「戦場記者」ガザ、ウクライナなど戦争の現場で取材する日本人特派員の迫真のドキュメント

(2022年12月17日16:30)

「戦場記者」ガザ、ウクライナなど戦争の現場で取材する日本人特派員の迫真のドキュメント
「戦場記者」(©TBSテレビ)(12月16日(金) 角川シネマ有楽町ほか全国順次公開)

TBSの中東支局の特派員でガザやウクライナの戦場など世界で注目を集めている現場で取材を続け、YouTubeでも注目を集めている須賀川拓が、抜群の行動力と分析力を通じて「戦争の真実」に迫る迫真のドキュメント。国際報道で優れた功績を残したジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞した須賀川が伝える戦場の鮮烈な映像や一般市民の声、さらには戦地に足を運び続ける自身の思いなども語られている。
2022年、日本/監督:須賀川拓/製作:TBSテレビ/配給:KADOKAWA/102分(2022年12月16日より、角川シネマ有楽町などで全国公開中)

■イスラエルとハマスの「11日間戦争」

「戦場記者」ガザ、ウクライナなど戦争の現場で取材する日本人特派員の迫真のドキュメント
「戦場記者」(©TBSテレビ))

2021年5月にイスラエルとハマスが激しい戦闘を繰り広げた「11日間戦争」の取材から始まる。イスラエルが占領する東エルサレムでパレスチナ人を強制退去させる動きが強まり、これに反発したパレスチナ側のイスラム組織ハマスはロケット弾を撃ち込み、イスラエル軍は空爆で応じる。須賀川が取材クルーとイスラエルのテルアビブに入ると、昼夜問わずハマスが発射する無数のロケット弾が上空を飛び、イスラエルの高度な防空システムアイアンドームが上空で撃ち落とす様子が撮影される。アイアンドームの詳細が明らかにされ、サイレンが鳴り地下のシェルターなどにマイク片手に避難する様子など、戦場の生々しい様子がスクリーンに映し出される。
5月21日に停戦となり封鎖が解除されたパレスチナ自治区の最大の都市ガザに入ると、イスラエル軍の空爆で民間人が住むアパートは倒壊し、子供5人を含む10人が死亡したという。空爆で妻と4人の子供を失い、助かった乳飲み子のオマルを抱える男性が「オマルはこのイスラエルの犯罪の証人です」と訴える。
イスラエル軍国際広報部長は、ハマスやイスラム聖戦などのテロリストによるイスラエル市民への攻撃を阻止するために「極めて精密かつ戦略的な作戦を実行した」と主張する。「巻き添え被害を最小限に食い止めます。精密攻撃では世界最高の精度を持っている。偵察ドローンで監視し標的から民間人が退避したかを確認しています」という。一方で「重要なターゲットを補足した際逃亡の時間を与えないよう予告をせずに攻撃するタイム・クリティカル・ターゲット」だった可能性もあると認める。
一方、ハマス国際広報部長は「ハマス工作員がいた証拠はなく地下に軍事施設があったという証拠もありません」と反論し、ハマスのロケット弾は目標を設定した精密攻撃ではなく無差別攻撃だとの非難に「イスラエルが停戦するならすぐやめるといっている」「われわれは戦争が目的ではない。自由や尊厳のある独立国家を求めているだけだ」と主張。両者の深刻な対立を浮き彫りにする。兵器や防空装置、軍事作戦の用語などを詳しく解説していて戦争の実態が分かりやすく解説されている。

■ロシア軍によるウクライナ侵攻、クラスター弾の証拠も

「戦場記者」ガザ、ウクライナなど戦争の現場で取材する日本人特派員の迫真のドキュメント
「戦場記者」(©TBSテレビ))

2月24日に始まったロシア軍のウクライナ侵攻。普段は中東がカバーエリアの須賀川は急きょウクライナに飛ぶ。南部オデーサの街のど真ん中のホテルにロケット弾が落ちて半壊し、団地の道路にクラスター弾とみられる無数の小さな穴があるのが映し出される。民家の寝室の天井を突き抜けたロケット弾の弾頭を見せる住民。「4日間、1分ごとに攻撃があった」と怒りをあらわにする住民。取材中にもサイレンが鳴り避難する。テレビのニュースでも連日伝えられたが、ドキュメント映画になるとより深く戦争の実態が見えてくる。
また放射能汚染の可能性があるチョルノービリ原発の取材では、残された様々な証拠からロシア軍が侵略行為を行っていることを報告。ロシア軍が立ち入りが禁止されている赤い森と呼ばれる汚染地帯で塹壕を掘り軍事車両を通行させ被ばくして体調不良を起こした兵士もいあたことなどもレポートしている。

■アフガニスタンの麻薬汚染の実態

「戦場記者」ガザ、ウクライナなど戦争の現場で取材する日本人特派員の迫真のドキュメント
「戦場記者」(©TBSテレビ))

8月には女性の権利を大幅に制限するなど国際的に問題になっているタリバン暫定政権下のアフガニスタンに入り、街中に流れる川岸と橋の下に麻薬中毒者が群れて生活している現場を取材するなどアフガンの”闇”にも迫っている。また現地のテレビ局を取材し女性キャスターや局の幹部らを取材。さらにはタリバン暫定政権の外相にもインタビューして女性の権利問題や麻薬まん延問題について鋭く質問しているのも注目される。
ガザ、テルアビブ、ウクライナ、アフガニスタンと飛びまわり精力的な取材を続ける須賀川のレポートは、世界が今どうなっているのかを知る上で欠かせない貴重でホットな情報と現場の映像で溢れている。
「戦場記者」の初日舞台あいさつが16日、都内で行われ、ロンドンから一時帰国した須賀川が登壇し、ジャーナリストの青木理らと意見を交わし「この映画を通して現状を知ってもらい議論が広がることで支援のかけ橋や次のムーブメントにつながるきっかけになれば。今は変えられないかもしれないが、未来の戦争や難民を減らす力になるはず」と訴えた。

17日午後9時から配信サイト「共感シアター」で須賀川拓、ジャーナリスト・峯村健司、政治評論家ナザレンコ・アンドリーが出演する「映画「戦場記者」公開記念 世界の危機、日本の危機 年末大激論スペシャル」が配信される。