「逃げきれた夢」光石研が人生のターニングポイントを迎えた中年男を熱演

(2023年6月7日21:00)

「逃げきれた夢」光石研が人生のターニングポイントを迎えた中年男を熱演
「逃げきれた夢」(©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ)

名バイプレイヤーの光石研が「あぜ道のダンディ」以来12年ぶりに主演し、人生のターニングポイントを迎えた自分勝手で家族の中でも妻や娘から浮いてしまっている中年男性の悲哀や希望を熱演している異色作。
監督・脚本の二ノ宮隆太郎は、2012年に初の長編映画監督作品「魅力の人間」で、「第34回ぴあフィルムフェスティバル・PFFアワード2012」で準グランプリを受賞し、バンクーバー、ロッテルダムなどの国際映画祭に出品。さらに2017年には、監督・主演を務めた「枝葉のこと」が、「第70回ロカルノ国際映画祭・新鋭監督コンペティション部門」に選出された。本作のシナリオで「2019フィルメックス新人監督賞」グランプリを受賞して映像化が実現し、商業デビューを飾った。撮影は、「ドライブ・マイ・カー」の撮影監督を務めた四宮秀俊。二ノ宮監督の前2作に続くタッグとなった。


出演;光石研 吉本実憂 工藤遥 杏花 岡本麗 光石禎弘 坂井真紀 松重豊
監督・脚本:二ノ宮隆太郎
企画:鈍牛倶楽部 製作:木下グループ 配給:キノフィルムズ 制作プロダクション:コギトワークス 
©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ
2023年/日本/96分/公式サイト:nigekiretayume.jp

「逃げきれた夢」光石研が人生のターニングポイントを迎えた中年男を熱演
「逃げきれた夢」の光石研と吉本実憂㊧(©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ)

■ストーリー

北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平(光石研)は、そつなく学校の業務をこなしていたが、家では妻の彰子(坂井真紀)との仲は冷え切り、一人娘の由真(工藤遥)はスマホに熱中して周平が話しかけても生返事を繰り返していた。ある日、元教え子の平賀南(吉本実憂)が働く定食屋で、周平は会計を忘れてしまう。記憶が薄れていく症状に見舞われる。周平はこれまでの人間関係を見つめ直そうとして、学校を休んで旧友の石田啓司(松重豊)の店を訪れ、夜には会食したり、疎遠になっていた妻や娘と会話をしようとするが、妻や娘はそんな周平の異変に驚くばかりで受け止められず、周平の思いは空回りするが、それでも新たな未来に踏み出そうとしていく。

■見どころ

二ノ宮監督は、光石をリスペクトし、脚本をアテ書きするだけでなく、光石本人の人生を取材しそのエッセンスを物語に注入したという。これを受けての光石の演技が真に迫っている。定時制高校の教頭として生徒らに積極的に話しかけ面倒を見ようとするが、生徒らは胸を開く様子はない。夫としては疎遠になってしまった妻の体に触れてみて新婚時代の熱気をを取り戻そうとするが、気持ち悪がられ拒否されてしまう。父親として娘に饒舌に話しかけるがこれも空回りする。そして、久しぶりに飲んだ旧友に「自分勝手」だといわれ反発するなど、様々な顔を見せながら熱演し、圧倒的な存在感を見せている。
家族のきずなを取り戻そうとして妻と娘を前に、床に座り込んで延々と饒舌にかかりかけるが、相手にされないシーンなど、自分勝手だがどこか憎めない、人間臭い男を演じ切って、数々の映画やドラマで見せていた個性派俳優・光石研の集大成ともいうべき作品になっている。
さらには周平の妻役の坂井真紀が存在感を見せ、学生時代の同級生役の松重豊がこれまでにはないキャラクター像を見せる。吉本実憂が演じる元教え子とのやり取りや会話のシーンも緊迫感を漂わせ印象的だ。人生のターニングポイントにたじろぎながらも、じたばたしながらも、希望を失わなずに向き合い卯主人公のエモーショナルなヒューマンドラマになっている。
(6月9日(金)より 新宿武蔵野館、シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー)