「キャメラを持った男たち―関東大震災を撮る―」関東大震災100年に蘇る大惨事現場フィルム

(2023年7月25日11:00)

「キャメラを持った男たち―関東大震災を撮る―」関東大震災100年に蘇る大惨事現場フィルム
「キャメラを持った男たち―関東大震災を撮る―」 (公式サイトから)

1923年(大正12年)9月1日午前11時58分に発生た関東大震災から今年で100年。大惨事となった現場でキャメラを回し続けた3人のキャメラマンが残した貴重な映像と撮影秘話を追ったドキュメント映画「キャメラを持った男たち―関東大震災を撮る―」が8月26日から公開される。

マグニチュード7.9の巨大地震で多くの建物は倒壊し、木造家屋が密集する地域は火災が発生し焦土となり、10万人を超える死者を出したとされる。現在、手記や回顧録、遺族たちの証言などによって震災直後を撮影したキャメラマンは、岩岡商會の岩岡巽、日活向島撮影所撮影技師の高坂利光、東京シネマ商會の白井茂の3人が判明していることが明らかにされる。

「キャメラを持った男たち―関東大震災を撮る―」関東大震災100年に蘇る大惨事現場フィルム
下谷区(現台東区)の被災現場 (公式サイトから)

当時の東京のランドマークだった浅草の12階建ての凌雲閣のビルが8階から上が折れて落下している映像。下敷になった見物客の十数人が即死したという。復旧は断念され3週間後に爆破解体された。
そして上野駅や鶯谷などに着の身着のままで集まった避難者の大群衆。大火災になり炎が渦巻く中、家事道具を乗せたリヤカーを引く非難差たち。さらには、陸軍被服廠跡地の空き地に避難した約3万8000人が、火災やそれに伴う「火災旋風」で死亡し、積み重なる遺体の映像。また川を流れる遺体。そして家を焼け出され、線路に放置されていた貨車を住居にする家族の映像に映っていた少年が後の人気放送作家・三木鶏郎になったなどのエピソードも紹介される。そのすべての映像が当時の凄惨な状況を克明に伝えている。
逃げさまよう避難者からは「こんな時に撮影してんのかよ!」という罵倒や暴力にもあったという。そうしたなか、重いカメラを抱えて現場に飛び出したキャメラマンたちの使命感や歴史を記録しようとするプロ意識が伝わってくる。

「キャメラを持った男たち―関東大震災を撮る―」関東大震災100年に蘇る大惨事現場フィルム
岩岡巽

大震災の現場を撮影したキャメラマンの一人である岩岡巽は、実業家・梅屋庄吉が設立した映画会社、M・パテー商會で撮影技師となり、その後岩岡商會を設立し、皇室行事や大相撲の撮影など報道撮影で高い評価を得ていたという。地震発生時は商會があった下谷区(台東区)根岸にいて、忠地の周辺を撮影して人々の喧騒や迫りくる火災などの生々しい状況を記録したという。

「キャメラを持った男たちー関東大震災を撮るー」関東大震災100年に蘇る大惨事現場フィルム
高坂利光

日活向島撮影所で撮影技師をしていた当時19歳の高坂利光は、地震が発生した9月1日に助手の伊佐山三郎と向島の撮影所から現場に急行。浅草、日本橋、銀座。日比谷を撮影し3日後の4日に撮影したフィルムを抱え鉄道を乗り継ぎ、7日に日活京都撮影所で現像し、その日の夕方に新京極帝国館で上映し大反響を呼んだという。高坂は溝口健ニ監督のデビュー作「愛に甦へる」(1923年)の撮影を担当。戦後は主にニュース映画のキャメラマンとして活躍した。

「キャメラを持った男たち―関東大震災を撮る―」関東大震災100年に蘇る大惨事現場フィルム
白井茂

白井茂は、日本の文化・記録映画界を代表するキャメラマンで、松竹キネマ研究所、東京シネマ商會、日本映画社に所属しながら「南京ー戦線後方記録映画」(1938年)など記録映画市場重要な作品の撮影を担当。地震発生時は埼玉県熊谷にいて、9月2日から撮影を開始して被災現場を奔走したという。撮影フィルムは文部省が買い取って、その後の復旧作業の様子も撮影し、「關東大震大火實況」(1923年)として同年10月に公開された。

そして、岩岡巽の娘の小宮求茜さんや高坂利光の息子の高坂定男さん、白井茂の息子の白井泰二さんらがインタビューで父親のエピソードを明かし、震災当時の3人のキャメラマンの状況などを鮮明に浮かび上がらせている。また都市史・災害研究家の田中傑氏が残された膨大なフィルムや写真を検証しながら、東京のどの地点から撮影したものかを特定して行く作業も興味深い。このドキュメント映画は100年前の関東大震災の貴重なそして歴史的な記録であるとともに、この映像の中からいつか来る可能性がある首都圏を襲う直下型大地震に備えるための教訓を汲み取ることもできるのではないだろうか。

■制作スタッフ

製作:村山英世
脚本・演出:井上実
演出助手:細矢知里 撮影:藤原千史、中井正義、今野聖輝 録音:西島房宏 照明:野本敏郎 音楽:清水健太郎 グレーディング・DCP...村石誠 音響:黒澤道雄 語り:土井美加 書:小宮求茜
web制作:後藤修身・浜崎友子
ドキュメンタリー映画(81分)
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■インタビュー(出演順)

渡邉 登(国立映画アーカイブ技術職員) とちぎあきら(国立映画アーカイブ客員研究員) 小宮求茜(岩岡巽の孫) 芦澤明子(映画撮影監督) 高坂定男(高坂利光の息子) 白井泰二(白井茂の息子) 川畑省子(川畑キクの孫) 田中傑(都市史・災害史研究家)柳田慎也(テレビ岩手釜石支局カメラマン)


■上映情報

東京・ポレポレ東中野、神奈川・横浜シネマリン、大阪・第七藝術劇場、岩手・みやこシネマリーン(2023年8月26日~)
兵庫・元町映画館(2023年9月2日~9月8日)
京都・京都シネマ(2023年9月8日~9月14日)
8月25日(金)13:30~(開場:13時)、東京・墨田区の東京都慰霊堂で、慰霊のための「東京都慰霊堂・特別上映会が」開催される。(当日先着順・申し込み不要・無料)
(問い合わせ)この映画に関する問い合わせは、記録映画保存センターまで。
URL:https://kirokueiga-hozon.jp/
Email:center_otoiawase@kirokueiga-hozon.jp
電話 : 03-3222-4249