「新聞記者」権力の闇に立ち向かう女性記者と内閣情報調査室の攻防がリアル

(2019年6月30日)

「新聞記者」権力の闇に立ち向かう女性記者と内閣情報調査室の攻防がリアル
「新聞記者」(新宿ピカデリー)

菅官房長官の定例記者会見で政権の疑惑などに鋭く突っ込み続けて注目された東京新聞社会部の望月衣塑子記者の著書「新聞記者」(角川新書)を原案に、韓国の演技派女優シム・ウンギョンと日本の若手俳優・松坂桃李のW主演で映画化した社会派サスペンス。監督は「オー!ファーザー」(2014年)、「デイアンドナイト」(2019年)などの藤井道人。

望月氏の著書「新聞記者」はノンフィクションで、いわゆる「モリ・カケ(森友学園、加計学園)疑惑」や菅官房長官の定例会見での「質問妨害」をめぐる攻防などがすべて実名でリアルに描かれ、現政権の問題とそれに立ち向かう記者の取材姿勢と問題提起が真に迫っている。映画はそれを原案にしているが、こちらはフィクションになっている。望月氏と並んで原案でクレジットされているプロデュサーの河村光庸が、現政権の問題に直結するフィクションとして練り上げた。エンターテインメントの要素も盛り込んだ見ごたえのある社会派サスペンスになった。

映画の主人公は東都新聞の社会部記者・吉岡エリカ(ウンギョン)で、日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある強い思いを胸に秘めて新聞記者として働いていた。そうしたなか、医療系大学新設計画に関する極秘文書がFAXで編集局に届く。表紙には羊のイラストが描かれていて匿名の告発だった。裏付けをとるために取材を進めていくと意外な事実や政権の暗部についての情報が浮上するが、決定的な裏付けの入手に難航する。

一方、内閣調査室に勤務する杉原拓海(松坂)は、上司の内閣参事官・多田(田中哲司)に命じられるまま、政権に不都合なニュースにはSNSに虚偽の情報を流すなどして情報操作をする任務に疑問を感じ始めていた。そうしたなか、久しぶりに再会した元上司の神崎(高橋和也)が謎の投身自殺を遂げ、やり場のない怒りを抱える。そして吉岡記者と杉原の思いが交錯して、極秘文書の報道と政権の闇に迫って行くというストーリー。

文部科学省の前川喜平前事務次官を連想させるシーンも

加計学園に獣医学部を新設する計画に関連した疑惑など現政権の一連の問題を連想させるシーンがいくつも登場してくる。ジャーナリストの伊藤詩織さんが昨年5月に記者会見を開き、元TBSワシントン支局長から受けたレイプ被害を告発した事件を連想させるシーンもあった。映画ではこれと似たような事件の被害女性の記者会見を取材した吉岡記者が、記事の扱いが小さいとデスクに食って掛かる編集局内部のシーンも。また内閣調査室の多田が、被害女性と野党の結びつきをでっち上げるよう杉原に指示するくだりも登場するなど緊迫した展開が続く。

また文部科学省の前川喜平前事務次官が加計学園に獣医学部を新設するにあたっての内部文書の存在を記者会見で話す直前に、「出会い系バー通い」を親政権新聞といわれる全国紙にすっぱ抜かれたことを連想させるシーンもあった。

「春のワルツ」(2006年)、「ファン・ジニ」(同)、「太王四神記」(2007年)などのドラマや、「王になった男」(2012年)、「怪しい彼女」(20014年)などの映画で知られる韓国の演技派女優シム・ウンギョンが、粘り強く取材を続ける敏腕女性記者を抑制した演技でリアルに演じている。松坂も政権の闇に翻弄される若き官僚を熱演。また「国を守るため」を連発して謀略に狂奔する内閣参事官役の田中哲司の怪演もドラマを盛り上げている。
(2019年6月28日公開)