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映画「ジョーンの秘密」 英国史上最も意外なスパイの核開発をめぐる究極の選択

(2020年8月8日10:30)

映画「ジョーンの秘密」 核開発の機密をソ連に渡した英国の女スパイの数奇な人生
「ジョーンの秘密」(渋谷HUMAXシネマ)

第2次世界大戦中に英国が進めていた核開発の機密をソ連のKGB(国家保安委員会)に渡した容疑で逮捕された「女スパイ」の数奇な人生を描いた2018年のイギリス映画。「英国史上最も意外なスパイ」といわれた女スパイの実話をもとにした英国の作家ジャニー・ルーニーの小説を「恋におちたシェイクスピア」(1999年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞した英国の名優ジュディ・デンチ主演で映画化した。若いころのジョーンを「キングスマン」シリーズの英女優ソフィー・クックソンが演じている。監督は「マクベス」や「冬物語」などデンチの舞台の演出を手掛けたトレヴァー・ナン。

■ストーリー

夫に先立たれ仕事も引退してイギリスの郊外で静かに暮らしていたどこにでもいるような80代の女性ジョーン・スタンリー(ジュディ・デンチ)が、2000年5月、突然やってきた英国の情報機関MI5(保安局)に逮捕される。第2次世界大戦中にソ連に核開発の機密情報を流したスパイ容疑だという。ジョーンは無罪を主張するが、死亡した外務事務次官のW・ミッチェル卿が残した資料から彼とジョーンがKGBと共謀していた証拠が出てきたという。
回想シーンで若いころのジョーン(ソフィー・クックソン)の波乱万丈の半生が浮かび上がる。ケンブリッジ大学で物理学を学んでいたころ同級生のユダヤ系ロシア人ソニア(テレーザ・スルヴォ―ヴァ)との出会い。彼女に誘われて参加した共産主義者たちの集会、そこで紹介されたソニアの弟のレオ・ガーリチ(トム・ヒューズ)との燃えるような恋。そして1941年に、核兵器開発機関で事務員として働き始めたころに、マックス・デイヴィス教授(ステイーヴン・キャンベル・ムーア)に才能を認められて、原子爆弾の開発という機密任務に参加することになる。そうしたなか、レオが原爆の設計図などの資料をソ連側に提供することを持ち掛ける。レオは愛していたが利用されたと思いきっぱりと断りレオとも絶縁するが、1945年、米・英・カナダの協力で原爆実験が成功し、広島と長崎に原爆が投下。一瞬にして年が壊滅され数十万人が死亡するニュースを見てジョーンは激しく動揺し、究極の選択をする。

■みどころ

第2次世界大戦の米ソの原爆開発競争を背景に、イギリス側の開発チームに参加したジョーンの数奇の運命はまさに事実は小説より奇なりを地で行くようなエピソードの連続で最後までスリリングな展開が続く。共産主義者のレオとの恋に燃えながらも、政治的に利用されていることを知った時の絶望、その後の教授との不倫関係といった恋愛ドラマを絡めながら、大量破壊兵器の原爆をめぐって歴史に翻弄されながらも、自分の信念を貫こうとするジョーンの選択と生きざまは胸に迫るものがある。デンチが圧倒的な存在感を見せ、若い時代のジョーンをソフィー・クックソンが熱演している。この映画にも登場する1945年8月6日、9日の広島・長崎への原爆投下と8月15日の日本の無条件降伏から75年。改めて戦争と核兵器と平和について考えさせられる映画でもある。(8月7日公開)