「福田村事件」関東大震災から100年、震災直後に起きた行商団惨殺事件を映画化

(2023年8月14日11:00)

「福田村事件」関東大震災から100年、震災直後に起きた行商団惨殺事件を映画化
「福田村事件」(公式サイトから)

1923年9月1日に発生し、死者・行方不明者10万人超といわれる関東大震災から100年。震災から5日後の9月6日に香川県の薬売りの行商団15人が、千葉県東葛飾郡福田村で、自警団100人以上の村人に朝鮮人と疑われ、幼児や妊婦を含む9人が殺された”福田村事件”を、史実に基づいて劇映画化した力作。
監督は、オウム真理教を題材にした「A」(98年)、その続編の「A2」(01年)やゴーストライター問題が発覚した佐村河内守を題材にした「FAKE」(16年)、東京新聞望月衣塑子記者の取材活動を追跡した「i-新聞記者ドキュメント」(19年)などの森達也。

企画は、日活ロマンポルノの名作や「Wの悲劇」(84年)、「ヴァイブレーター」(93年)の脚本や、「この国の空」(16年)、「火口のふたり」(19年)、「花腐し」(11月10日公開)などの監督を務めた脚本家で映画監督の荒井晴彦。脚本は佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦。

朝鮮で日本軍による虐殺を目撃して千葉県福田村に帰国した教師・澤田智一に井浦新、その妻に田中麗奈、香川県の行商団の代表に永山瑛太、福田村の船頭に東出昌大、地元の新聞社の記者に木竜麻生、同新聞社の編集長にピエール瀧、在郷軍人役に水道橋博士など個性派俳優の多彩なキャストがそろった。

2023年/日本/137分/英題:SEPTEMBER1923
©「福田村事件」プロジェクト2023
配給:太秦 製作プロダクション:ドッグシュガー
製作:「福田村事件」プロジェクト
公式サイト:www.fukudamura1923.jp
9月1日(金)よりテアトル新宿、ユーロスペースほか全国公開

■ストーリー

朝鮮で日本軍による虐殺事件を目撃した澤田智一(井浦新)は、教師をしていた日本統治下の京城を離れ、妻の静子を連れて故郷の福田村に帰って来た。そして沼部新助(永山瑛太)ら香川県の薬売りの行商団15人が、関東地方に向かっていた。そうしたなか9月1日に大震災が関東地方を襲う。建物は倒壊し大火災が発生して多くの人たちが犠牲になった。大惨事の混乱の中で「朝鮮人が襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をしている」といった流言飛語が飛び交い、地方の町や村にまで広がった。2日に東京府に戒厳令がしかれ、3日には神奈川、4日には福田村がある千葉県にまで拡大し、大混乱に陥った。
福田村にも噂が広がり、人々は疑心暗鬼になり、恐怖に浮足立ち、地元の新聞社は情報の真偽を確かめるために奔走したが真相はつかめないまま混乱だけが広がり、震災後の混乱に乗じて社会主義者への弾圧がひそかに行われた。そして9月6日、村を通りががった行商団が朝鮮人と間違われ襲われる大事件が発生する。

■見どころ

「福田村事件」を歴史の闇に葬られてはならないとして、真正面から描いているのがこの映画の核心になっている。そして、井浦新や田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、木竜麻生、ピエール瀧、水道橋博士らの熱演で歴史の真実に迫る壮大な群像劇になっている。
井浦と田中が演じる澤田夫妻の波乱の夫婦関係や、東出演じる村の船頭と、コムアイ演じる戦争で夫を亡くしたした村の未亡人との情愛など、男女の情念のドラマが描かれているのも見どころの一つになっている。
竹槍を持った自警団や村人に取り囲まれ、朝鮮人ではないのかと詰め寄られ、永山瑛太演じる行商団のリーダーは「日本人だ」と懸命に否定するが、誤解が誤解を生みエスカレートしてゆき大惨事へとつながっていく。フェイクニュースや憎悪感情が膨らみ暴走していくメカニズムを惨殺シーンを交えてリアルに描いている。
劇映画だが、社会派ドキュメンタリーを数多く手がけてきた森監督ならではのリアリティや問題提起が際立っている。1910年の日韓併合で朝鮮が日本の植民地になって以来、朝鮮人に対する民族差別は急速に強まったといわれる。そうした背景があって差別的なデマゴーグが流布され、虐殺事件が多発したといわれるが、歴史的事実に正面から向き合った快作となった。