松重豊が映画「枯れ葉」主演女優アルマ・ポウスティとトークショー

(2023年12月7日10:45)

松重豊が映画「枯れ葉」の主演女優とトークショー
フィンランドの国旗をまとったアルマ・ポウスティ㊧と髪を立てた松重豊(6日、東京・渋谷区のユーロライブで)

アキ・カウリスマキ監督の最新作「枯れ葉」(12月15日公開)の先行上映が6日、東京・渋谷区のユーロライブで行われ、カウリスマキ監督の大ファンの松重豊が初来日した同作の主演女優でフィンランドの国民的女優アルマ・ポウスティとトークショーを行った。

カウリスマキ監督の最新作にして復帰作となる『枯れ葉』は、孤独を抱えながら生きる女と男が、人生で最初で最後のかけがえのないパートナーを見つけようとするラブストーリー。今年のカンヌ国際映画祭の審査員賞、2023年国際批評家連盟の年間グランプリを受賞し、先ごろアカデミー賞国際長篇映画賞部門のフィンランド代表にも選出された。また本国フィンランドでは、アキ監督最大のヒット作『過去のない男』を超える動員数を記録、フランスやドイツでも大ヒットし全世界の動員が100万人を突破している。

6日がフィンランドの106年目の独立記念日ということで国旗をまとって登壇したアルマは「皆さんと一緒に独立記念日を祝えることをとてもうれしく思います」と挨拶して観客席から大きな拍手で迎えられた。「アキ監督の作品は初めてという方はおめでとうといいたいです。これからたくさん(同監督の作品を)楽しんでください」とアピールした。そして監督の大ファンという俳優の松重豊が登壇してアルマに花束を贈呈。「アキ・カウリスマキ監督の作品は髪形を立てて話したいくらいの大ファンです」と髪を立てた派手な髪型をアピールして会場を沸かせた。

松重は7年ぶりに復帰したアキ監督の「枯れ葉」について「一回引退なさった方が、よくぞ戻っていただいたということで、どういうテイストの作品になるのかなあと思ったら、僕の一番好きな、いわゆる失業三部作の『パラダイスの夕暮れ』、『真夜中の虹』、『マッチ工場の少女』に連なり、しかもヒロインのアルマさんが素晴らしい演技で魅了されました」と絶賛した。そして「衝撃的なのは(劇中)たびたびラジオから流れるウクライナ(ロシアの侵攻のニュース)のことが聞こえてくることで現実を目の当たりにしなきゃいけないこともありながら、ふんだんにユーモアと音楽に満ち溢れた作品で、よくぞ戻ってきてくださったなあという思い。嬉しくてしょうがない」と監督の復帰を喜んだ。

アルマは「素晴らしい言葉をいただいて感謝でいっぱいです。わたしも(監督の復帰に)驚きましたけど、一番驚いたのはアキ監督本人かもしれません」という。そして「私たちのような新しい俳優などを迎え入れて作ったということは素敵なことだったと思います」と語った。また「昨年9月に撮影を始めて、編集して6月にはカンヌ国際映画祭で上映していました。すごいスピードだった」と明かした。さらに「監督に言わせると指が勝手にどんどん脚本を書いていたそうで、途中で指が別のストーリーを書き始めた。でも最終的に終わってみたら、労働者三部作に続く4作目ができていたと言っていました」と笑った。

松重豊が映画「枯れ葉」の主演女優とトークショー
アキ監督について大いに語った松重豊㊨とアルマ・ポウスティ。左端は通訳

松重が監督のイメージについて聞くと「レジェンドで巨匠ですね。ずっと(監督の作品を)見てきましたし、ヘルシンキにある監督が経営するバーや映画館にも行きましたがが、会ったことは一度もなかったんです。とても深いヒューマニズムを持った方で、小さいものへの愛というか気にかけるのがとても独特なんです。彼のスタイルはあまりにも独特なのでまねができないんです」と明かした。

