ドキュメンタリー映画「カラフルな魔女」完成披露舞台挨拶 角野栄子氏、宮川麻里奈監督登壇

(2024年1月16日17:30)

ドキュメンタリー映画「カラフルな魔女」完成披露舞台挨拶 角野栄子氏、宮川麻里奈監督登壇
角野栄子さん㊧と宮川麻里奈監督(16日、東京・千代田区の神楽座で)

「魔女の宅急便」の作者として知られる、児童文学作家・角野栄子さん(89)の日常に 4 年にわたって密着したドキュメンタリー映画「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」(KADOKAWA 配給)の完成披露舞台挨拶が16日、東京・千代田区の神楽座で行われ角野栄子さんと宮川麻里奈監督が登壇して同作について語った。

鎌倉の自宅では自分で選んだ「いちご色」の壁や本棚に囲まれ、カラフルなファッションと個性的な眼鏡がトレードマークの角野さん。一方で、5 歳で母を亡くし戦争を経験。結婚後 24 歳でブラジルに渡り、35歳で作家デビューするなど、波乱万丈な人生を歩みながら、持ち前の冒険心と好奇心で幾多の苦難を乗り越えてきた。「想像力こそ、人間が持つ一番の魔法」と語る角野栄子とはどういう人物なのか?キュートな“魔女”が、老いや衰えさえも逆手にとって今もなお、夢いっぱいな物語を生み出す秘訣とはー。
イベントには角野栄子と監督の宮川麻里奈監督が登壇し、4 年に渡る密着取材の裏話や映画完成の喜びをたっぷりと話した。

角野さんは、大きなスクリーンに主人公として出演し、作品を観た感想を問われると、「本当に皆さん頑張ってくださったな、と思います。カメラマンには、あまりリアリズムにいかないようにとリクエストをしましたし、宮川さんにはあまり色々と聞かないで!と伝えましたが、初めての経験だったので、これは楽しんでやらなくちゃな!と思いました」と答えた。そして「普通のモノを書いている、普通の暮らしをしているので、素材的には撮っても仕方が無い存在なんだろう、と思っていましたが、宮川監督とカメラマンに、素材を 150%活かしてもらった結果だな、と思い、ちょっと詐欺かな?と思うくらい素敵に撮っていただきました」と続けた。

それを受けた宮川監督は、「今年 20 歳になる娘が小学生高学年くらいの時に『魔女の宅急 便』の 6 冊シリーズを愛読していて、その娘が“『魔女の宅急便』が無かったら、うまく思春期を乗り越えられなかったかもしれないと思う。”ということを角野さんの取材を始めることが決まってから聞いたんですね。娘にとって悩みが深まる思春期の時期に、『魔女の宅急便』を繰り返し読んだことが、娘にとっての精神安定剤みたいになっていたということを聞いて、そんなことも知らずに私は私で角野さんを素敵だな、と思って取材を始めましたが、角野さんはいつお目にかかっても愉快で、取材中に嫌な気持ちをすることは一度も無く、毎回幸せな気持ちを抱えて撮影をさせていただきました」と振り返った。

『魔女の宅急便』について角野さんは、「留学なさる方や、東京に出て入学される方や就職される方などが節目で読んで、自分に重ねて楽しみました、という声をいただきました。私も若い頃に“エイヤー!”とブラジルに行きましたが、その時の心細さやブラジルで生きていく気持ちが重なっていたのかな、と感じます」と振り返った。
ブラジルに渡った経験がある角野さんの経験に触れた監督は、「ルイジンニョさんという角野さんのブラジル時代の恩人が映画の中に出てきますが、ルイジンニョさんとの再会は、前の週のギリギリまで来日いただけるか分からなかったんです。一度は諦めかけて、角野さんが自分で会いにいきませんか?と突然相談したり、私がカメラを担いでルイジンニョさんのメッセージを録りにブラジルに渡るしかない!と思うことが何度もありましたが、ご来日をいただいて奇跡の再会を果たされて…。今思うと、角野さんの想いが通じた魔法だったのかもしれないな、と思います」と語った。

