第37回東京国際映画祭 コンペ部門作品「敵」の吉田大八監督が登壇

(2024年10月31日17:20)

>第37回東京国際映画祭 コンペ部門作品「敵」の吉田大八監督が登壇
Q&Aに応じる吉田大八監督(31日、東京・千代田区のTOHOシネマズ 日比谷で)

第37回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品されている長塚京三主演「敵」が31日、都内で上映され、吉田大八監督が登壇して質疑応答を行った。

映画「敵」は、筒井康隆の老人文学の傑作といわれる同名小説を原作に、「桐島、部活やめるってよ」、「騙し絵の牙」などの吉田大作が監督を務め、長塚京三が12年ブリに主演を務めた話題作。長塚演じる77歳のフランス近代演劇史を専門にする元大学教授が、妻に先立たれ、残された預金を計算し、捨てきれない欲望と向き合いつつもいつか来る終わりに向けてつつましやかに夢と現実の間を生きる暮らしが描かれるが、ある日パソコンの画面に「敵がやってくる」と不穏なメッセージが流れて、徹底した丁寧な暮らしにひびが入り、意識が白濁し始めるという内容。瀧内公美、河合優実、黒沢あすからが共演している。2025年1月17日(金)テアトル新宿ほか全国公開。

上映後に登壇した吉田監督は、司会から「本当に映画を観たなあ~という気持ちよさがありました」と称賛されて「すごく嬉しい。ありがとうございました」と喜んだ。
モノクロの作品になっていることについて聞かれ、「この映画を撮るにあたって、古い日本の家をどういう風に撮っていたのかと、参考のためにいろいろ古い映画を観たんですけど、それに影響されて白黒ってどうだろうと思った」という。
「皆さんご覧になって感じられたと思うんですけど、映画が始まって2、3分で白黒かカラー化というのは問題でなくなる。逆に、モノクロは観ている人の想像力を豊かにすると思う」と語った。
筒井氏の1989年の小説「敵」を題材に選んだことについては、「コロナであまり外に出られない時に、古い本を片っ端から読み返して。多分出版されたときに呼んでたんですが、読み返してみると印象が変わっていて。自分が年を取ったせいもあって、いろんな意味で切実なものを感じた。そんな時に一緒に映画を撮ろうと声をかけてくれた人と話しているうちに、『それいいんじゃない』と話が簡単にまとまって、脚本を書き始めた」と製作が決まった経緯を明かした。

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「敵」について語る吉田大八監督

その後、観客からの質問にも答えた。介護士の男性は「主人公が現実の世界と、どんどん自分が見ているものが分からなくなっていくのがリアリティを持って見られた」といい。「認知の問題」をどう描こうとしたのかとの質問に、「この映画を製作し始めてから、主人公は認知症ではないという確信を持った。彼はほぼ無意識に、自分から進んで夢や妄想の世界に身を投じている。そういう意味でこの映画の撮影を続けていった」と語った。
また、「最後まで自分の意志で最後までこの世界に踏みとどまろうとした人。だけれども、昔付き合った人に会いたい、昔経験した楽しい出来事をもう一回ということで、それを経験したいということで、自分を妄想の世界に引きずり込んで郁のを許している。そういう解釈でこの映画を作りました」と説明した。

筒井氏の「敵」は映像化はできないのではないかといわれていたことについて、「現実から非現実にジャンプしたり、またいつのまにか戻ってきたりとか、そういうことを言っていると思うんですが、ぼくは筒井先生の愛読者で、自分のセンスは筒井さんのセンスと同じだと思っているから、(映画化が)難しいと思ったことは全然ない。ぼくは普通に、リアルに撮ったつもりでも、シュールだといわれることがある」という。

さらに、モノクロで撮影したことの効果について改めて聞かれ、「最初に白黒を選んだ動機は、ひとつには特に前半のストイックな主人公の生活を描くときに、モノクロは感覚的に合うんじゃないかと思った」という。そして「観客がモノクロで彼の生活を見続けているうちに、見ている人の想像力が、どんどん感度が高くなっていく」と述べた。

その後、司会から「俳優さんたちの力もすごかった。この人じゃなければ演じられないという人もいた。長塚さんはそのままでしたね」と水を向けられ、「長塚さんは昔からファンだったんです。引退した状態が強いですけど、知性を感じさせ、まだ枯れ切っていない、人間として、アーテイストとしての色気もまだ残している。その絶妙なバランスがある俳優さんをイメージした時に長塚さん以外思いつけなかった」という。「長塚さんに、一か八か、脚本を読んでもらって、評価してもらった。長塚さんとともにあった企画」。

主人公が恋をする元教え子役の瀧内公美については、「これまでの彼女のお仕事を拝見して、この役にと思った。彼女は自分でも言ってたんですけど、モノクロ映えするっていうんですね。現場でモニター見てても息をのむくらいでした。もちろんカラーでも素晴らしいお仕事されていますけど、モノクロの瀧内さんを発見できた」と称賛した。
また、主人公がスナックで出会う、フランス文学を選好する大学生役の河合優実について、司会者から「日本映画から引っ張りだこの河合さんは、この映画で衝撃でした」といわれ、「彼女は何者どんな意図をもって主人公と仲良くしてるのかはっきりしない。彼女にも説明しないですけど、脚本呼んですごくよく理解している。彼女と最初に会った時に、この企画って監督がやりたい企画ですかと聞かれて、そうですと言ったら、『誰かがすごくやりたい企画。だから参加したいと思います』といわれたんですよ。グッとくるじゃないですか。その時からファンになりました」と振り返った。撮影や、キャストのエピソードなど「敵」について大いに語ってイベントは終了した。

【第 37 回東京国際映画祭 開催概要】
■開催期間:2024 年 10 月 28 日(月)~11 月 6 日(水)
■会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
■公式サイト:www.tiff-jp.net
【TIFFCOM2024 開催概要】
■開催期間:2024 年 10 月 30 日(水)~11 月 1 日(金)
■公式サイト:www.tiffcom.jp  

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