Plusalphatodayツイッター

「すばらしき世界」役所広司が出所して社会復帰を目指す元殺人犯の苦闘を熱演

(2021年2月13日20:45)

「すばらしき世界」13年の刑期を終え社会復帰を目指す元殺人犯の苦闘
「すばらしき世界」(©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会)

「ゆれる」(2006年)や「ディア・ドクター」(2009年)などで数多くの映画賞を受賞している西川美和監督の最新作。直木賞作家・佐木隆三の1990年のノンフィクション小説「身分帳」を原作に、時代設定を現代に置き換えて、実在の元殺人犯三上正夫が社会復帰を目指して苦闘する姿を彼を取り巻く人々との交流をからめて描いたヒューマンドラマ。主人公の三上に役所広司のほか、仲野大賀、六角精児、北村有起哉、長澤まさみ、安田成美、梶芽衣子、橋爪功、白竜、キムラ緑子らが出演している。

■ストーリー

殺人を犯し13年の刑期を終えて旭川刑務所から出所した三上正夫(役所広司)は、上京して身元引受人の弁護士、庄司勉(橋爪功)とその妻、敦子(梶芽衣子)に温かく迎えられる。今度こそ堅気になると社会復帰を目指すが、頭に血が上りやすい性格で、アパートの階下の住民たちが夜中まで騒いでいるのに怒り、部屋に乗り込んでリーダー格の男に啖呵を切って脅すなどなどしていた。そうしたなか、TV制作会社を辞めて小説家を目指す津乃田龍太郎(仲野大賀)とTVプロデュ―サーの吉澤遥(長澤まさみ)が、前科者の三上が心を入れ替えて社会に復帰し、生き別れた母親と感動の再会を果たすという”ストーリー“でドキュメンタリー番組を制作しようとする。三上も承諾して津乃田と吉澤は三上に密着してカメラを回し続けるが、一方で受刑者の経歴などを詳しく記録した刑務所の「身分帳」を書き写した三上のノートには彼の生い立ちや殺人を含む前科10犯の犯罪歴がびっしりとつづられていて津乃田を驚かせる。三上はスーパーで店長の松本(六角精児)から万引きを疑われてまた逆上するが、松本に車の免許を取れば仕事を紹介すると思いのほかに温かい言葉をかけられ喜ぶが、服役中に運転免許が失効しておりゼロから取り直さなければならないと女性警官に冷たくいわれ、またしてもカッとなって声を荒げたりする。一発合格を目指して教習所に通うが指導教官があきれるほど荒っぽく免許取得は絶望的に見えた。そうしたなか、吉澤に「三上さんが壁にぶつかったり、トラップにかかりながらも更生していく姿を全国放送で流したら、視聴者には新鮮な発見や感動があると思うんです」などといわれ、その気になるが、その帰り道にチンピラ2人が通行人を脅しているのを見て怒り狂暴になって2人を叩きのめしてしまう。就職もままならずついには九州の兄貴分(白竜)を訪ねて歓迎される三上だったが…。

■見どころ

映画が進むにつれてタイトルが気になった。「すばらしき世界」はこの映画のどこにあるのだろうかと思った。職探しはうまくいかず、社会から取り残されてゆく。義理人情に厚く、時に人懐っこいところも見せるが、直情型でキレやすく、今どきの言葉で言えばアンガーマネージメントが欠落し、社会の枠組みにとても収まりきらずトラブルばかり起こし、刺青と大きな刀傷に象徴される壮絶な過去を背負い狂気を内に秘めた三上に立ちふさがる現実世界は厳しく残酷だからだ。だが、ストーリーが進むにつれてやがてその「すばらしき世界」はこのことかもしれないと思わせる場面がやってくる。それは三上をはじめ、損得抜きで三上を支援する身元引受人の庄司夫妻や津乃田やスーパーの店長、ケースワーカーの井口らが目指し彼らの前に見え隠れしていた世界なのかもしれない。三上正夫は原作者の佐木隆三が取材し手助けもした実在の人物だという。殺人を含む前科10犯で半生を刑務所で過ごした彼の「身分帳」の内容はあまりにも凄まじいが、役所広司がその三上を圧倒的な存在感を見せながら熱演している。仲間大賀や長澤まさみ、梶芽衣子、橋爪功、北村有起哉、六角精児、白竜、キムラ緑子ら演技派が脇を固めそれぞれの味を出して好演している。(2021年2月11日全国公開、配給:ワーナー・ブラザース映画)