「ラ・コシーナ/厨房」メキシコ社会派監督が描く「世界の縮図」の「厨房」

(2025年6月16日10:30)


「ラ・コシーナ/厨房」メキシコ社会派監督が描く「世界の縮図」の「厨房」
「ラ・コシーナ/厨房」ポスタービジュアル

メキシコ人監督アロンソ・ルイスパラシオスがニューヨークの大型レストランの厨房を舞台に、移民のコックやウェイトレスなどスタッフの多忙な仕事ぶりや恋愛、人間ドラマを描いた異色の映画「厨房」が6月13日公開された。

原作は、約70年前のイギリスのアーノルド・ウェスカーの戯曲「調理場」で、メキシコ人監督アロンソ・ルイスパラシオスが、ニューヨークのレストランの厨房を舞台に全編モノクロで映画化した。コックやウェイトレスなどスタッフがまるで戦場のように走りまわり、怒号が飛び交う「厨房」、コックとウェイトレスの恋愛や、売り上げの一部が消える事件をめぐる移民雇用の問題など、ドキュメントタッチで描く。

アロンソ監督は、メキシコシティ生まれで、ロンドンの王立演劇学校で学び、長編映画デビュー作品「グロエス」(14)がベルリン国際映画祭の初監督作品賞など世界各地で40以上の賞を受賞。2018年、長編第2作『Museo(原題)』ではベルリン国際映画祭の銀熊賞(脚本賞)、アテネ国際映画祭とモレリア国際映画祭の監督賞を受賞。長編第3作『コップ・ムービー』はベルリン国際映画祭銀熊賞(編集部門)、アリエル賞の最優秀長編ドキュメンタリー賞に輝いた。本作『ラ・コシーナ/厨房』は初の英語作品として2024年のベルリン国際映画祭コンペティション部門・トライベッカ国際映画祭など19の映画祭・映画賞に出品・ノミネートされ、12受賞を獲得している。


「ラ・コシーナ/厨房」メキシコ社会派監督が描く「世界の縮図」の「厨房」
「ラ・コシーナ/厨房」のペドロ(ラウル・ブリオネス)㊨とジュリア(ルーニー・マーラ)

「ラ・コシーナ/厨房」メキシコ社会派監督が描く「世界の縮図」の「厨房」

主演のコックのペドロに、メキシコのアカデミー賞といわれるアリエル賞最優秀主演男優賞を受賞した「コップ・ムービー」(21、アロンソ監督)など、映画と舞台で活躍するラウル・ブリオネス。ペドロの恋人のウェイトレス、ジュリア役で、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた「ドラゴン・タトゥーの女」(10)、同助演女優賞ノミネート、カンヌ国際映画祭女優賞受賞の「キャロス」(15)などのハリウッド女優ルーニー・マーラ。
ペドロの紹介でレストランで働くエステラに、本作で長編映画デビューを果たしたメキシコ人俳優アンナ・ディアスなどのキャスト。

【ストーリー】
ニューヨークの観光客向けの大型レストラン「グリル」でコックとして働くメキシコ移民のぺドロ(ラウル・ブリリオネス)を頼って、少女エステラ(アンナ・ディアス)が船で自由の女神像を仰ぎ見ながらニューヨークに到着し、レストランにやってくるところから映画は始まる。採用されて出勤するが、レストランのキッチンはペドロたち大勢のコックやウェイトレスでごった返し、怒号が飛び交いカオスと化していた。ペドロはアメリカ人ウェイトレスのジュリア(ルーニー・マーラ)と交際していて休憩時間に人目を避けて会うなどしていた。そうしなか、会計係が昨日の売り上げが足りないと言い出し、スタッフ全員が面談させられる。アメリカ人のオーナーは、後ろくらい移民雇用を調べらえないよう「警察には突き出すな。首にしろ」と指示して犯人探しが始まり、普段から素行が悪いペドロに疑いがかかるが本人はきっぱり否定する。料理人やウェイトレスたちのストレスはピークに達して、新人のエステラは右往左往しかなく、厨房は嵐のような一日を迎える。

【見どころ】
アメリカンドリームを求めてやってきたメキシコ人のペドロなど移民のコックやウェイトレスなどスタッフたちが、まるで戦場のような「厨房」を舞台に繰り広げるドラマは、まさに2期目のトランプ大統領の関税戦争や移民締め付けなどへの反発が起きて、「王様はいらない」などのプラカードを掲げた反トランプデモが全米で頻発し、分断が深まり混乱する今のアメリカのカオスの縮図のようだ。
スタッフがそれぞれの持ち場で仕事に追われ、目まぐるしく動き、ごった返す14分ノーカットの厨房シーンは迫力と緊張に満ちた描写に圧倒される。また、アメリカ人ウェイトレスのジュリアとの結婚を夢見るメキシコ人のペドロの思惑や恋愛がはらむ危うさも移民問題が絡んで、まさにアメリカのそして世界の縮図のような「厨房」の嵐のようなドラマから目が離せなくなる。

【クレジット】
『ラ・コシーナ/厨房』
監督・脚本:アロンソ・ルイスパラシオス
原作:アーノルド・ウェスカー「調理場」(晶⽂社刊「ウェスカー全作品2」に収録)
製作:ラミロ・ルイス、ヘラルド・ガティカ、アロンソ・ルイスパラシオス、ローレン・マン、アイヴァン・オーリック
撮影:フアン・パブロ・ラミレス
出演:ラウル・ブリオネス、ルーニー・マーラ、アンナ・ディアス、モーテル・フォスター、エドゥアルド・オルモス
2024 年/モノクロ/スタンダード(⼀部ビスタ)/メキシコ、⽶国/英語、スペイン語/139分/G/原題:La Cocina
HPアドレス… sundae-films.com/la-cocina X… @lacocina_jp Instagram… @sundae_films
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6月13日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBIS GARDEN CINEMAほか全国公開