「愛する人に伝える言葉」がんで余命宣告された息子と母親の苦悩と究極の決意

(2022年10月11日16:30)

「愛する人に伝える言葉」がんで余命宣告された息子と母親の苦悩と究極の決意
「愛する人に伝える言葉」(© 2021 - LES FILMS DU KIOSQUE – STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINÉMA- SCOPE PICTURES. PHOTOS: LAURENT CHAMPOUSSIN.)(全国公開中)

すい臓がんに侵され主治医から余命を宣告された主人公とその母親が深い悲しみや苦悩と向き合いながら、限られた時間の中で人生を見つめ直しその時を迎えていく感動のドラマ。母親役にフランスを代表する大女優カトリーヌ・ドヌーブ、主人公の息子役に本作でフランスのアカデミー賞と言われるセザール賞最優秀男優賞を受賞したブノワ・マジメルのほか、主人公を献身的に看病する看護師役に「ロシアン・ドールズ」などのセシル・ド・フランス。そして、主治医のドクター・エデを実際の現役のがん専門医ガブリエル・サラが演じているのも話題になった。
監督はカンヌ国際映画祭でオープニングを飾った「太陽のめざめ」(2015年)のエマニュエル・ベルコ。同作ですでにドヌーブとマジメルを起用していて、2人が「監督が彼女なら」と信頼を寄せての出演となった。
2021年/フランス映画/フランス語・英語/122分/原題:De son vivant/配給:ハーク/TMC/SDP

「愛する人に伝える言葉」がんで余命宣告された息子と母親の苦悩と究極の決意
「愛する人に伝える言葉」(© 2021 - LES FILMS DU KIOSQUE – STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINÉMA- SCOPE PICTURES. PHOTOS: LAURENT CHAMPOUSSIN.)(全国公開中)

■ストーリー

演劇の教師をしているバンジャマン(ブノワ・マジメル)は、人生がまだ半ばの39歳のときにすい臓がんを発症し、母親のクリスタル(カトリーヌ・ドヌーブ)に伴われて業界で名医として刷られるドクター・エデ(ガブリエル・サラ)を訪れる。母子は名医の治療に望みを託すが、エデはステージ4のすい臓がんで治すことはできないといい、平均的なデータとして「余命半年から1年」と告げる。ショックで自暴自棄になるバンジャマンにエデは「命が絶えるときが道の終わりですが、それまでの道のりが大事」といい、病状を緩和して生活の質を維持するための化学療法を提案する。母親のクリスタルは、息子ががんになったのは、自分のせいではないかという罪悪感に悩まされる。バンジャマンが若くして恋人との間に子供を作ったときに、息子の将来を思うあまりに恋人との仲を引き裂いた過去があった。一方、バンジャマンは息子を見捨てたという罪悪感があった。母子は様々な葛藤を抱えながらも、ドクター・エデに助けられながら、「人生のデスクの整理」をしていく。

「愛する人に伝える言葉」がんで余命宣告された息子と母親の苦悩と究極の決意
「愛する人に伝える言葉」(© 2021 - LES FILMS DU KIOSQUE – STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINÉMA- SCOPE PICTURES. PHOTOS: LAURENT CHAMPOUSSIN.)(全国公開中)

■見どころ

自らの死が間近に迫っていることを知ったとき、本人と家族が悲しみ、苦悩し葛藤しながら、それにどう向き合っていくのかという「生と死」の究極を描いた作品になっている。母親役のカトリーヌ・ドヌーブと息子役のブノワ・マジメルが「最期を迎える」ドラマを情熱的に、繊細に演じている。病を押して学校で生徒に熱く演技について説いていたマジメルだが、やがて日を追うにつれやつれて衰え、丸坊主になってベッドから起き上がることもできなくなり、意識ももうろうとしていく様子を迫真の演技で見せている。またドヌーブが最愛の息子の余命宣告に衝撃を受けて苦悩し葛藤する母親を熱演。
そして主治医のドクター・エデを演じた実際のがん専門医ガブリエル・サラが、この映画にドキュメント映画のようなリアリティと緊迫感を与えている。独創的で卓越した医療方針や患者やスタッフへのアドバイスを見せて「生と死」の深淵をスクリーンに描き出し感動をもたらしている。ミーティングで看護師たちに「がんばれと言ってはいけない。死ががんの勝利になってしまう」とがん末期患者への接し方について語り、患者たちのためにタンゴの公演やミニコンサートによるセラピーをするなどユニークな企画は、実際に病院で行っていることだという。ドクター・エデの、自身の哲学と経験に裏打ちされた言葉の一つ一つが真摯で、包容力、誠実さがあり胸を打つ。医学博士のガブリエル・サラは、ニューヨークのマウント・サイナイ・ウェスト病院医療部の上級指導医で、化学療法病棟の医長ならびに患者サービス部門の顧問を務めているという。2013年には共同執筆の教本「音楽療法:痛みの治療における統合的モデル」を発行。2015年には、音楽と医学への貢献により、マウント・サイナイ・ベス・イスラエル医療センター病院、ルイ・アームストロング音楽療法センターから「この素晴らしき世界賞」を受賞している。名優2人と本物の優れた医者が見せる感動的な人生のドラマになっている。
(2022年10月7日より全国公開)