日本映画ペンクラブ賞に荒井晴彦氏 日本映画ベスト1は「PARFECT DAYS」片桐はいり特別賞

(2024年3月20日12:00)

日本映画ペンクラブ賞に荒井晴彦氏 日本映画ベスト1は「PARFECT DAYS」片桐はいりが特別賞
前列左から大桑仁氏、片桐はいり、荒井晴彦監督、角谷優氏、水野貴夫氏、後列左から、前田亜季氏、大島新監督、内山雄人監督、古賀茂明氏(東京・銀座のコートヤード・マリオット銀座東武ホテルで)

日本映画ペンクラブ賞の表彰式が19日、都内で行われ日本映画ペンクラブ賞に選ばれた脚本家・映画監督・「映画芸術」編集長の荒井晴彦氏や、功労賞の角谷優氏(映画プロデューサー)、特別賞の片桐はいりなど受賞者が表彰された。

2023年度日本映画ペンクラブ会員選出ベストの日本映画1位には役所広司が第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞し、第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた「PARFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)が選ばれ、外国映画1位は「TAR/ター」(トッド・フィールド監督)、文化映画1位に「国葬の日」(大島新監督)と「妖怪の孫」(内山雄人監督)が選ばれた。

■日本映画ペンクラブ賞・荒井晴彦氏

日本映画ペンクラブ賞に荒井晴彦氏 日本映画ベスト1は「PARFECT DAYS」片桐はいりが特別賞
荒井晴彦氏と福本明日香氏、稲川方人氏(左から)

「もどり川」「赫い髪の女」「Wの悲劇」などの脚本、「身も心も」「火口のふたり」「花腐し」などの監督としての活動に並行し 1989年以来、映画専門誌「映画芸術」を業界や体制に与する事なく編集・発行人として今日まで続けてきている業績に対して、日本ペンクラブ賞を受賞した荒井晴彦氏。「映画芸術」編集部の福本明日香氏、稲川方人氏(詩人)と登壇した。

荒井氏は「よその雑誌でベストワンをワーストワンにしたり、自分の映画をベストワンにしてみたり。同業者から営業妨害だといわれたり。宣伝、配給からはもうやらないといわれたり。(笑い)35年やってこれたのは、原稿料なしで書いてくれている執筆者の方たち、それと後ろにいる福本と稲川のスタッフがいたからです。ちゃんとお金を払っていないスタッフと執筆者にこれをあげたいと思います。どうもありがとうございました」と、同誌の忖度なき映画評論と名物の「ベスト10&ワースト10」に言及してジョークを交え受賞の喜びを語った。

■功労賞・角谷優氏

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角谷優氏

学生時代から名画座で働き始め、フジテレビのアナウンサー時代には「テレビ名画座」で解説を担当。1969年には「御用金」「人斬り」で初のテレビ局製作劇場映画の現場に立って、映画会社との、折衝、契約、宣伝などの実務をこなす。その後「ゴールデン洋画劇場」の枠を創設、「キタキツネ物語」(視聴率44.7%)など、映画の放送で高視聴率記録を輩出させた。以降「南極物語」「ビルマの竪琴」など、数多くの映画をプロデュースしてヒットさせる。「南極物語」公開40周年にあたり、その人生を通じての「映画愛」に敬意を表して功労賞が贈られた角田優氏。

角谷氏は「現役の映画人である荒井さんや片桐さんを前に口幅ったいようですが、私も根っからの映画大好き人間」といい、大学に入学と同時に池袋の映画館に就職して、そこでどういう映画を作ったらお客さんが喜ぶのか、どういう宣伝をしたら客さんがくるのかを肌で学ぶことができました」と、後にフジテレビの名プロデューサーとなる原点について語り、「御用金」を撮影中の三船敏郎のエピソードなどを明かした。

■特別賞・片桐はいり

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片桐はいり

女優の片桐はいりは、出自を「映画館出身」と語り、エッセイ集「もぎりよ今夜も有難う」で映画愛を語っている。大学卒業後「ブリキの自発団」で活動しながら、銀座文化(現・シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトをしていた。女優として有名になった現在も映画館応援企画ショートムービー「もぎりさん」Part1&2を持って全国の映画館を回り、もぎり&トークイベントなどを開催している。女優の傍ら、地元の映画館キネカ大森でもボランティアスタッフとして働いているそのブレない映画愛と功績に対して、特別賞が贈られた。

片桐は「銀座文化で大学のときにもぎりをはじめまして、今はキネカ大森で、映画を見に行くついでにお掃除して帰ってくるということをしています」といい、「映画はチケットをもぎってもらって入るのが、コロナで紙のチケットが無くなっなりましたし、今はQRコードになっちゃう。私は、チケットをもぎるという行為は、よく冗談で言ってるんですけど、火打石みたいな気持ちで、ビリっと気持ちよくもぎれた時は気持ちいいし、入る方もその方が気持ちいいと思います。行ってらっしゃい、良い旅を、きっちり戻ってきてねという気持ちでもぎってるんです。QRコードももっとそういう風にできないかなと思いながら、これからも映画館で働いていきます」と変わらない”もぎり愛”を語り、「俳優業ではまだ賞をもらったことがないです」といい、俳優としての演技賞にも意欲を見せた。

■日本映画1位「PARFECT DAYS」

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スプーンの代表取締役でプロデューサーの大桑仁氏

日本映画ベスト1位に選ばれた「PARFECT DAYS」では、ヴィム・ヴェンダース監督に代わり製作を担当したスプーンの代表取締役でプロデューサーの大桑仁氏が登壇。
ヴェンダース監督は奥さんとカメラマンのフランツ・ルスティグ氏とマネジメント担当の4人で来て、「それ以外は日本で、われわれが信頼している人をそろえて16日間で撮影をした」という。「彼の目線で東京という風景と人物を切り取ると、こんなにも魅力的になるんだなということを、すごくうれしくなりました」と振り返り、「ヴィムさんは日本が大好きなので、この賞を頂いたことをすごく喜ぶと思います」と語った。

■外国映画1位「TAR/ター」

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ギャガの水野貴夫氏

外国映画1位の「TAR/ター」は配給会社ギャガの取締役常務執行役員のディストリビューション事業部長水野貴夫氏が登壇。
「1年前は『コーダ あいのうた』を2位に、2020年は『ジュディ 虹の彼方に』が4位、2019年は『グリーンブック』を1位に選んでいただきました。毎年のようにベスト5に選出してただきまして、洋画の買い付け、配給を生業としています弊社としましては非常に光栄に思います」と述べた。そして「コロナ以降映画の鑑賞の志向、慣習が映画館から配信の方に変わってきており、洋画は特にそれが顕著だなと感じてます」という。「洋画の環境は厳しく、アニメの製作や海外セールスにも注力しております。ただし、ギャガの根幹は洋画の買い付けと配給であることに経営方針は変わっておりません。これからも皆さんに選んでいけるような良質の映画を買い付けていきますのでよろしくお願いします」とアピールした。

■文化映画1位「国葬の日」

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「国葬の日」の大島新監督㊧とプロデューサーの前田亜紀氏

文化映画は「国葬の日」と「妖怪の孫」が同票で1位となった。「国葬の日」は大島新監督とプロデューサーの前田亜紀氏が登壇。
同作は、安倍晋三元首相の国葬が行われた2022年9月27日、東京や安倍氏の地元の山口県下関市など全国10か所で、人々に国葬をどう思うか聞いたドキュメント映画。大島監督は「『国葬の日』は賛否両論ありましたので(1位を)頂いたことにとても驚いています。”否”の方を紹介しますと、『何が言いたいかよくわからない』というのが多かった。それから『国葬の是非を批評的に描いていない、検証をしていない』という声があった」という。「おっしゃることはよくわかる。ただ私は(国葬の)1日をスケッチに徹しようと思った。私自身は支持していなかった安倍政権が、なぜあれだけ長く続いたのか、そういう日本の空気、世の中を描けないかと感じて作りました」と製作意図を語った。
そして、1位を分け合った「妖怪の孫」について「内山監督が安倍政権を非常に批判的、批評的に見て描いている作品です。内山監督と僕とは安倍政権に関して思っていることはほぼ一緒だと思うんですけど、形が全く違うのは、ドキュメンタリーの豊かさ多様性だと思います」とドキュメント映画について語った。

前田プロデューサーは「あの日、とんでもないことが起きているなと、私の中でどうしても見過ごすことができなくて何かしなければと思って、大島さんにしつこくやりましょうと声をかけ続け、やっと国葬の2日前に重い腰を上げてくれた」と振り返った。