ルイジンニョさんに触れた角野さんは、「私も本当に奇跡だと思います。当時 12 歳の可愛い少年が、白いヒゲを生やして羽田の空港から現れたときは、あれっ!?と思っちゃいました」と答え、会場を笑わせた。
「話してみると、彼らしい表現や言葉のリズムが思い出され、本当に良い機会を与えてもらいました」と監督に感謝も伝えた。40 代まではグレーや黒が多かったという服装について聞かれると、「50 代くらいになって、赤い洋服を着たところ、意外にも好評だったんです。そこから赤い服を着てみようかな、と思ったと同時に、その頃から髪もだんだんと白くなり、老眼でメガネをかけたりと、寂しい時期を迎えた時に”つまらないな”と思ったら、白い髪が意外にもきれいな色に合ったんです。それが今日のあり様です」と答えた。
ファッションで意識していることを聞かれると、「80 歳くらいになった時に、洋服を買ったり試着するのが面倒くさくなったんですね。そこで娘に着る服を頼んだところ、娘から“文句は言わないか?”と最初に言われました。“はい、文句は言いません。”と伝えて、どうやら少しは文句を言ったようなんですが、そこから娘に洋服を選んでもらうようになりました。外に出て、評判が悪かったら娘のせいにして、良ければ自分のせいにしよう、というつもりでいます(笑)」とお茶目さを覗かせた。

宮川監督も「撮影に伺っても、毎回“可愛いですね!”と、お洋服の話から入っていました」と角野さんの服装に触れ、それを受けた角野さんは「今度は監督にピンクを着せちゃおう!」と答え、会場を笑わせた。

「いちご色」をテーマカラーにしていることについて問われた角野さんは、「今日の洋服は“いちご色”ではないですが、家を建てる時に、何か 1 つの色に決めたほうが良いと言われ、“赤”が良いと答えたところ、色にうるさい人が1人いまして、赤にも色々あると言われて“いちご色”と答えたのが定着しました。なので、私の家はいちごっぽい赤です」と答えた。
宮川監督も「ポスターの背景の色も、角野さんのお家の壁色なんです」と紹介した。

好きをずっと続ける秘訣については、「私は好きがずっと決まらなかった。ずっと好きが見つからずブラジルではラジオの営業などをしていましたが、帰ってきたら大学の先生に“本を書け“と言われたんです。卒論しか書いたことないのに、初めて本を書くわけですから、何回も何回も書き直したんです。そしたら、“なんだか楽しいな”と思って、そこからコツコツと毎日書いて、一生書いていこうと思いました」と答えた。

監督は「映画にも出てきますが、本当に朝から晩まで書かれているんですよ。土日も関係なく、休もうという気が無くて...、本当に書くのがお好きなんだな、と思いました。天職なのでしょうけど、だんだんと天職になっていったんですよね、きっと」と答え、すると角野さんは、「好きなことだから、疲れた。って言えないのよ。でも、私も疲れるのよ…?」と答え会場が笑いに包まれた。

撮影時も書いている姿を見ていた監督は、「角野さんは本当に遊ぶように、楽しんで書かれている。どんどんと物語の世界に入って言ってしまい、撮影中に私達は置いてけぼりになってしまう瞬間が何度もありました」と告白。角野さんは「書きたいものを書いておきたいと思うのと、私もやっぱり大変なときがあるのよ。だけど好きな事やっているし、考え方を自由にしてみると、こうだと思っていたことも、こっちに行ってみようかな、という気持ちになる。失敗したら戻ったら良いので、書き直すのは苦にならない。書き直すと違う発見があって、それに出会えることが嬉しい」と独自の考えを披露し、観客を驚かせた。

最後に今後挑戦してみたいことを聞かれると、「わたし来年 90 歳なの。これちょっと売りです!90 歳になった時に、すごいピュアなラブストーリーを書いてみたい。できればね!中学 1 年生の初恋なんて忘れちゃっているわね、相手の名前も忘れてしまっているけど、書けるかな…?と思っていますが」と答え、今後の意気込みを覗かせました。今年の 1 月 1 日に 89 歳の誕生日を迎えた角野さんは、お祝いでいちご色の花束を受け取り、89 歳の抱負は「まずは元気で歩ければ良いな。長く長く元気でいたいです」と答え、盛大な拍手に包まれ舞台挨拶は終了した。

【クレジット】
語り:宮﨑あおい
監督:宮川麻里奈 音楽:藤倉大
プロデューサー:山田駿平 宣伝プロデューサー:大﨑かれん 編集部協力:岡山智子
ラインプロデューサー:松本智恵 撮影:髙野大樹 編集:荊尾明子 音響効果:河原久美子 監督補:岡澤千恵
制作:NHK エンタープライズ 制作協力:角野栄子オフィス エネット 映像提供:NHK 製作・配給:KADOKAWA
©KADOKAWA
公式 HP:https://movies.kadokawa.co.jp/majo_kadono
X(旧 Twitter):@majo_movie Instagram:@majo_movie
2024月 1 月26日(金)角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー