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「茜色に焼かれる」小野真千子が「愛と希望」を貫く母親の壮絶な生き様を熱演

(2021年5月22日12:00)

「茜色に焼かれる」小野真千子が「愛と希望」を貫く母親の壮絶な生き様を熱演
「茜色に焼かれる」(東京・渋谷区のユーロスペース)

交通事故で夫を失い昼は花屋でアルバイトをして夜には風俗店で働きながら、中学生の一人息子を育てる母親の壮絶な生き様を尾野真千子、和田庵、片山友希らのキャストで石井裕也監督が描いた異色の作品。

■ストーリー

7年前に夫の陽一(オダギリジョー)が車にはねられ死亡。夫を失った田中良子(尾野真千子)は、高齢者の運転者が逮捕されず謝罪もなかったことで賠償金の受け取りを拒否し、施設に入院している義父の面倒を見ながら、中学生の息子・純平(和田庵)を一人で育てていた。経営していたカフェはコロナで経営が破綻して、花屋のバイトと夜は風俗店で働いて生活していた。息子は学校で「母親は売春婦」などといわれいじめにあい学校に乗り込んで担任の教師を追及するが教師は逃げ腰でらちがあかない。また、数年ぶりに再会した同級生と交際しようとするが風俗で働いていることを正直に打ち明けると、妻子があるし遊びだからまじめに考えるなといわれてショックを受ける。そして風俗店の若い風俗嬢・ケイ(片山夕希)の悩みを聞き相談に乗り、夫の愛人が産んだ子供の養育費を負担するなど、様々な負の問題に直面してあがき、時には周囲に心情を爆発させながら決して屈することなくぶつかっていく。昔演劇に傾倒していて「芝居がうまい」良子は、「まあ、頑張りましょう」といって笑顔を見せた。そんな母親を見ながら息子の純平はまっすぐに正義感の強い少年に育っていた。そうしたなか、ある日母が包丁をバッグに忍ばせて家を出てゆくのを見た純平はただならぬ気配を感じて母を追いかけてゆく。

■見どころ

次から次へと降ってわいてくるやりきれない出来事にまみれながら、必死で立ち向かい生きていく母親を尾野真千子が熱演している。冒頭のオダギリジョーが演じる良子の夫陽一が、高齢者が運転する車の暴走ではねられ死亡し、運転手は逮捕もされず謝罪もしないという、高齢者運転の車の暴走で母娘が死亡した池袋の自動車事故を連想されるシーンからはじまり、花屋のバイトでの上司の理不尽な「ルール」の押し付けや突然の解雇通告。風俗店では「オレをイカせなかったら死ね」などと暴言を浴びせる客がいたり、そこまで描くかというほど、これでもかと襲い掛かる様々なおぞましく理不尽な出来事を一身に浴びながらも、様々な表情を見せながらプライドを失わず立ち向かう母親を尾野が体を張って熱演している。またいじめにあいながらも道を外すこともなく勉強もし真っすぐ生きる息子の純平を演じる和田庵も好演している。
石井裕也監督は「茜色に焼かれる」の公式サイトに寄せたコメントで、この作品について「今、僕がどうしても見たいのは母親についての物語です。人が存在することの最大にして直接の根拠である『母』が、とてつもなくギラギラ輝いている姿を見たいと思いました。我が子への溢れんばかりの愛を抱えて、圧倒的に力強く笑う母の姿。それは今ここに自分が存在していることを肯定し、勇気づけてくれるのではないかと思いました」と述べている。
そして「これまでは恥ずかしくて避けてきましたが、今回は堂々と愛と希望をテーマにして映画を作りました」とした上で「尾野真千子さんがその身体と存在の全てを賭して見事に『愛と希望』を体現しています。尾野さんの迫力とエネルギーに心地よく圧倒される映画になっていると思います。尾野さんの芝居に対する真摯な姿勢には心から敬服していますし、共に映画を作れて、とても幸せに思っております」とこの作品に込めた想いや尾野の演技について語っている。
(2021年5月21日公開)