「アシスタント」新人アシスタントがオフィスで体験するハラスメントの坩堝

(2023年6月19日11:30)

「アシスタント」新人アシスタントがオフィスで体験するハラスメントの坩堝
「アシスタント」((C) 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.)

名門大学を卒業し、映画プロデューサーになる夢を抱いて大手エンターテインメント会社に就職したばかりの新人アシスタントの女性が、長時間労働や常態化したハラスメント、会長の性加害疑惑などさまざまな問題に直面しながら、仕事をこなしていく1日を描いたドキュメントタッチの作品。
会長室のアシスタント、ジェーンをNetflixの「オザークへようこそ」(2017年)で3度にわたるエミー賞助演女優賞を受賞したジュリア・ガーナーが演じている。
監督は「ジョンベネ殺害事件の謎」(2017年)で知られるドキュメンタリー映画作家のキティ・グリーン。ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの数多くの女優らへのセクハラ、性的暴行事件をきっかけに2017年に巻き起こった「#MeToo」運動を題材に、職場の問題をフィクションの形で描いた。映画の中では1度も顔を出さないボスの会長はワインスタインを思い起こさせる。
主人公のアシスタントのジェーンという名前は、匿名の女性「Jane Doe」に由来するという。数百人及ぶ労働者にインタビューするなどのリサーチを行い、ハラスメントが渦巻く職場の末端で働く人々の代弁者ともいえる彼女の人物像を作り上げた。

「アシスタント」新人アシスタントがオフィスで体験するハラスメントの坩堝
「アシスタント」((C) 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.)

監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン
出演:ジュリア・ガーナー、マシュー・マクファデイン、マッケンジー・リー
製作:スコット・マコーリー、ジェームズ・シェイマス、P・ジェニファー・デイナ、ロス・ジェイコブソン
サウンドデザイン:レスリー・シャッツ 音楽:タマール=カリ キャスティング:アヴィ・カウフマン
2019年/アメリカ/英語/87分/2:1/カラー/原題:The Assistant
   (C) 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.
配給・宣伝:サンリスフィルム
6月16日(金)新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

「アシスタント」新人アシスタントがオフィスで体験するハラスメントの坩堝
「アシスタント」((C) 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.)

■ストーリー

名門ノースウェスタン大学を卒業したばかりのジェーン(ジュリア・ガーナー)は、映画プロデューサーになる夢を抱いて、激しい競争を勝ち抜いて有名エンターテインメント企業に就職した。業界の大物の会長の会長室でジュニア・アシスタントして働き初めて2か月になろうとしていたが、暗いうちにアストリアの自宅を出発して、ニューヨークのオフィスにほかの社員より早く出社し、一番遅く帰宅する毎日だった。会長のその日のスケジュールを記録した書類や分厚い台本をなどをコピーして配り、電話の対応、会長室のデスクの机の引き出しに薬を配置したり、掃除もするなど下働きの日々だった。
そうしたなか会長夫人から電話があり「(夫)からクレジットカードを止められた」と私的な苦情を言われ、対応すると、今度は会長から電話があり「私的なことに首を突っ込むな」「使えないやつだ」などと叱責され、謝罪メールを書くことに。先輩社員かその文面を指示される。はたまた、会長室に女性のイヤリングの片方が落ちていたり、女優志願らしい女性が訪ねてきたり。アイダホから来たという若い女性の新入社員を高級ホテルまで送り、その間会長は不在になる。ジェーンは若い女性が性被害に遭うのを心配し、意を決して立ち上がり、別の棟にある人事部を訪ねて告発しようとするが、キャリアを失いたくないなら告発はやめたほうがいいといわれ、挙句の果てに「君は(会長の)好みのタイプじゃないから心配するな」といわれる始末。オフィスに戻ると、すでに会長に報告されていて、また謝罪メールを書く羽目になるなど、ジェーンは翻弄されてストレスが重なっていく。どうするジェーン、と彼女の動向に目が離せなくなる。

「アシスタント」新人アシスタントがオフィスで体験するハラスメントの坩堝
「アシスタント」((C) 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.)

■見どころ

キティ・グリーン監督は、2017年に大学キャンパスにおけるセクハラの複雑さを探るドキュメンタリーを製作中に、ハーヴェイ・ワインスタイン事件が起きて「女性監督としてはセクハラはとても身近な問題で、話しやすいこともあれば話しにくいこともある。私は自分の不安や恐怖を自分の作品に注ぎ込むことが好きだから、この映画の焦点をハリウッドに向けることにした」と語っている。
そして映画の製作会社が舞台だが、ジェーンが体験する様々な理不尽な問題の描写はエンターテインメント業界に限ったことではなく、様々な職場の女性などに通じる問題として観客に問いかけてくる。
先輩の男性社員からは嫌な電話の応対を押し付けられたり、こまごまとした仕事に明け暮れ、会長が突然若い女性をオフィスの従業員に雇ったり、性加害疑惑を目の当たりにしながら多くを語らず淡々と仕事をこなしていくジェーンをジュリア・ガーナーが繊細に演じて存在感を見せ、ジェーンはどうするのかと緊張感をはらみながらドラマが展開していく。いまだに存在している悪しき女性搾取のシステムを改善するとともにジェーンがプロデューサーとしてデビューすることを願うばかりだ。