女子テニス協会、中国での全トーナメント中止 彭師さんの安否確認が不十分

(2021年12月2日12:20)

子テニス協会、中国での全トーナメント中止 彭師さんの安否確認が不十分
彭帥さん (Instagram/@ pengshuai_fanspage)

女子テニス協会(WTA)は1日(現地時間)、中国の元副首相を性的暴行で告発した女子テニスの元ダブルス世界ランク1位の彭帥(ほうすい=35)さんの安全性に関する懸念から、中国で開催されるすべてのWTAトーナメントを中止すると発表した。

彭帥さんは11月2日、張高麗元副首相の性的暴行疑惑をSNSに投稿し、中国当局によってすぐに削除された後、公の場から姿を消した。その後、中国の国営メディアが彭帥さんが自宅でくつろぐ写真や11月20日に関係者らとレストランで食事を市談笑する写真などを公開して「安全で元気にしている」が「プライバシーを尊重してほしいと言っている」などと訴えた。さらには北京冬季五輪を来年2月に控えたIOCのバッハ会長がTV電話で彭帥さんと会話して安全を確認し、彼女がプライバシーに配慮するよう求めていたなどと発表したがビデオは公開されないなど疑問が残った。

そうしたなかWTAの会長兼CEOスティーブ・サイモン氏は、「残念ながら、中国の指導者たちは、この非常に深刻な問題に、信頼できる方法で対処していません」と懸念を示していた。

米紙ニューヨーク・ポスト(電子版)によると、サイモン氏は1日(現地時間)、彭帥さんの告発について「検閲のない完全で透明な調査」を繰り返し要求してきたが実現されていないとして、香港を含む中国でのツアーを中断することを発表して「WTA理事会の全面的な支持を得ている」と述べた。

サイモン氏は、「良心の呵責から、彭師さんが自由なコミュニケーションを許されず、性的暴行の疑惑を否定するよう圧力をかけられているような状況で、選手たちに香港での試合を依頼することはできません。現状を考えると、2022年に中国でトーナメントを開催した場合、我々の選手やスタッフ全員が直面しうるリスクについても大いに懸念しています」としている。

中国では通常、シーズン終了後に開催される権威あるWTAファイナルズを含め、女子テニスの大会が毎年10回ほど開催されている。中国はWTA(本部:米フロリダ州セントピーターズバーグ)、NBA(運営:米ニューヨーク)、IOC(国際オリンピック委員会、本部:スイス・ローザンヌ)など、他の場所に拠点を置くさまざまなスポーツ団体にとって、数十億ドル(数千億円)の収入源となっているという。

国際テニス殿堂入りを果たした女子テニス界のレジェンドであるビリー・ジーン・キングさんは、「スティーブ・サイモンとWTAのリーダーたちが、中国と世界の人権を守るために強い姿勢を示したことを称賛します。WTAは、選手の権利を守るために、歴史の正しい側に立つことを選択しました。これは、女子テニスが女子スポーツのリーダーである理由のひとつです」と述べた。

米国テニス協会もサイモン氏とWTAを称賛し、ツイッターで「このようなリーダーシップは勇気があり、すべての個人の権利が保護され、すべての声が聞かれるようにするために必要なことだ」との声明を発表した。

欧州連合(EU)は11月30日(現地時間)、彭師さんが安全であることを示す「検証可能な証拠」を中国に求めると発表した。EUのスポークスマンは、「彼女が最近、公の場に再び現れたとしても、彼女の安全と自由に対する懸念は解消されない」と述べたという。

女子テニス協会は、中国国営メディアが提供するプレスリリースや写真ではなく、彭師さんの居場所についてより具体的な証拠を要求している。近年、中国のビジネスマンや活動家、一般人が、中国共産党の人物を批判したり、汚職や民主化運動、労働権運動の取り締まりで失踪するケースが相次いでいるという。

■彭師さんの削除された投稿の内容とは

彭師さんは削除された投稿の中で、元副首相に性的関係を強要されたと告発し次のように書いていた。「私は、地位と権力のある張高麗副大臣であるあなたに対して、あなたが恐れていないと言ったことを知っています。あなたの知性をもってすれば、確かに否定するだろうし、あるいは私に対して利用することもできるだろうし平気で却下することもできる。たとえ私が自滅しても、岩に卵を投げつけるように、あるいは炎に蛾が飛ぶように、私たちの真実を語るでしょう」と書いていた。
「自滅」を怖れず「真実を語る」と強い決意をつづっていた彭師さんだけに、一転して「プライバシーを尊重してほしい」とこの問題の追及をやめるよう言ったのだとしたら、一体彭師さん何があったのかの真相解明が待たれる。

彼女の投稿はすぐに検閲・削除され、その後、彼女が公の場から姿を消した。「#WhereIsPengShuai」(彭師さんはどこに)がソーシャルメディアのトレンドトピックとなり、セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみ、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、マルチナ・ナブラチロワといったテニス界のスターたちから支持を集めるなど、騒動に発展した。

しかし、中国で初めて政治問題になった「#MeToo」事件のニュースは、国内のメディアでは報道されておらず、オンラインでの議論も厳重に検閲されているという。「もし権力者が女性の声を抑圧し、性的暴行の疑惑をうやむやにすることができるなら、WTAが設立された基盤である女性の平等は計り知れない後退を被ることになるでしょう。私は、WTAとその選手たちにそのようなことを起こさせないし、起こさせてはならないのです」とサイモンは氏は訴えているという。彭師さん事件はさらに予断を許さない展開が続きそうだ。