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「ノマドランド」フランシス・マグドーマンドが西部の大自然を流浪する主人公の自己再生のドラマを熱演

(2021年3月27日22:00)

「ノマドランド」フランシス・マグドーマンドが西部の大自然を流浪する主人公の自己再生のドラマを熱演
「ノマドランド」(2021 年 3 月 26 日(金) 全国公開 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)(©2020 20th Century Studios. All rights reserved.)

2017年に発表されたジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」を原作に、ノマド(遊牧民)となって季節労働の現場を渡り歩く60代女性ファーンの自由と孤独の流浪の旅を描いた話題作。「ファーゴ」(1996年)と「スリー・ビルボード」(2017年)で2度アカデミー賞主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが原作に感動して映画化権を獲得し、自ら主演・製作を務め、監督に中国出身で米国で活動する映画監督クロエ・ジャオを起用したこの作品は批評家に絶賛され、ベネツィァ国際映画祭で金獅子賞、トロント国際映画祭で観客賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞の作品賞(ドラマ部門)、マクドーマンドの主演女優賞(ドラマ部門)、ジャオの監督賞と脚本賞を受賞するなど数々の映画賞を席巻している。本年度アカデミー賞(現地時間4月25日授賞式)には作品・監督・主演女優など6部門にノミネートされ、マグドーマンド3度目の主演女優賞なるかと注目されている。また作品賞、監督賞部門でも「Mank/マンク」、「ミナリ」と争うとみられている。

■ストーリー

ネバダ州エンパイアで臨時教員として働いていたファーン(マグドーマン)は、リーマンショックで石膏採掘の工場が閉鎖され町が荒廃し、そのあおりをうけて自宅を手放し、キャンピングカーに死んだ夫の思い出の品や家財道具を詰め込んで車上生活を続けながら、日雇い労働の現場を渡り歩く日々を送っていた。広大な西部の大自然の中を気ままに旅しながら、行く先々で様々なノマド(遊牧民)と出会い交流を深めていく。旅先で出会い仲良くなったリンダ・メイ(本物のノマド)は、リーマンショックですべてを失い、本で読んだノマドの生活に感化されてノマドになったという。そうしたなか旅の途中で親しくなったノマド生活を続けるデイブ(デヴィッド・ストラザーン)に好意を寄せられ、彼の家で一緒に生活しようといわれるが…。

■見どころ

実在のノマドたちが出演しており、マグドーマンがノマドと共演しながら本物のノマドのようになって彼らと交流しながら大自然の中で流浪の旅を続け、その姿をカメラが追い続ける。まるでドキュメントのようにリアルで、ノマドたちの生き方に触れながら次第にマグドーマンド扮する主人公ファーンの一挙手一投足に引き込まれてゆく。広大な砂漠や峡谷や荒野といった大自然の中で、ファーンが用を足すシーンや全裸になって川に仰向けに浮かぶシーン、はたまた荒野に出現するノマドたちのキャンピングカーの群れに混じって食べ物を分かち合い、地平線まで続く一本道に車を走られていく。都会の喧騒や人間関係などから解放され大自然の一部となったような生き方にはいわゆる普通の生活から脱落したという感じでは全くなく、ファーンの流浪の旅は夫と家を失った深い喪失感を乗り越えて自己を取り戻してゆく自由と解放感、そして孤高、孤独、誇りといったものや、西部の大自然の威厳や美しさが斬新なカメラワークで映し出されてスクリーンにあふれている。マグドーマンはファーンを柔軟にしたたかにまた時にはユーモラスに演じて圧倒的な存在感を見せている。
マグドーマンドは、ジャオ監督の2作目の監督作品「ザ・ライダー」(2017年製作、Netflixで配信中)を見て本作の監督に起用することを決めたという。「ザ・ライダー」は米中西部サウスダコタ州の実在のカウボーイがロデオで頭部に大けがを負って後遺症に苦しみながらロデオ復帰の思いを捨てきれず葛藤する姿を描いているが、本人や彼を取り巻く人たちも実在の人物を起用して映画化しカンヌ国際映画祭でアート・シネマ賞を受賞したほか第53回全米映画批評家協会賞と第28回ゴッサム・インディペンデント映画賞で作品賞を受賞した。本人を起用する手法は実在のノマドたちを起用した本作でも採用されている。また西部の大自然が背景に登場するのも共通している。彼女を起用したマグドーマンのセンスが光るが、マグドーマンの3度目のアカデミー賞主演女優賞の可能性とともに、ジャオ監督のアジア系女性として初のアカデミー賞監督賞なるかも注目されている。
昨年のアカデミー賞では韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)が作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞して旋風を巻き起こしたが、今年は中国出身のジャオ監督の「ノマドランド」と、米コロラド州生まれだが、両親は韓国からの移民のリー・アイザック・チョン監督による、米アーカンソー州の田舎町に移住して農業で成功することを夢見る韓国系移民一家のドラマを描いてアカデミー賞作品賞、主演男優賞、助演女優賞など6部門にノミネートされた「ミナリ」が台風の目となりそうだ。