「帰れない山」北イタリアの大自然を舞台にした対照的な2人の男の青春と友情と激情

(2023年5月4日11:15)

「帰れない山」北イタリアの大自然を舞台にした対照的な2人の男の青春と友情と激情
「帰れない山」のポスタービジュアル

北イタリアの雄大なモンテ・ローザ山麓を舞台に、都会育ちの少年ピエトロと、同い年の村の牛飼いの少年ブルーノが出会い友情をはぐくんだ後、大人になって再会した2人が、夏の間過ごす山小屋を建設して友情を深めてゆくドラマを大自然を背景に圧倒的な映像美で描く感動作。イタリア文学の最高峰といわれるパオロ・コ二ェッティの国際的なベストセラー小説を映画化した作品で、第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した。
大人になったピエトロ役に、「マーティン・エデン」(2019年)で第76回ヴェネツィア国際映画祭で男優賞を受賞し、Netflixの映画「オールド・ガード」(2021年)でシャーリーズ・セロンと共演するなどハリウッドでも活躍するイタリアの俳優ルカ・マリネッリ。ブルーノにボクシングや格闘技の経験を生かして2006年から2009年にかけてスタントマンとして活躍し、その後俳優として映画やドラマに出演。「Sulla mia pelle](2018年)でイタリアのアカデミー賞といわれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞主演男優賞を受賞したイタリアの俳優アレッサンドロ・ボルギなどのキャスト。

「帰れない山」北イタリアの大自然を舞台にした対照的な2人の男の青春と友情と激情
「帰れない山」のピエトロ㊧とブルーノ

監督・脚本はベルギー出身で「あきれた日常」(2009年)で国際的な注目を集め、「オーバー・ザ・ブルースカイ」(2012年)がアカデミー賞外国語映画賞のベルギー代表に選出されてノミネートを果たし、セザール章最優秀外国映画賞を受賞。さらにはティモシー・シャラメ主演「ビューティフル・ボーイ」などのフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンと、ベルギー出身の女優で監督・脚本家のシャルロッテ・ファンデルメールシが共同で担当した。私生活で2人はパートナーで子供の親でもある。撮影は、第74回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「TITANE/チタン(2021年)の撮影監督を務めたルーベン・インペンス。

「帰れない山」北イタリアの大自然を舞台にした対照的な2人の男の青春と友情と激情
「帰れない山」少年時代のピエトロ㊨とブルーノ

2022年/イタリア・ベルギー・フランス/イタリア語/147分/原題:Le Otto Montagne/日本語字幕:関口英子/後援:イタリア文化会館/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
 © 2022 WILDSIDE S.R.L. – RUFUS BV – MENUETTO BV – PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS – VISION DISTRIBUTION S.P.A.



■ストーリー

北イタリアのトリノで山を愛する両親と暮らす一人っ子の少年ピエトロは、1984年の夏に、アルプス山脈で2番目に高いモンテ・ローザ山麓のグラーノ村で過ごす。昔は183人の村人が住んでいたが、今は14人しか住人がいなくなっていた。そこでピエトロは「村の最後の子供」といわれる牛飼いの少年ブルーノと出会う。都会っ子で繊細なピエトロと、野性的なブル―ノと対照的な2人だったが、同じ12歳ということもあり仲良しになり、ブルーノに連れられて大自然の中で駆け回りかけがいのない時間を過ごす。
やがて思春期を迎えたピエトロは父親のジョヴァンニに反抗し、家族や山からも距離を置いていた。そうしたなか、父が亡くなったことを知り、村に戻ったピエトロは、ブルーノと15年ぶりに再会を果たし再び友情を温める。ピエトロがいない間に、ブルーノと父ジョヴァンニが本当の親子のように接していて、ブルーノは山に家を建てるよう頼まれていたことを聞かされる。失われた時間を取り戻すように2人で山小屋建設に取り組み、完成した時に毎年夏にこの場所でブルーノと私語すことを決めるなど、2人のそれぞれの人生が濃密にクロスし、新たなドラマを迎えてゆく。

「帰れない山」北イタリアの大自然を舞台にした対照的な2人の男の青春と友情と激情
「帰れない山」のピエトロ㊨とブルーノ



■見どころ

少年時代に出会い大自然の中で遊びまわった2人が大人になって再会したときに、一瞬にしてかつての友情を取り戻して、さらに深めていき、紆余曲折を経験しながら自分の人生と居場所を見つけてゆくドラマはエモーショナルだ。お互いの夢を語り合ったり、生き方をめぐって言い争いがあったりする一方で、時折2人が大自然の中で寝転んで何も話さずに一緒にいるシーンで、その沈黙が逆に2人の濃密な時間について多くを語っているように感じた。
ピエトロを演じたアレッサンドロ・ボルギは、この映画について「大きなテーマは友情で、人間同士の絆を作り上げることにあるけれど、ルカとは初めて会ったときからリアルな絆を感じた。それが今回役立ったと思う」と話し、ピエトロを演じたルカ・マリネッリも「ピエトロとブルーノはそんなに話をしない。そのかわり、話し合うときはとても深い」と明かしている。

「帰れない山」北イタリアの大自然を舞台にした対照的な2人の男の青春と友情と激情
「帰れない山」のピエトロ㊨とブルーノ

フェリックスとシャルロッテの共同監督・脚本ならではの骨太でありながら繊細で抒情的な作品になっている。監督は「この作品は友情の物語ですが、ラブストーリーとしてアプローチしました」といいい、「私たちは友人であり、恋人であり、パートナーであり、親であり、遺書に暮らす息子もいます。この映画を作ることで、主人公たちがセ調子、友情を見つけ、失い、家族との絆を切り、再びつながり、許しを得て、相手の選択を受け入れ、死に直面し、人生の本質に身をゆだねる過程ウィ探求することができました」と語っている。
そして、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「TITANE/チタン」の撮影監督ルーベン・インペンスが、モンブランなどを望むモンテローザ山麓の雄大で美しい大自然の四季の移り変わりや、厳しい冬、雄大な氷河などを余すところなく映像に映し出しているのは圧巻だ。
(5月5日(金・祝) 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国公開)