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「Malu 夢路」と「滑走路」のとっておき情報

(2020年11月26日10:45)

映画評論家・荒木久文氏が、「Malu 夢路」と「滑走路」の見どころととっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、11月17日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

「Malu 夢路」と「滑走路」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   荒木さん、どうもよろしくお願いします。

荒木   はい、よろしくお願いします。

東京国際映画祭で上映された中から公開が近いもの2本、ご紹介します。

1本目は、『Malu 夢路』という 2020年11月13日公開の作品です。
日本とマレーシアの共同製作作品です。割と珍しいですよね。マレーシア行ったことありますか?

「Malu 夢路」と「滑走路」のとっておき情報
「Malu 夢路」(© Kuan Pictures, Asahi Shimbun, Indie Works, Mam Film)( 11 月13 日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー/配給:エレファントハウス)

鈴木   ないですね。

荒木   僕も行ったことないですね。

主人公はマレー人のホンとラン、6歳違いの姉と妹です。
かって母親と3人で暮らしていましたが、母は心の病から二人の娘と無理心中をしようとしますが、失敗し長女のホンはおばあちゃんが引き取り、妹ランは母が育てることになります。幼い頃に決別したランとホンの姉妹。
姉のホンは芸術家のおばあちゃんに、文化的な環境で育てられ、成長して映画のプロデューサーとなります。
妹はその後も母と暮らし、苦痛の日々を過ごします。
そして母が亡くなり、他人も同然だった二人は、母の死を機会に20年ぶりに再会し、一緒に暮らして幸せだったころを取り戻そうとします。
ところが長い間わだかまりもあり、どこかぎくしゃくしてしまいうまくいきません。
ある朝、姉のホンが目を覚ますと、ランの姿はありませんでした。
数年後、ホンに、遠い日本で妹ランの遺体が発見されたとの知らせが届きます。ホンは仕事も家庭も放り出し日本へと旅立ち、異国の町で妹が生きた証を探すことになります。
日本で妹に何が起こったのでしょう…。

鈴木   サスペンスじゃないですか。

荒木   サスペンスみたいだけど、そうでもないんですよ。もうちょっと詩的な世界観があるんです。

監督は、マレーシア人のエドモンド・ヨウ監督。この方、3年前の『アケラット ロヒンギャの祈り』という作品で第30回東京国際映画祭の最優秀監督賞を獲得している人です。
  出演者はマレーシアのセオリン・セオ、メイジュン・タンという二人の女優さんが主人公姉妹を演じます。まあ典型的な東南アジア系のお顔ですが、特に瞳、眼差しが印象的で美しいです。日本からは、永瀬正敏さん、水原希子さんが出演。音楽を細野晴臣が担当しています。

“Malu”はマレー語で、恥、羞恥心、不名誉なこと、という意味があります。
家族との繋がりを拒絶すること、過去のせいで苦悩し続ける母親、罪悪感に苛まれる祖母、 妻の影を追い続ける男、死んだ友人について何も知らなかった女性…みんな恥ずかしいと思っているんですよね。
日本の恥の文化とは少し違うのですが、やはり同じアジア圏なので重なる部分が大きいのかもしれません。

姉妹と母親を描く前半と、日本での出稼ぎの後半、という二重の構造になっています。 東洋的な共通した考えもあり、考えさせられる作品です。
鈴木   結構共感もできる感じですか?

