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「朝が来る」 特別養子縁組を選択した夫婦と産みの母親の葛藤と希望

(2020年10月25日11:00)

「朝が来る」 特別養子縁組を選択した夫婦と産みの母親の葛藤と希望
「朝が来る」(TOHOシネマズ六本木ヒルズ)

直木賞作家・辻村深月氏の同名小説を永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子らのキャストで川瀬直美(監督・脚本・撮影)が映画化した。子供に恵まれず特別養子縁組をした夫婦と、中学生で妊娠して子供を手放した女性のそれぞれの人生を描いた作品。新型コロナ感染拡大で通常通りの開催を断念したカンヌ国際映画祭が、来春までに劇場公開が予定されている作品の中から部門の区別をせずに選出したカンヌ国際映画祭公式選出作品「CANNES 2020」に選ばれた。


■ストーリー

栗原清和(井浦新)と妻の佐都子(永作博美)は、子どもを持とうとするが妊活がうまくいかずあきらめかけていたときに、特別養子縁組という制度があることを知り、ボランティアで特別養子縁組を仲介している団体の代表・浅見静恵(浅田美代子)の紹介で男の赤ちゃんを迎え、朝斗と名付けて育て幸せな生活を送っていた。そうしたなか、中学生で子供を産んで手放さざるを得なくなった生みの母親の片倉ひかり(蒔田彩珠)を名乗る女性から電話があり「子どもを返してほしい。それがだめならお金をください」という。栗原夫婦は、子供を受け取ったときに会った当時14歳のひかりがそんなことをするはずがないと思うのだったが、いったい何者なのかと謎めいた展開になっていく。

■見どころ

1997年、「萌の朱雀」で第50回カンヌ国際映画祭のカメラ・ドール(新人監督賞)、2007年、「殯の森」で第60回カンヌ国際映画祭のグランプリ、2009年、第62回カンヌ国際映画祭で映画祭に貢献した「金の馬車賞」、2017年、「光」が第70回カンヌ国際映画祭のエキュメニカル審査員賞を受賞し、第66回同映画祭のコンペティション部門の審査員を務めるなど同映画祭の常連になっている川瀬監督の注目の最新作。
前半は子共ができない夫婦の葛藤や特別養子縁組で赤ちゃんと巡り合う喜び、平和な一家の日常などが描かれるが、生みの親のひかりを名乗る女性が夫婦の前に現れてからは一気に緊迫した展開になってゆく。そしてひかりが同じ中学の男子生徒と恋をして妊娠するいきさつが描かれ、浅見が運営する施設に入り出産するが子供を手放さざるを得ず、家族から離れて孤独ですさんだ生活を送る様子が描かれていく。手持ちカメラで夫婦やひかりを追うシーンや、風に吹かれて木々が揺れざわめくシーンなど川瀬監督独特のタッチで、それぞれの登場人物の表情や心の動きを繊細にとらえて描写していく手法にスクリーンに引き込まれてゆく。そして栗原夫妻とひかりの想いが絡み合いエモーショナルなラストが待ち受ける。
(2020年10月23日、全国で公開)