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「リチャード・ジュエル」 アトランタ爆弾事件で英雄から一転して容疑者にされた男の悲劇をリアルに再現

(2020年1月18日)

「リチャード・ジュエル」 アトランタ爆弾事件で英雄から一転して容疑者にされた男の悲劇をリアルに再現
「リチャード・ジュエル」 (TOHOシネマズ六本木ヒルズ)

1996年のアトランタ五輪で起きた爆弾事件で爆発物を発見して多くの人の命を救ったにもかかわらず、一転して容疑者にされてFBIとマスコミに執拗に追い掛け回される被害に遭った実在の警備員リチャード・ジュエルの悲劇を巨匠クリント・イーストウッド監督が映画化した話題作。マリー・ブレナーが1997年に雑誌「ヴァニティ・フェア」に発表した記事「The ballad of Richard Jewell」が原作。ジュエルを俳優でコメディアンのポール・ウォルター・ハウザーが演じて本人にそっくりと注目された。彼の母親をキャシー・ベィツ、ジュエルの弁護士をサム・ロックウェルが演じている。ベィツはゴールデングローブ賞の助演女優賞にノミネートされた(受賞は「マリッジ・ストーリー」のローラ・ダ―ン)のに続いてアカデミー賞(2月9日授賞式)の助演女優賞にノミネートされた。

■ストーリー

1996年7月27日、警備員のリチャード・ジュエルはアトランタ五輪の会場近くの公園で行われていたイベントの警備をしている最中に爆発物を発見して、会場にいた観客や関係者を非難させた。群衆が逃げ惑う中爆発物が爆発して2人が死亡100人以上の負傷者を出す大惨事になったが、リチャードの通報のおかげで被害を最小限に食い止めることができたことが分かり、彼は一躍英雄となりテレビでも報道された。ところが、数日後に地元紙の敏腕女性記者が「FBIがリチャードを容疑者として捜査」などと犯人扱いする”スクープ“を放ち一転して爆弾犯扱いされ、FBIは執拗にリチャードに自白させようとし、マスコミは連日母親と2人暮らしの自宅に大挙して押し寄せ大騒動に発展する。

絶体絶命のピンチに陥ったリチャードは以前働いていた事務所のワトソン弁護士(サム・ロックウェル)に助けを求め、リチャードの無実の主張を信じたワトソンは全力で弁護活動を続けるというストーリー。

■見どころ

「アメリカン・スナイパー」(2014年)、「ハドソン川の奇跡」(2016年)、「15時17分、パリ行き」(2017年)などで実際に遭った事件をドキュメントタッチで描いて近年の巨匠の路線にまた新たな1作が加わった。捜査当局の容疑が固まっていない段階でのリークと、裏付けのない飛ばし記事で無実の人間が犯人扱いされ、それが一気に拡大してメディアスクラムが起きるという権力を持つ側の「捜査と報道」の問題に鋭く迫っている。

後にオウム真理教の犯行と判明した松本サリン事件(1994年)で、発生当初、第一通報者の河野義行さんが警察とマスコミから犯人扱いされた報道被害も同じような構図だった。松本さんは先日行われたこの映画の試写会のイベントに参加して映画について話していたが、まさにリチャードと同じような体験をしたのだった。日本でもしばしばメディアスクラムや無実の人間が犯人扱いされたりする被害が起きている。この映画では、リチャードがかつて警備員として勤務していた大学の学長がFBIにリチャードが大学でトラブルを起こしていたことをFBIに通報したことがきっかけで、犯人逮捕につながる有力な情報がなかったFBIは、リチャードをマークするようになる。そうしたなか地元紙の敏腕女性記者がFBIの捜査員にバーで会い、文字通り体を張ってネタを求め捜査員はFBIがリチャードをマークしていることをリーク。”大スクープ”につながるという”報道被害“発生の構図が描かれている。

リチャードを演じているポール・ウォルター・ハウザーは「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」(2017年)で136キロの巨漢の実在の人物ショーン・エッカート役を演じるにあたり118キロの体重を132キロまで増やして演じて注目された。さらには「ブラック・クランズマン」(2018年)では白人至上主義のKKKメンバーのアイヴァンホー役で存在感を見せた。今作ではとにかくリチャードにそっくりだと評判になった。英雄から一転して犯人扱いされた善良な警備員の悲劇をリアルに演じて存在感を見せている。
(2020年1月17日公開)