荒木   そうですね。謎も多いのですが、一種の文化論も入ってくる感じです。
過去と現代を行ったり来たりという構成ですが、丁寧に作ってあるなという印象です。

『Malu 夢路』というちょっとテイストの変わった作品ですが、良い作品なので是非観に行ってみてください。公開中です。

「Malu 夢路」と「滑走路」のとっておき情報
「滑走路」(ⓒ2020「滑走路」製作委員会、11月20日(金)全国ロードショー、配給:KADOKAWA )

最後ですが、東京国際映画祭で上映され評判だった映画です。 11月20日公開の『滑走路』という作品です。

32歳で自ら命を絶った歌人・萩原慎一郎のデビュー作にして遺作となった歌集を原作というか、モチーフと言った方がいいでしょう。ですから、ほぼオリジナルストーリーです。

この映画の中では3つのドラマが展開します。
一つ目ですが、鷹野くんは厚生労働省の若手官僚、すごい激務の中で仕事への理想を失い、無力な自分に思い悩んでいました。そんなある日、非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリストがNPO団体によって持ち込まれます。それを見た鷹野くんは、リストの中から自分と同じ25歳で自死した青年に関心を抱き、彼が死を選んだ理由を調べ始めます。 二つ目は、ダイちゃんが好きな水川さんが演じています。30代後半の切り絵作家・翠さん。将来への不安を抱える彼女は、子どもがほしいという自身の思いを抱きながらも、夫との関係にすれ違い感というか、気持ちのずれがだんだん大きくなってきているのを感じながら生活していました。
そして三つ目のドラマは主人公が中学2年生の学級委員長。
弱いものいじめをしている不良たちをとがめて、いじめられていた同級生を助けた彼は逆にイジメの標的となってしまいます。彼は、シングルマザーの母に心配をかけまいと1人で問題を抱え込むことになります。
それぞれ悩みを抱える3人の人生は、やがてひとつの道へと繋がっていきます。

鈴木   交錯していくんですか?

荒木   そうなんですよ。ただ、この映画が見事なのは、一見関係のなさそうな3つのドラマが最後繋がってくるのですが、そればかりじゃなく、もう一ひねりしてあることです。

鈴木   え、どういうこと??

荒木   この辺りはネタバレになりますので言えませんけど、予想外の展開ですから、前情報無しで観た方が絶対に惹き込まれると思います。
言えないけど面白い。

切り絵作家・翠を水川あさみさんが、若手官僚・鷹野を浅香航大さんが演じています。
今まさに社会の問題としてクローズアップされている、「職場での過剰労働」「非正規労働者の問題」「学校でのいじめ」、そして「家族の在り方の問題」「子供を持つということ」など これらを真正面からとらえています。
人が秘めている心の叫びがストレートに表現されていて、それが見ている人の心にグサグサ突き刺ささってきます。

鈴木   結構重い、ヘビー感もある感じですか?

荒木   そうそう。
同じような状況の中で実際に辛い思いをしている人は、本当耳につまされて心が痛い作品かもしれません。

それだけじゃなくて救いもあって、もしかしたら前へ進む勇気が貰えて少し明るい気持ちを持てるかもしれない、という内容です。また、仕掛けも面白いので良い作品ですよ。

鈴木   え~観たくなる!

荒木   滑走路を思わせる一直線の道がたびたび登場するのが象徴的でした。
じっくり萩原慎一郎の歌集を読んでみたいですね。

鈴木   でも飛行場の滑走路を想像してみても、交わる部分も当然あるけど全部がせーので走ったら事故っちゃうじゃないですか。交わっちゃいけないけど、そこから羽ばたいていって違う土地に降りていくっていうすごくドラマがある不思議なところですよね、滑走路って。

荒木   不思議なところですよね。降りてくるところでもあるし、飛び立っていくところでもあるし。そういう意味でいうと、いろんなものがクロスしていますね。訪れる人、旅立つ人。いろんな意味で象徴的なものですよね。

鈴木   そうですよね。いやー。荒木さんと滑走路、わたくしだいぶ交わっているなと思うんですけど。

荒木   あははは。
ということで2つの作品をご紹介しましたけど、東京国際映画祭もなかなかいい作品が揃っていました。グランプリ(観客賞)は『私をくいとめて』という大九明子監督の作品でしたけど、こちらも面白いです。またこちらもご紹介したいと思います。

鈴木   荒木さん、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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