映画「海辺へ行く道」第75回ベルリン国際映画祭でスペシャルメンション獲得

(2025年2月24日13:00)

映画「海辺へ行く道」第75回ベルリン国際映画祭でスペシャルメンション獲得
第75回ベルリン国際映画祭でスペシャルメンションを獲得した横浜聡子監督

横浜聡子監督の映画「海辺へ行く道」(英題:Seaside Serendipity)が、第75回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門のスペシャルメンション(特別表彰)を受けた。

2月22日(現地時間)に行われた授賞式に出席した横浜監督は「この映画は劇的な出来事は起こりませんし社会問題を叫ぶ映画でもありません。何か素敵なことが起こるかもしれないというささやかな予感を胸に、無邪気に作品を作り続ける若者たちの映画です。今回賞をいただけたのは、そんな、目に見えない、言葉で表せない彼らの”予感”が伝わったからかもしれません。ジェネレーション部門の審査員の皆さん、この作品を選んでくださり本当にありがとうございます」とコメントした。
そして「ベルリンの観客の皆さんは、この映画に散りばめられたユーモアを見てたくさん笑ってくれました。私はその瞬間が一番幸せでした。ベルリンで聞いた笑い声と温かい拍手を支えにこれからしばらく生きていける気がします。観客の皆さん、ありがとうございます」と観客へ感謝の言葉を送り、喜びをかみしめた。

なお、ジェネレーション部門でのスペシャルメンション獲得は、 『ウィーアーリトルゾンビーズ』(19/長久允監督)、『風の電話』(20/諏訪敦彦監)があり、GENERATION Kplus部門での授与は本作が日本初となる。

一足先に日本に帰国していた原田琥之佑も「横浜監督はじめ、大好きなメンバーで作ったこの作品が素晴らしい賞をいただけたのは超絶嬉しいです!この映画は、僕たち中学生が主な登場人物になっています。だからこそ、『ジェネレーション部門』という同世代の子供たちの部門で選んでもらえたことにご縁を感じましたし、すごく誇らしく思います。もっともっと世界の人へ届いて欲しいと思っています」とコメントした。

「ジェネレーション部門」は1978年に設立され、子どもが主人公であり、子どもを題材に扱った作品が対象。今回、『海辺へ行く道』は、4歳以上が対象となるGeneration Kplusに選出され、国際審査員によるスペシャルメンションを授与された。
国際審査員からは、「この映画は、優しさと遊び心のあるユーモアで私たちの心を掴みました。明るく陽気な想像力と創造力で、芸術の無限の可能性と、予期せぬ出来事と出会う幸福を思い出させてくれました」と評された。

■ワールドプレミで横浜監督と原田琥之佑が舞台挨拶

映画「海辺へ行く道」第75回ベルリン国際映画祭でスペシャルメンション獲得
横浜聡子監督㊧と原田琥之佑

2 月 17 日(現地時間)に、公式上映、舞台挨拶、Q&A、フォトコールが行われ、ワールドプレミアを迎えた、横浜聡子監督の最新作『海辺へ行く道』。横浜監督と本作で長編映画初主演となった原田琥之佑は上映に合わせて現地入りし、集まった多くの観客たちからの惜しみない拍手と歓声に迎えられた。
コミカルな要素も散りばめられた本作の上映中は随所で笑いが起こり、Q&A の際も場内は和やかな雰囲気で、上映後には観客との Q&A が行われた。

横浜監督は、「原作は三好銀さんが書かれた同名の漫画です。プロデューサーの和田大輔さんから映画化しませんかと声をかけてもらったのがきっかけです。私もその漫画が大好きだったので、私でいいのであれば、難しそうだけどぜひやってみたいです、とお答えしまして、そこから 6 年ほど 2 人で企画を温めてやっと実現しました」と製作の経緯を明かした。
また、映画化する上で、「原作は絵がとても象徴的で、絵を見ただけで、世界観が見てる側にぱっと入ってくるような、力強さがある漫画なんです。映画にする上で、この強い絵をどうやって映像にするかというのは非常に悩みました」と苦労した点を語った。
そして、「撮影の月永雄太さんが、やはりこの映画では色の設計をちゃんとやろうと提案してくれました。ノスタルジックなカラーというか、原作とはまた少し違うんですけれど、時代や時間というのが一見するといつのかよく分からないような、どこにも限定されない浮遊した場所や時間 ということをなんとなく意識していた気がします。そういう流れがあって、実際の見た目とは少し違うような世界の色が出せたと思います」とこだわりを明かした。

本作で長編映画初主演を飾った原田は「今は 15 歳ですが、撮影は 13 歳の夏でした。(撮影を行った)小豆島は、とっても綺麗で、空気も新鮮で、空もすごく青くて、自然と(演じた)南奏介にどっぷり入り込めるような環境でした。撮影時は 163cm くらいだった身長も今は 173cm まで伸びました」と撮影時を振り返 る。

