Plusalphatodayツイッター

伊藤詩織さん漫画家を名誉棄損で提訴 木村花さんの誹謗中傷事件で急ぐ

(2020年6月8日)

伊藤詩織さん漫画家を名誉棄損で提訴 木村花さんの誹謗中傷事件で急ぐ
(記者会見する伊藤詩織さん=THE PAGEのユーチューブチャンネルから)

フリージャーナリストの伊藤詩織さん(30)が8日、元TBS記者の山口敬之氏(53)から性的暴力を受けたと実名で被害を訴えた後、インターネット上で虚偽の内容を投稿されて名誉を傷つけられたとして、漫画家のはすみとしこさんら3人を相手取って、慰謝料など計770万円をの支払いと謝罪広告、投稿削除を求めて東京地裁に提訴した。伊藤さんが同日、代理人弁護士を伴って記者会見して明らかにした。ネット上で誹謗中傷を受けた木村花さんの死亡でショックを受け「急ぎ足で訴訟をスタートすることにした」という。

記者会見の冒頭で代理人の山口元一弁護士は「伊藤詩織さんが元TBSの記者の山口氏との件に関して、インターネット上で大変な誹謗中傷がたくさん行われている。特にツイッター上の誹謗中傷が目に余るものがある。そこでツイッターでツイートをした人に対して損害賠償と削除、謝罪広告の掲載の要求。さらに元のツイートをリツイートした人に対して損害賠償とリツイートの削除を求めるというのが今回の訴訟です」と説明した。

はすみさんのツイートを訴訟の対象に選んだのは「悪質性が高いと判断した」(山口弁護士)からだという。はすみさんはツイッターで伊藤さんが「枕営業をした」と示唆するようなイラストなどをツイートしたとしている。またリツイートした2名については「被害を広げないためにもなるべく早く特定できるのがこの2名」(同)だという。1人はクリエーターでもう一人は都内の医師で2人とも男性だという。はすみさんは、「風刺画はフィクション」「伊藤さんとは無関係」と主張しているという。

■「首をはねてやりたい」「死ね」…身の危険を感じた

伊藤さんは、今回提訴したはすみさんの件も含めて数多くの誹謗中傷にさらされたという。はすみさんの件とは別に身の危険を感じたツイートもあったという。「誹謗中傷のツイートであったりとか、コメントがオンライン上で向けられるようになったのがちょうど2017年に被害を公にお話ししたときからなんですけれども、そのときから本当に、オンライン上であったとしても、ダイレクトメッセージであったりだとかメールで直接届くこともあり、ソーシャルネット上に行かなくても日々の生活の中で自分の耳に届いてしまうという事が続きました」と話した。

「その中には誹謗中傷だけでなく、本当に命の危険を感じるような『首をはねてやりたい』だったりとか『死ね』だったりとか、また家族や実家や友人に向けられたものもありました」という。

「ただ昨年12月までは、私が受けた性暴力についての民事での第一審があったので、そちらにエネルギーを取られ、なかなか誹謗中傷についての裁判の舞台に行くことが精神的にも難しかった。3年という時間がかかってしまいました」と語った。

「ただその3年間の間に、本当にいろんな言葉が蓄積して、またそれが拡散され、私に向けられた言葉ですが、それを第三者の同じような境遇の方々が見て傷つくという声も今まで聞きました。そのことに対して本当に何かしなくてはいけないと思い、今回訴訟を起こすことになりました」と訴訟に至った経過について語った。

■レイプ裁判の第一審は「合意のないまま性行為に及んだ」と認定して伊藤さんの勝訴、山口氏は控訴

東京地裁は昨年12月18日、伊藤さんが元TBS記者の山口敬之氏からの性暴力被害を訴えた訴訟の判決で、山口さんが合意のないまま性行為に及んだと認定し、330万円の支払いを命じた。山口氏は判決を不服として控訴した。

■「今回の訴訟は被害の一つ」

「今回の訴訟はその中の一つの被害でありまして、これまで荻上チキさんをはじめとするリサーチチームの方々5名にお願いして、その中からいろいろなツイートがあったんですけれども、合計で70万件ほどのツイート、中には本当にサポーティブなものもあったんですけど、その中からどういったものを訴訟対象にしていくかとを選びたい。一番最初に今回アクションすることにしました」という。

「本当はこうやってお話しすることも怖かったですし、こうやって表でお話しすることで、こういった声が増えてしまうんじゃないかということも考えましたし、やはり発信するという仕事をしているので、そういったところでこのようなオンラインでの声が聞こえるたびに発信しずらくなってしまい、そういった事でもこの訴訟はすごく考えました。その中には今回本当にそういった誹謗中傷の言葉を自分で確認して、それをまた訴訟にしていくということが本当に精神的につらくて、なので今回チームの方にお願いできたことは第一歩が踏めたことだと思います。そんな中で今までいろんなハードルがあったので、今後何かのお役に立てればとそのハードルの共有をさせていただきたいと思います」

■誹謗中傷の訴訟を起こすにあたってのハードル

「まず第一に、この訴訟をするにあたって一つ目のハードルは資金面のハードルでした。弁護士の方にお願いするには1件でも数十万円かかります。このような誹謗中傷、特に匿名の場合は情報開示請求がまず必要です。その次に誹謗中傷の裁判になるので二重の裁判が必要になり、本当に資金面でハードルがあります。今回は民事事件のサポートをしていただいたオープン・ザ・ブラックボックスで募った資金からサポートいただきこの訴訟にたどり着くことができましたが、私個人ではできないことでした。そう考えると本当に個人的にこういった被害を受けて、個人レベルで動こうとすると、まず資金面のハードルがあるという事を皆さんに知っていただきたいです」

「第二番目にやはり、一番自分の中で大きかったのが心理面のハードルです。やはり私の中では3年かかってしまった。今までそういったことで本当はもっと早く動くべきことでした。というのはオンラインではIPアドレスを保存していただけるのが3か月以内となっています。そういった中で今まで蓄積してしまった、これ以上見たくないような言葉についても時間を巻き戻して訴訟をすることが難しいものもたくさんあります。ただ、自分がその言葉に気づくという事に時間がかかる場合もありますし、自分がエネルギーを使って訴訟に向き合う事にも時間がかかってしまったので、そういった面では今後の改善点としてIPアドレスの保持という点で長くしていただければなと思う点のひとつであります」

「それと関連して時間の面のハードル。削除や凍結、ログ期限切れの恐れもあるのでIPアドレスの保持であったりだとか、スピード感を持って情報開示請求ができるようにしていただければなと今後の改善点として思うところです」

「また情報開示認定のハードルもあります。情報開示をお願いする際に、本当にこれが侮辱にあたるものというはっきりしたものでしか情報開示することが難しいと今の時点ではされています。本当であればその情報開示の次にある誹謗中傷についての裁判で内容が争われるべきであるはずなのに、現段階ではその手前の情報開示の時点でその認定のハードルがとても高くなってしまうことも今回いろいろ試してみて分かったことでした」

「今日は何から話していいか悩んでしまったんですけど、個人的な経験から言いますと、本当にこういった言葉を受けると、やはり相手が見えないので、その中で70万件と聞くと、どれくらいの人が今道を歩いて人がどれくらいの人がそう思ってこういった言葉を発しているのか、本当に怖くなってしまうんですね。私の場合はそういったこともあって2017年の会見の後に身の危険を感じてイギリスに身を移すということもありました。こういったことが起きると、じゃあ見なければいいじゃないかという声が聞こえます。ただわたしたちの今の生活の中でオンライン、インターネットというのは本当に欠かせないものになっていまして、そういった中でそこを見るなというのは本当に難しいもので、また見なくても入ってきてしまうものなんですね。それが日常的に3年間続いたというのは本当に精神的な大きな負担になっていました。この裁判の準備をしている最中も本当に苦しかったです。そんなときに見返したくなかった言葉をまた見ることになり、気にしない気にしないと思っていても本当に心にどんどんどんどん傷が刻まれていってしまうという事がありました

■「木村花さんの事件を聞いてショックでスピード感を持ってアクションを起こさなければと思い」

「そんなときに木村花さんのあの事件を耳にし本当にショックでした。それを聞いてやはりスピード感を持ってこのことを、わたしもアクションを起こさなければいけないとおもい今回急ぎ足でこの訴訟をスタートすることになりました」

「本当に相手が見えないというのが凄く私の中で大きくて、今回改善面としてお願いしたいのは、そういった相手が見えない人達から受ける言葉に対してやはり情報開示の壁が本当に高く大きなハードルになっているので、そこをもっと低くしてほしい、そこからそう言った言葉についての議論を進めていければなと思っております」

「ただ言葉には凄く大きなパワーがあるので、今まで本当にサポートしていただいた心強い言葉もたくさんありました。と同時に言葉には人を傷つけときには死に追いやってしまう事もたくさんあります。なのでこれ以上このようなケース、このように言葉で人を傷つけることがないよう何かアクションを起こしていかなくてはいけないと思っています。また、これは個人的な経験ですけどやはり、こういった言葉を受け続けて外を歩けなくなってしまった事があります。ただそのときに変装したんですけど、その変装を止めたときにですね、気づいて声をかけてくれる人はみなさん凄く応援してくださる方々だったんですね。オフラインの世界ではそこまで面と向かってそういった厳しい言葉を投げかけられる経験はありませんでした。なので、そういった言葉を投げかける方々に対して、それを本人の前で言えるのか、責任を持って言えるのかという事を考えてそう言った言葉を今後発する前に一度考えていただきたいなというのが願いです」

■荻上チキ氏「今回訴訟の対象になった方はごくごく一部で、今後さらに情報を特定し順次対処していく」

会見では伊藤さんからリサーチを依頼された荻上チキ氏も質問に答えて「伊藤さんが言った70万件はツイートの数ではなくてネット上で伊藤さんについて書きこまれた書き込みの総体が70万件」だという。「伊藤さんについて書かれたもの(ツイッター)は21万件」という。今後はツイッターに限らず様々なサービスを訴訟対象にしていくという。「フェイスブック、ブログ、2ちゃんねる、5ちゃんねる、まとめサイト、ニュースサイト、ユーチューブ、ヤフー知恵袋などネット上で伊藤さんについてどういった言及があるかという事をリサーチした」という。その中で「否定的、攻撃的書き込み」や「名誉棄損の書き込み」がどれくらいあるのかを補足。全体を把握して問題投稿の割合を補足し、その中で悪質性が高いものをチームで確認していき、その中から訴訟対象を絞っていくという作業をしたという。

その中でツイッターの問題投稿を目視確認した後、その問題投稿をリツイートしている人と「いいね!」している人のリストを作成し、その中から特定可能性が高いとされる人をフォローしたという。「今回訴訟の対象になった方はごくごく一部で、今後さらに情報を特定し次第順次対処していく」という。

■「これは私個人に向けられた言葉ですけど、同じ経験をした人に対しても、同じようにダメージがあるもの」

はすみさんの「枕営業」などというツイートについて聞かれ「最初に見たのが2年ぐらい前だったと思うんですけど、かなりショックで、彼女がその絵を出してそれを見ながらほかの、そこには国会議員の人もいたと思うんですけど、ネット番組だったのかな、その絵を見ながら笑っている者も見かけたんですね。本当にそれは傷つきましたし。ある時女子高生の子から相談を受けて、彼女は痴漢の被害に遭ったと。そういったときにどうすればいいかわからなくてネットを検索したときにセカンドレイプ的な発言も見てしまって、親にも相談できなくなってしまった。そういった経験があるのでセカンドレイプ的な、そういった経験に対する誹謗中傷をどうやったら減らせるのかという相談だったんですね。その時自分は何もアクションを起こせていなかったのですごく苦しい気持ちになってしまって、なので今回これは本当に私個人に向けられた言葉ですけど、同じ経験をした人に対しても、同じようにダメージがあるものなんだなというところもすごく重く受け止めています」と語った。伊藤さんの今回の訴訟はネット上の誹謗中層に歯止めをかけるステップとなる可能性もあり、山口さんを相手取った性暴力の民事裁判の控訴審と共に裁判の成り行きが注目される。