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「ミッドナイトスワン」「蒲田前奏曲」「エマ、愛の罠」のとっておき情報

(2020年28月16:30)

映画評論家・荒木久文氏が、草彅剛主演の「ミッドナイトスワン」、蒲田を舞台にした映画「蒲田前奏曲」、そしてチリ映画「エマ、愛の罠」の見どころととっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、9月22日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

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(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   お呼びしましょう!荒木さーん!

荒木   こんにちは。9月も後半に入って色んな作品公開されますので、よろしくお願いします。

まず1作目です。『ミッドナイトスワン』という9月25日公開の作品です。

「ミッドナイトスワン」「蒲田前奏曲」「エマ、愛の罠」のとっておき情報
「ミッドナイトスワン」(©2020 Midnight Swan Film Partners)

早速ストーリーからご紹介します。
主人公はニューハーフの凪沙(なぎさ)さん。草彅剛さんが演じています。
いわゆるトランスジェンダーで、凪沙の場合は体は男性だけど心は女性です。彼は故郷の広島を離れて、新宿のニューハーフショークラブのステージで働き、ひたむきに一生懸命生きていました。
ある日、彼は親の育児ネグレクトにあっていた、遠い親戚の中学生の少女・一果を預かることになります。まあ、養育費が目的で預かります。
常に好奇の目で見られ、社会からは疎外されてきた凪沙と、強い孤独の中、親の愛情を受けずに生きてきた一果ちゃんの二人の生活が新宿で始まります。
二人は、最初は当然馴染めませんが、次第に二人の間には疑似とはいえ母子のような関係が生じてきます。母性という感情が凪沙の心に芽生えた時、凪沙は一果を思い「ある重大な決断」をするのでした…。

これは一果を演じている新人の服部樹咲(はっとりみさき)さんと草彅剛さんの演技が抜群に光っています。心の中の感情の変化が鍵となります。

内田英治監督オリジナル脚本によるドラマです。内田監督というと『全裸監督』でお名前が知られていますよね。

内面的な演技と表情が要求される凪沙の役は、「誰もが知っている俳優でないと意味がない」ということで草彅剛さんを起用したそうです。草彅さん、難しかったと思いますよ。ニューハーフという役は歩き方から所作まで本当に女性より女性的に演じていかねばなりませんからね。
それにしても、よくぞここまで演じきったとも思います。
もともと草彅さんは『台風家族』で見せたちょっと癖のある役や、ちょっとヤクザな役は定評があるのですが、歩き方から表情まで特に後半のいろいろあった後の演技は鬼気迫るものがあります。トランスジェンダー役は冒険だったでしょうね。
前の事務所ではできない範疇への挑戦ですよね。草彅さんの役者としての可能性へのチャレンジを感じました。
一果の役に関しては、バレエが大きな鍵となる映画ということもあって、オーディションで選ばれた少女役の新人、服部樹咲さん。バレエ経験があって有望なバレリーナということです。
彼女、粗削りな演技ですけど、それが かえって田舎から出てきた少女のリアルな雰囲気と異様なほどの存在感がとてもいいです。
手足が長く日本人離れした体つきで、踊りがとても素晴らしいです。
この作品、一見バレエ映画といってもいいぐらいクラシックバレエの場面が出てきますので、バレエも楽しめます。

この『ミッドナイトスワン』というタイトルがついていますが、もちろんこれは草彅さん演じる凪沙のことでしょうが、もう一羽のスワンが、服部樹咲さん演じる一果というスワン。広島の田舎の子が、その天性を見出されどんどん飛躍していくという、みにくいアヒルの子が最後に白鳥となる、といった示唆にも富んでいます。
田舎娘の表情とバレエとの対比や洗練された踊りがとても印象的な作品です。

この映画の中には性転換手術などリアルな場面もあります。

鈴木   そういうシーンもあるんですか?

荒木   そうなんですよ。ニューハーフ専門ヘルスの場面などショッキングなシーンも出てきます。
母親とは何か、母性とは何かとかを考えさられる作品です。
『ミッドナイトスワン』9月25日公開の作品です。
続きまして2本目です。
ダイちゃん、突然ですけど「蒲田」って行ったことありますか?

鈴木   蒲田って大田区の蒲田?意外に僕好きなんですよ、蒲田。

荒木   そうですか。下町っていう雰囲気ですよね。

鈴木   美味しい餃子屋さんとかウナギ屋さんとか結構あるんだよ。

荒木   あるんですよね。

「蒲田」を舞台にした、女性の生きづらさなどをテーマにした作品です。9月25日公開の『蒲田前奏曲』です。
前奏曲は、歌劇組曲最初におかれる器楽曲の形式のことで、いわゆる「プレリュード」ですね。つまり、蒲田プレリュードというわけですね。

「ミッドナイトスワン」「蒲田前奏曲」「エマ、愛の罠」のとっておき情報
「蒲田前奏曲」(©2020 Kamata Prelude Film Partners)

主人公は蒲田マチ子という若いあまり売れていない女優さんです。この映画、この人を主人公に、4人の監督が各自で4つの短編を撮影して、1本の連作長編として仕上げていった作品なんです。

監督には日本映画界の若手の実力派が揃いました。
まず第1番目の作品を中川龍太郎さん、2番目の作品は穐山茉由(あきやま まゆ)さん、3番目は安川有果(やすかわゆか)さん、4番目は渡辺紘文(ひろぶみ)さんが監督しました。いずれもいろいろな映画祭で賞を獲得している期待の若手です。

主人公蒲田マチ子を演じたのは松林うららさんという女優さんで、この作品のプロデューサーも兼ねていますが、なかなか個性的でしっかりした感じの女性です。
顏は劇団ひとりの奥さんの大沢あかねさんに似ています。

鈴木   はいはいはい。僕好きですよ。

荒木   なかなか美人さんですよね。
他にも今話題の女優さんたち、伊藤沙莉さん、瀧内公美さん、子役出身の福田麻由子さんなどが出演しています。

作品の内容ですが、第1番のタイトルは『蒲田哀歌』です。
売れない女優の蒲田マチ子(松林うらら)は、東京の蒲田で大学生の弟・タイ蔵(須藤蓮)と暮らしているんですが、そんなある日、仲の良い弟から「姉ちゃん俺、彼女出来たよ」と女の子を紹介され、マチ子はショックを受けると同時に嫉妬をします。やがてその彼女の存在が、女として、姉として、女優として自分の在り方や存在を見つめ直すきっかけとなってゆく…というストーリーです。

第2番は『呑川(のみかわ)ラプソディ』です。
ある日、マチ子は大学時代の友人たちで久々に女子会をしますが、年頃の5人は独身チームと既婚チームに分かれ、なにか気まずい雰囲気になってしまいます。
そこでマチ子は近くの蒲田温泉へ行くことを提案します。5人はそこで仕事や男性のことなどを語り合うのですが、いろいろなことが起こって、次第にそれぞれが隠していたものが丸裸になってゆく…という話です。

第3番の『行き止まりの人々』では、マチ子は映画のオーディションを受けるのですが、それは、セクハラを受けた実体験やエピソードがあれば話すという内容でした。出席した女優たちは、上手く演じることができないなか、マチ子の隣にいた黒川(瀧内公美)だけが、迫真の演技を見せ、マチ子と黒川は最終選考に残ることになりますが…。

第4番は『シーカランスどこへ行く』という作品で、マチ子とは関係なく、マチ子の実家・大田原に住む従姉妹の小学5年生・リコが出演し、東京で働くマチ子が田舎の従姉妹からはどう見えているかという一面を描きつつ、東京中心主義を批判しています。

以上の4編で構成されているのが『蒲田前奏曲』です。

呑川(のみかわ)という地元の川や、蒲田付近に住んでいる人ならだれでも知っている「蒲田温泉」、その他にもダイちゃんが言っていたように下町で色々ありますからね。

鈴木   そうなんですよ。安いし美味しいし。

荒木   松林さんの地元・鎌田の商店街の雰囲気をよく伝えている映画です。一部ぶっ飛んでいるところもあるのですが、なかなかよくまとまっていますよ。
魅力に溢れたオムニバス映画でした。4人の監督は「女優・蒲田マチ子」を様々な面から見つめて、女性の置かれている現状の問題も投げかけています。そして男性の監督と女性監督の視点が特に分かれていて興味深かったです。 『蒲田前奏曲』という作品でした。

鈴木   4つの短編というのは、ストーリーとしてはリンクしないんですよね?

荒木   リンクしている部分もあるのですが、基本的にはリンクしていないです。「売れない女優」というところだけ共通しています。その場によって顔を使い分けることが求められる現代の女性が描かれています。

鈴木   面白いですね。

荒木   最後ですが、『エマ、愛の罠』という10月2日公開の南米はチリの映画です。 2019年・第76回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品です。
1人の女性の奔放な愛の姿と彼女が仕掛けた大胆なトラップを描いたドラマです。ダンサーのエマが、ヒロインです。魅力的でセクシーな女性です。ちょっと中性的な魅力もあります。
彼女はレゲトンダンスのダンサーです。レゲトンというのは、ダイちゃん、どんな音楽なんですか?

鈴木   レゲトンはレゲエなんですけど、プエルトリコで始まったものです。スペイン語で歌うレゲエであったり、アメリカのヒップホップの影響を受けていたり、当然ラテンのサルサの影響を受けていたりもするポップ・ミュージックですね。

荒木   この番組は音楽ファンが多いから知ってる方も多いでしょうね。ダンスがすごいですね。腰の動きがガンガンと迫力のある感じです。子の映画、レゲトンの音楽が沢山出てきます。

鈴木   いいねー!

荒木   ストーリーですが、エマはもともと明るい女性だったのですが、ある時自分の養子として引き取った息子が起こしたある事件をきっかけに、すっかり心の拠り所を失ってしまいます。ダンスの振付師の夫との結婚生活は完全に破綻してしまい、勤めていた小学校も首になってしまった彼女は、いろいろな謎の行動を起こします。
火炎放射器で車に放火します。そこに消火活動に駆け付けた消防士を誘惑し、さらに彼の奥さんまでをも虜にしてしまいます。バイセクシャルなんです。3人を手玉に取るエマ。連続する不可解なエマの行動。その行動の裏には綿密に練り上げた衝撃的なある秘密の計画が隠されていたんです。

鈴木   これはちょっと面白そうだな。

荒木   主人公エマ役を新人のマリアーナ・ディ・ジローラモという女優さんが演じているのですが、レゲトンダンスがすごくうまい!腰の辺りガンガンって感じでかっこいいのなんの。

監督はナタリー・ポートマンを主演にジャクリーン・ケネディを描いた『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』などで知られるチリのパブロ・ラライン監督なんですが、この監督今後も注目です。ラライン監督の新作、来年なのかな。アメリカの女優クリステン・スチュワートが、ダイアナ妃役を演じる映画『スペンサー』という作品が控えています。この作品は故・ダイアナ妃の人生で最も大きな転機となったといわれる1990年代の3日間に焦点をあて、その人生を描いたストーリーで注目の作品です。

今回の『エマ、愛の罠』は、全編通してカッコいいダンスと音楽でテンションも高いですし、サスペンス的要素も楽しめます。是非気になる方は観に行ってみてください。

鈴木   ラテンカルチャー満載ですか?

荒木   そうですね。チリの映画ですからね。

ということで今日は3本を短めにご紹介しました。 鈴木   荒木さん、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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