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「アウシュヴィッツ・レポート」アウシュヴィッツ収容所から脱走して収容所の凄惨な実態を伝えたユダヤ人の実録映画

(2021年8月2日20:10)

アウシュヴィッツ収容所から脱走して収容所の凄惨な実態を伝えたユダヤ人の実録映画
「アウシュヴィッツ・レポート」(東京・新宿武蔵野館)

1944年、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(人種差別による絶滅政策=ホロコースト)と強制労働により最大級の犠牲者を出したアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所から脱走して収容所の凄惨な実態を告発するレポートを書いた2人の若いスロバキア系ユダヤ人の実録映画。2人の命がけの行動で12万人以上のハンガリー系ユダヤ人がアウシュヴィッツに強制移送されるのを免れたとされる。
ドイツ占領地のポーランド南部オシフィエンチム市(ドイツ語名アウシュヴィッツ)と隣の村にあったアウシュヴィッツ強制収容所の凄惨な内情を告発する32ページのレポートは、収容所のレイアウトやユダヤ人が大量虐殺されたガス室の詳細などを明らかにして「ヴルバ=ヴェツラー・レポート(通称アウシュヴィッツレポート)として連合軍に報告され、12万人以上のハンガリー系ユダヤ人救ったという。この実話を題材にスロバキア人のぺテル・ベブヤクが監督・脚本を担当して映画化し、アカデミー賞の国際長編映画賞のスロバキア代表に選出された。脱走する2人のスロバキア人を「オフィーリア 奪われた王国」のノエル・ツツォル、新人のぺテル・オンドレイチカが熱演。2人を救済する赤十字職員を「ハムナプトラ」シリーズのジョン・ハナーが演じている。

■ストーリー

1944年4月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所で囚人服を着せられ強制労働に従事するか働けなくなり処刑されるかの過酷な運命を背負っていたユダヤ人たち。遺体の記録係をしていたスロバキア人のアルフレート・ヴェツラー(ノエル・ツツォル)は、ユダヤ人が毎日殺されてゆく収容所の狂気の実態を外部の伝えるために、同じスロバキア人のヴァルター・ローゼンベルク(ぺテル・オンドレイチカ)とともに資材置き場の木材の下に数日間身を隠した後に闇に紛れて脱出に成功する。2人の所在が不明になり、残されたユダヤ人たちはナチスのラウスマン伍長から執拗に尋問され、極寒の野外に立たされ続けるなど虐待される。抵抗した者は虫けらのように射殺された。そうしたなか、2人は山林を走り続け、村人に助けられて奇跡的に赤十字社に救出される。そして赤十字職員のウォレン(ジョン・ハナー)に収容所の実態を訴えレポートを見せるがあまりに残酷な内容ということもあって信じようとせず、赤十字は救援物資を送っているし囚人からの感謝の手紙も届いているなどといわれる始末。2人は激怒し、支援物資は囚人に届いていないし手紙はナチスが偽造したものなどと反論して目を覚ますよう訴える。

■見どころ

ナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)。その実態を世界に伝えるためにアウシュヴィッツから脱走した2人のユダヤ人の命がけの脱出劇に圧倒される。アウシュヴィッツの凄惨な実態が描かれ、遺体の記録係の主人公は小屋の中に無造作に積み上げられたユダヤ人の裸の遺体と毎日向き合う。そして赤十字社の職員に救出されるが、2人の話が最初は信用してもらえなかったというエピソードも歴史の闇を浮き彫りにする。数々の映画やドキュメントで描かれ、今でこそホロコーストの実態は歴史的事実として詳細に明らかにされているが、当時は連合国側には全く知られていなかったことがわかる。ナチスは事実が漏れないように厳重に管理した上にほとんどのユダヤ人は生きて帰れなかったからだろう。「過去を忘れる者は過去を繰り返す運命にある」―スペイン出身のアメリカの哲学者で詩人のジョージ・サンタヤーナ(1863年~1952年)の言葉がこの映画の中に出てくるが、まさに、忘れてはならない、2度と繰り返されてはならない歴史的事実の一つであり、それを世に知らせた2人の闘いが持つ意味を改めて考えさせられる。

■監督のメッセージ

1944年4月、二人のスロバキア系ユダヤ人、アルフレート・ヴェツラーとヴァルター・ローゼンベルク(後に、ルドルフ・ヴルバに改名)は、アウシュヴィッツのビルケナウ・ナチス絶滅収容所から逃げることに成功し、この大胆な行動が最終的に12万人の命を救いました。近年のスロバキアでは、過激派勢力が議会の議席を得る状況になってきています。残念ながら、このような問題はスロバキアに限ったことではありません。ヨーロッパ全土で、以前よりも多くの人々がファシスト思想を持つ政党を支持、もしくは容認し、過激派とその共感者は次第に 勢いを増しています。人権が危機にさらされている今、沈黙を保つことは、過激者を支持しているのと同じです。私たちは、先人たちの過ちを繰り返してはなりません。だからこそ、これまで犯してしまった失敗の物語を描くことが重要です。失敗を忘れないために『サウルの息子』や『シンドラーのリスト』のような映画をもっと増やすべきです。本作で希望となるのは“ヒロイズム”です。ごく一般人として生きてきた人々の“ヒロイズム”を描いています。彼らは、自国スロバキアに不要とされ、売り払われた人々です。アルフレートとヴァルターは、自分たちの命を救うために脱出したわけではありません。アウシュヴィッツでのホロコースト(大量虐殺)を暴露するという使命のために脱出したのです。そして最終的に彼らの脱出が、死に追いやられつつある12万人のハンガリー系ユダヤ人の命を救ったのです。(「アウシュヴィッツ・レポート」の公式サイトから)
(2021年7月30日、新宿武蔵野館ほか全国順次公開)