラーの焦りと挫折。恋人の妊娠をめぐるけんかと暴走など破滅へと進む前半はヘビーな展開が続く。そして、後半は妹がストーリーの中心になり、青年との恋と、バラバラになっていた家族の再生への希望が見えてくるポジテイブなシーンになる。濃密な展開が続き最後まで目が離せない。ケンドリック・ラマー、フランク・オーシャン、レディオヘッドなどの曲がふんだんに使われてドラマを盛り上げている。
トレイ・エドワード・シュルツ監督は名匠テレンス・マリック監督に師事して腕を磨いたというが、マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」の独特の作風の影響も感じさせるシーンもあった。予想外の映画体験をもたらすこの作品はのハリウッド映画の文法を越えたニューウェーブ・シネマといえそうだ。 (7月10日公開)