■文化映画1位「妖怪の孫」

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「妖怪の孫」の内山雅人監督㊧と古賀茂明氏

安倍元首相と安倍政権の闇を題材にしたドキュメンタリー「妖怪の孫」からは、内山雅人監督とプロデュサーを務めた古賀茂明氏が登壇した。
内山監督は「僕は全く賞に恵まれない人生を送ってきたものですから、本当にうれしいです」と喜び、「『妖怪の孫』は自分でも賞に向かない作品だなと思った。政治色が強いですし、反体制的なニュアンス。ただ僕としては、権力を監視する、権力の問題点をちゃんと指摘するつもりで、そんなに盾を突くつもりで作ってはいないんです。こういう映画に日本映画ペンクラブが賞を与えてくれてすごく嬉しく思っています」と語った。
そして「この映画は2年前に亡くなりました河村光庸プロデューサー(スターサンズ)が、『安倍さんをちゃんと描こう』とおっしゃいましてスタートした。でも途中で安倍さんが亡くなる前に亡くなった。河村さんは『映画はもっと自由であるべきだ』とずっと言ってました。私はテレビで30年育ちましたがこれはテレビでやるべきなのに、今や映画でしかできなくなった。だからこそ映画の自由が守られるべきだと思います」と製作の経緯について語った。公開されてからも「新聞やメディアが全く扱ってくれなかった」といい、映画館がポスターをかけてくれなかったり、予告編もなかなかかけなかったという。ただ「口コミで広がって、このての映画としては大ヒットした」と明かした。

古賀プロデューサーは「河村さんは『パンケーキを毒見する』(21年)という菅政権の(ドキュメント)映画を作りましたけど、それを私も手伝っていて、公開する直前ぐらいから『とにかく安倍政権をやらないとダメなんだ。菅さんだけじゃ終わりにできない』ということで『妖怪の孫』というタイトルを決めてやろうやろうとおっしゃっていた」。そして、亡くなる直前に「この『妖怪の孫』を世の中に出さないと死んでも死にきれない」と言っていたという。「河村さんの遺志を継いでやろうということでできた」と明かした。

また、自身が「報道ステーション」(テレビ朝日系)のコメンテーターを務めていた2015年1月、安倍政権を批判したことをめぐって降板し、最後の出演で「I am not ABE」と書いたフリップを見せるなどして波紋を広げたことがあったが、その件に言及し「それから東京のテレビの世界では一切出られなくなった。完全に引きこもりみたいになったんですけど、今日初めてこういう晴れがましい席に呼んでいただいて、しかも登壇までさせて頂いて感無量な気がしています」と語っていた。

■渡辺祥子代表幹事のあいさつ

日本映画ペンクラブ賞に荒井晴彦氏 日本映画ベスト1は「PARFECT DAYS」片桐はいりが特別賞
荒井晴彦氏を表彰する渡辺祥子代表幹事㊧

渡辺祥子代表(映画評論家)は「毎年表彰式はやっていますが、こうしてパーティ形式にして人が集まるのは3年ぶり。受賞された方はおめでとうございます。ペンクラブの会員が結構一生懸命選んでますので喜んでいただけると嬉しいです」と挨拶した。 【日本映画ペンクラブ】映画評論家、翻訳家、監督など映画関係者が加盟。(渡辺祥子代表幹事)

■2023年度 日本映画ペンクラブ会員選出ベスト

【日本映画】
1位 「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)
2位 「福田村事件」(森達也監督)
3位 「怪物」(是枝裕和監督)
4位 「ゴジラ-0.1 」(山崎貴監督)
4位 「花腐し」(荒井晴彦監督)(同票)
6位 「月」(石井裕也監督)
6位 「ほかげ」(塚本晋也監督)(同票)
8位 「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督)
9位 「エゴイスト」(松永大司監督)
10位 「BAD LANDS バッド・ランズ」(原田眞人監督)

【外国映画】
1位 「TAR/ター」(トッド・フィールド監督)
2位 「枯れ葉」(アキ・カウリスマキ監督)
3位 「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(マーティン・スコセッシ監督)
4位 「バビロン」(デイミアン・チャゼル監督)
5位 「別れる決心」(パク・チャヌク監督)
6位 「エンパイア・オブ・ライト」(サム・メンデス監督)
7位 「ウーマン・トーキング 私たちの選択」(サラ・ポーリー監督)
7位 「フェイブルマンズ」(スティーヴン・スピルバーグ監督)(同票)
9位 「パリタクシー」(クリスチャン・カリオン監督)
10位 「イニシェリン島の精霊」(マーティン・マクドナー監督)

【文化映画】
1位 「国葬の日」(大島新監督)
1位 「妖怪の孫」(内山雄人監督)(同票)
3位 「ハマのドン」(松原文枝監督)
4位 「キャメラを持った男たち―関東大震災を撮る―」(井上実監督)
5位 「1%の風景」(吉田夕日監督)