「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」美術史上最高額510億円で落札されたダ・ヴィンチの「世界の救世主」の真贋を追う衝撃のドキュメント

(2021年11月24日17:30)

「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」 美術史上最高額510億円で落札されたダ・ヴィンチの「世界の救世主」の真贋を追う衝撃のドキュメント
「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」((c)2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions – FTV)

2017年11月、オークションで美術史上最高の4億5030万ドル(約510億円)で落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチの最後の絵画とされる「サルバトール・ムンディ」(世界の救世主)(通称「男性版モナ・リザ」をめぐる真贋論争や、この絵が発見されてオークションにかけられるまでの経緯、オークションでは非公開にされた落札者とこの絵画のその後などを関係者や専門家のインタビューなどで描いた衝撃的な内容のドキュメンタリー。
監督はフランス出身のドキュメンタリー映画監督でジャーナリストのアントワーヌ・ヴィトキーヌ。2001年以降大手フランス放送局制作の23本のドキュメンタリー作品の監督を務め、ほとんどが世界各国のテレビ局で放送されたという。ヨーロッパの極右大衆迎合主義をとらえた作品や、サルコジとカダフィの関係についての作品など題材は多岐にわたる。

■内容

1500年頃にダ・ヴィンチが描いた最後の作品といわれる「Salvator Mundi」(サルバトール・ムンディ)はラテン語で「世界の救世主」を意味し、イエス・キリストを描いた肖像画とされる。長年行方不明になっていたが、米ニューヨークの美術商ロバート・サイモンは2005年4月、米ルイジアナ州の小さな競売会社で発見して、わずか1175ドル(約13万円)で購入する。
「複製か後世に描かれたものかと思われたが”失われた絵“と同じ構図」だった。損傷がひどく塗り直しもあったが2年がかりで洗浄・修復を秘密裏に行った結果、「レオナルドの失われた絵と確信」する。

ロバートはロンドン・ナショナル・ギャラリーに相談する。そのころ同ギャラリーではダ・ヴィンチ展の準備が進んでいた。ギャラリーのルーク・サイソン学芸員は「ひどい損傷があるが途方もない存在感があった」と語る。そしてオックスフォード大学の美術史家でギャラリーとクリスティーズの主任専門家のマーティン・ケンプら5人の専門家が鑑定するが、「誰も『われ発見せり!』とは言わなかった」という。ケンプは「絵の履歴を記録した来歴書類はなく目で判断するしかなかった」という。「口元が柔らかくモナ・リザもそうだ」「オーラがあった」などとして「良い反応を」示した。

サイソン学芸員は「最終的には十分に帰属が証明された」としてレオナルド作「世界の救世主」としてダ・ヴィンチ展に展示されて”認知“されることになる。
しかしケンプと同じオックスフォードの美術史家マシュー・ランドラスは「「帰属の特定には問題がある」「2本の親指が論拠の一つだが、工房の弟子がその指を描いたのかもしれない画家本人ではなく工房の弟子でも描き込める」「絶対的な証拠はない」と疑問を指摘した。
またニューヨーク・タイムズ紙の記者スコット・レイバーン『救世主』はレオナルド作か?」との記事を書き「ルネッサンス期の工房は現代の工場と同じ。親方がいて弟子に仕事を任せている。これは“儲かる作り話”だ」と指摘する。
そうしたなか、ロシアの新興財閥でサッカーチーム「ASモナコ」のオーナー、ドミトリー・リポロレフが食指を伸ばし、代理人が「1億2750万ドル」(約146億円)で買い取るが、実は実際の売却価格は8300万ドル(約95億円)で差額の4400万ドルと通常の手数料2%を代理人が懐に入れていたことが発覚するなど、巨額取引をめぐる魑魅魍魎のスキャンダルも描かれる。そしてドミトリーはニューヨークのクリスティーズでオークションに出品。クリスティーズは大々的に宣伝し、史上最高額の4億5000万ドル(約517億円)で落札される。落札者は非公開にされたがその後判明して政治家も絡んでさらなるドラマが展開される。

■見どころ

まずは510億円で落札されたダ・ヴィンチ最後の作品「世界の救世主」は”真正“なのか真贋をめぐる時系列を追っての調査、専門家らの見解などが深く丁寧に描かれており、ダ・ヴィンチの絵をめぐる壮大なミステリー映画のように見ごたえがある。ロンドン・ナショナル・ギャラリーとフランスのルーヴル美術館のこの絵に対する判断の違い、同じオックスフォードの美術史家2人の真逆の見解なども興味深い。またニューヨーク・タイムズの記者の見解も説得力がある。オークションを主催したクリスティーズは薄暗い部屋で展示し、絵の背後からカメラで恍惚になる人や涙を流す観客の姿を撮影して宣伝し、その中にはレオナルド・デイカプリオもいた。そしてロシアの新興財閥から4400万ドルをだまし取った美術商でアドバイザーのイヴ・ブービエの存在など「世界の救世主」をめぐる魑魅魍魎の暗躍など生々しく描いる。そして落札後も政治が絡んで、サスペンス映画のような大掛かりな展開が続く。
(2021年11月26日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー)