ナチスとソ連に翻弄されるウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の3家族の数奇の運命

(2023年7月6日17:00)

ナチスとソ連に翻弄されるウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の3家族の数奇の運命
「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」㊧からポーランド、ウクライナ、ユダヤ人の3家族(©MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020) 

第2次大戦下、ウクライナ人、ポーランド人、ユダヤ人の3家族が、ナチスやソ連軍の占領下に置かれる激動の時代に、大地と子供たちを守り抜こうとして生きる姿を描いた作品。クリスマスキャロルとして有名な「キャロル・オブ・ザ・ベル」を劇中でウクライナの少女が歌う。

同作のオレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督は、6月28日に都内で行われたウクライナ支援チャリティ試写会にビデオメッセージを寄せ、同作について「残念ながら全てのウクライナ人が現在経験している様子と非常によく似ています」と語り、「ウクライナの国、ウクライナ人の生活、そして現在の戦争についてもっと知っていただきたいです。どうか我々のためにお祈り下さい。我々のことを思い出してください。ウクライナに栄光あれ!」と訴えた。
監督の思いに代表される現在のウクライナの原点ともいえる映画になっている。

「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、ウクライナで古くから歌い継がれている民謡「シェドリック」に 1916 年“ウクライナのバッハ”との異名を持つ作曲家マイコラ・レオントーヴィッチュが編曲し英語の歌詞をつけたもの。映画「ホーム・アローン」(1990年)のなかで歌われ、世界中に知られるようになった。

ナチスとソ連に翻弄されるウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の3家族の数奇の運命
「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」ソフィア㊧と子供たち(©MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020)  

出演:ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ、ヨアンナ・オポズダ、ポリナ・グロモヴァ、フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ
監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ
脚本:クセニア・ザスタフスカ 撮影:エフゲニー・キレイ 音楽:ホセイン・ミルザゴリ
プロデューサー:アーテム・コリウバイエフ、タラス・ボサック、マクシム・レスチャンカ
2021/ウクライナ・ポーランド/ウクライナ語/シネマスコープ/122分/原題:Carol of the Bells
配給: 彩プロ 後援:ウクライナ大使館 映倫G 
(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

ナチスとソ連に翻弄されるウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の3家族の数奇の運命
「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」「シェドリック」を歌うヤロスラワ(©MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020)  

■ストーリー

1939 年1月、ポーランドのスタニスワヴァ(現ウクライナのイバノフランコフスク)のユダヤ人が住む家に、ウクライナ人とポーランド人の家族が引っ越してくる。ウクライナ人の母親ソフィア(ヤナ・コロリョーヴァ)の娘ヤロスラワ(ポリナ・グロモヴァ)は音楽家の両親の影響を受けて歌が得意で、ウクライナの民謡「シェドリック」(「キャロル・オブ・ザ・ベル」)を歌うと幸せが訪れると信じて皆の前で披露していた。第2次世界大戦が開戦し、ソ連軍が侵攻して占領。その後ナチス・ドイツに占領され、さらに再びソ連の支配下になる。そうしたなか、ポーランド人とユダヤ人は迫害されて、両親は連れ去られ、娘たちだけが家に残される。さらに、ソフィアの夫ミハイロ(アンドリー・モストレーンコ)は抵抗運動に関与したとしてナチスに処刑されてしまう。ソフィアは、自身の娘ヤロスラワ、ユダヤ人の娘ディナ、ポーランド人の娘テレサを抱え、さらには「この子に罪はない」とドイツ人の息子も匿い、ソ連軍兵士の厳しい調査や、ナチスのユダヤ人狩りから必死に子供たちを守り抜こうとする。

ナチスとソ連に翻弄されるウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の3家族の数奇の運命
「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」ソフィア㊧を尋問するソ連兵(©MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020)  

■見どころ

前述のチャリティ試写会で挨拶したウクライナ駐日大使セルギー・コルスンスキー氏は「我々ウクライナ人にとってソ連時代は、ウクライナの占領時代でした。そしてウクライナがロシア帝国の一部であったときと合わせて370年間は、ウクライナが占領に耐えていた時代でした。被占領地の経験から、今こそ自由になりたいということで、ウクライナ人たちが今必死で戦っている。そういうことも、この映画を見ながら皆さんに考えていただきいと思います」と語っていた。
まさにナチスとソ連に翻弄されたウクライナの歴史を知らされる。そうであるがゆえに国土と自由を命懸けで守り抜こうとするウクライナ人の魂を感じさせる作品になっている。フィクションだが、脚本家クセニア・ザスタフスカ氏の祖母の体験をもとにしていることや、監督が前作のドキュメンタリー「THE BORDER LINE」(2019年)で第「2次世界大戦中のウクライナとポーランドの関係や、ナチスやソ連によってウクライナが破壊されたことを描いた」(監督)ことがあることもあり、リアルでドキュメントタッチの展開で3家族の運命や無垢の子供たちの言動に目が離せなくなる。そしてソフィアやその夫の生き様に現在のウクライナ人の原点を見る。
(7月7日(金) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開)