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「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」 神父による児童虐待事件の深層に迫った迫真の作品

(2020年7月19日22:00)

「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」 神父による児童虐待事件の深層に迫った迫真の作品
「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」 (新宿シネマカリテ)

フランスで実際にあった神父による児童虐待事件を映画化したドキュメントタッチの映画。80人以上の被害者が名乗りを上げ、告訴されたプレナ神父の裁判は現在も進行中。ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞したほか、被害者を演じたメルヴィル・プポー、スワン・アルロー、ドゥニ・メノーシュの3人がフランスのアカデミー賞といわれるセザール賞の助演男優賞にノミネートされアルローが受賞した。本国フランスで91万人を動員する大ヒットを記録した。監督は「8人の女たち」(2002年)や「17歳」(2013年)などで知られるフランス映画界の鬼才フランソア・オゾン。

■ストーリー

妻と子供たちとフランスのリヨンに住むアレクサンドル(メルヴィル・プポー)は、幼少期の自分を性的に虐待したプレナ神父がいまだに神父として子供たちに聖書を教えていることを知り、家族を守るため告発に踏み切る。既に時効になっているため警察ではなく、教会に訴えるが期待外れの対応しか得られなかった。それでもあきらめなかったアレクサンドルは警察に匿名で告発。時効前の被害者フランソワ(ドゥニ・メノーシュ)を探し出し、最初は断られるが告発を決意したフランソワがテレビで告発したのがきっかけで、長年1人で傷を抱えていたエマニュエル(スワン・アルロー)ら次々に被害者が名乗り出て、被害者の会が設立され、プレナ神父を告訴する。

■見どころ

幼少期に受けた性的虐待が大人になってからも消えず、トラウマとなって精神的な傷に苦しむ様子が克明に描かれ、幼児に対する性的虐待がいかに重大な犯罪なのかが浮かび上がる。またその犯罪に手を染めたのが神に仕える神父とあって罪深さは倍増する。小児性愛の病気として配置転換するだけで事件を隠ぺいしようと画策する教会の対応も描かれる。アレクサンドルが孤軍奮闘する前半の重苦しい展開。そして時効前の被害者フランソワが見つかり説得されて告発を決意してからまるでドキュメント映画のようなリアルで緊迫した展開が続きスクリーンに引き込まれる。被害者の会が全員同じ考えではなく、意見の食い違いも生じる様子や、告発をめくって家族の愛と支援だけでなく、家族の中での対立なども描かれ事件がもたらした深刻な人間ドラマに迫っている。

神父による幼児虐待事件を題材にした映画といえば、米マサチューセッツ州ボストンの日刊紙「ボストン・グローブ」の調査報道チーム「スポットライト」の記者たちが、粘り強い取材でカソリック教会の隠蔽や圧力をはねつけて数十人の神父による子供への性的虐待をスクープするドラマを描いた「スポットライト 世紀のスクープ」(2015年)があった。これも実際にあったカソリック司祭らによる少年たちに対する性的虐待事件を題材にしたもので同作は第88回アカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した。(2020年7月17日公開)