松重は監督について「今世の中がどんどんわかりやすくなる方向に流れていっている。お客さんはどんどんファスト望むし、早く理解して先に進みたいんですが、明らかに逆行している。でも81分(「枯れ葉」の上映時間)の中に凝縮されている物語があるし、そこにお金と俳優の表現力が非常に問われる。本当に誰もわかりやすい芝居をしていないですが、表情の一瞬一瞬をつかもうとする。アルマさんの表情ひとつ、目の動きひとつでも大事件が起きるんですよ。言葉で説明したり過剰な演技をしたリじゃない、そういう表現に満ち溢れている空間があるのがアキの作品」と同監督作品の世界を解説した。

アルマは「すごく素敵に言ってくださって感動したわ」と喜んだ。そして「アキは沈黙の巨匠だと思う。(セリフの)一言のすばらしさがある」と指摘した。

これを受けて松重は「台本はどれくらいなんですか」と質問。アルマは「私の人生で出会った中で一倍短い台本。珠玉の一品になっています。すばらしい文学、誌的。沢山言葉は使わないんですがすごく慎重に言葉を選んでいます」と明かすなど、アキ監督とその作品についての談議は尽きず大いに盛り上がって観客を魅了した。

松重豊が映画「枯れ葉」の主演女優とトークショー
アルマ・ポウスティ

アルマ・ポウスティ 1981年生まれ。2007年にヘルシンキ大学シアター・アカデミーで修士号を取得。以降、北欧諸国の多くの有名な舞台に立つほか映像作品にも出演し幅広い活動を続けてきた。2020年『TOVE/トーべ』(ザイダ・バリルート監督)で主演を演じ映画俳優としてブレーク、この役でフィンランドのアカデミー賞にあたるユッシ賞で主演女優賞を獲得する。TVドラマ「Helsinki Crimes」、「Blackwater」や2023年ヨーテボリ映画祭で主演女優賞を受賞した映画『Four Little Adults』など数々の北欧の映画やTVドラマに出演。『枯れ葉』に続く出演作としてファレス・ファレス監督『A Day and a Half』(主演)、ピルヨ・ホンカサロ監督『Oreda』が控えている。また『枯れ葉』での演技が高く評価され、ヨーロッパのアカデミー賞と言われるヨーロッパ映画賞主演女優賞にノミネートされている(9日発表)。

松重豊が映画「枯れ葉」主演女優アルマ・ポウスティとトークショー
「枯れ葉」のアルマ㊧とユッシ・ヴァタネン(© Sputnik /Photo: Malla Hukkanen)

【あらすじ】
北欧の街ヘルシンキ。アンサは理不尽な理由から仕事を失い、ホラッパは酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たしてふたりは、無事に再会を果たし想いを通じ合わせることができるのだろうか…? 

【クレジット】
監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン
出演:アルマ・ポウスティ(『TOVE/トーベ』)、ユッシ・ヴァタネン(『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』) ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴ
2023年/フィンランド・ドイツ/81分/1.85:1/ドルビー・デジタル5.1ch/DCP/フィンランド語/原題『KUOLLEET LEHDET』/英語題『FALLEN LEAVES』
配給:ユーロスペース 提供:ユーロスペース、キングレコード
12月15日(金)よりユーロスペースほか全国ロードショー

【受賞歴】
第76回カンヌ国際映画祭審査員賞
2023年国際批評家連盟賞年間グランプリ
第59回シカゴ国際映画祭最優秀監督賞
第40回ミュンヘン映画祭バイエルン2&SZ観客賞
第20回シネフェスト・ミシュコルツ国際映画祭Zukor Adolf賞(グランプリ)
【ノミネート】
第96回アカデミー賞®国際長編映画賞部門フィンランド代表選出
2023年ヨーロッパ映画賞 作品賞、監督賞、主演女優賞、主演男優賞、脚本賞