若者のアートを信じる力に心動かされたという観客から、横浜監督自身にとって「アート」とはなにかという質問が挙がると、「私自身も映画を作っている立場として、そして芸術を受け取る立場として申し上げますと、やはり学校で教えてくれないことを知ることができると思っています。学校で教えてくれることだけだと人生で困ることっていっぱいありまして。私たちは、どうすればいいんだろうという、さっぱり答えがわからない局面にいつも立ち向かわなければいけないわけですが、そんな時に、自分が読んだ本、観た映画や絵画とか、人の思想とか、そういうものを思い出して、自分がもっと生き続けてもいいんだ、まだまだ生きていけるっていう、勇気をもらえる。自分にとってアートはそういう存在です。この映画の中でも主役の奏介にとって芸術というものがそんな存在でずっとあり続けてほしいと思っています」と思いを語った。
また、本作の製作に対してのモチベーションについて尋ねられると、「原作は何話もの沢山の話で構成されてる漫画なんです。登場人物も多く、誰が誰だかわからないくらいいろいろな人が出てくるんです。そんな混沌とした原作の世界観の中で、主人公はいますが、沢山の人間たちの物語として面白く描けるんじゃないかなと思いました。とにかく沢山の人がこの場所を行ったり来たりする。その中に人間ドラマが微かに見えるような群像劇を目指しました」と話す。
また、いくつかのエピソードが代わる代わる描かれることについて質問が 及ぶと、「1 人 1 人の物語の全てを描ききらないこと、一部だけしか描かないことで、その人たちの生き様をちゃんと想像して欲しいなという思いで、あえて余白を残しています」とこだわりを明かした。

日常でインスピレーションを受けるものを尋ねられると、原田は、「僕が今 1 番ハマってることはギターで、毎日弾いています。いろんなギタリストの曲を弾いたり、彼らの言葉を聞いたりすることが、僕が今 1 番刺激的なインスピレーションを受ける機会になってるかなと思います」と回答。
横浜監督は「私は人の会話を盗み聞きするのが好きで、喫茶店とか入って、隣の人や近くの人が話してる日常の会話から、いろんなインスピレーションを受け取って、シナリオを書いたりします。今日もベルリンのホテルで、朝、宿泊してる皆さんがいろんなお話をしてるのをじっと見ていました。日常で人と人が対話してる姿っていうのが面白い。自分にとって 1 番刺激的なものです」と教えてくれた。

映画『海辺へ行く道』の脚本・監督は、『ジャーマン+雨』『ウルトラミラクルラブストーリー』『俳優 亀岡拓次』『いとみち』でその度ごとに話題を巻き起こして来た、横浜聡子。主演をつとめるは、約 800 人のオーディションを経て主演を勝ち抜いた 14 歳の俳優・原田琥之佑。
本作は、今年で 6 回目を迎える日本最大級の芸術祭・瀬戸内国際芸術祭 2025 への参加も決定。映画ながら現代アート作品のひとつとして位置付けられ、芸術祭に参加する稀有な作品となった。なお、同芸術祭での映画の参加は本作が初となる。本編の撮影は 2023 年の夏にオール小豆島ロケで実施。小豆島特有の陽光や海と空に囲まれた絶好のロケーションが十二分に生かされている。なお、日本での公開は今年 2025 年の晩夏に予定。

映画「海辺へ行く道」第75回ベルリン国際映画祭でスペシャルメンション獲得
「海辺へ行く道」場面写真
映画「海辺へ行く道」第75回ベルリン国際映画祭でスペシャルメンション獲得

【ストーリー】
アーティスト移住支援をうたう、とある海辺の街。のんきに暮らす14歳の美術 部員・奏介(原田琥之佑)とその仲間たちは、夏休みにもかかわらず演劇部に 依頼された絵を描いたり新聞部の取材を手伝ったりと毎日忙しい。街には何や らあやしげな“アーティスト”たちがウロウロ。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が次々に飛び込んでくる。自由奔放な子供たちと、秘密と嘘にまみれた大人たち。果てなき想像力と生命力が乱反射する海辺で、すべての登場人物が愛おしく、優しさとユーモアに満ちた、ちょっとおかしな人生讃歌。

【クレジット】
原作:三好銀「海辺へ行く道」シリーズ(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
監督・脚本:横浜聡子
出演:原田琥之佑 麻生久美子 高良健吾 唐田えりか 剛力彩芽 菅原小春 蒼井旬 中須翔真 山﨑七海 新津ちせ 諏訪敦彦 村上淳 宮藤官九郎 坂井真紀
製作:映画「海辺へ行く道」製作委員会
配給:東京テアトル、ヨアケ
©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会
公式サイトumibe-movie.jp
2025年晩夏公開