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2020年の映画界と「騙し絵の牙」のとっておき情報

(2021年3月23日10:30)

映画評論家・荒木久文氏が、2020年の映画界と「騙し絵の牙」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、3月16日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

アラキンのムービーキャッチャー/2020年の映画界と「騙し絵の牙」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   お呼びしましょう!荒木さーん!

荒木   どうもこんにちは。

鈴木   よろしくお願いします。

荒木   3月はまとめの月ですね。

鈴木   その通りですね。

荒木   卒業する人なんかも大変だと思いますが、この時期は映画業界では、昨年公開された映画の売り上げランクとかベスト映画が発表になる時期です。

鈴木   その辺りが今ですか。

荒木   そうそう。各団体や雑誌がベスト映画を発表する時期なんです。
この番組でも毎年発表しているので今年もお話したいと思います。
去年の暮の時点でのベストランキングご紹介しましたが、今回はまとめ、というか完結編ですね。

まず、どんな映画が見られたのかというデータですよね。売上ランキングというやつです。つまりヒットした映画はどんな映画だったのかという記録ですね。

2020年公開映画作品、興行ランキング、トータル売り上げですが、5位からいきます。

5位『コンフィデンスマンJP プリンセス編』、38億4千万円。
4位『新解釈・三國志』、39億9千万円。
3位『パラサイト 半地下の家族』、47億4千万円。
2位『今日から俺は!!劇場版』、53億7千万円。
そして堂々の1位は言わなくてもわかってますね。日本を席巻したと言っていい…。

鈴木   鬼滅ですか?

荒木   はい、鬼滅の刃。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』381億.4千万円です。

鈴木   桁違いじゃないですか!そもそも!

荒木   そうなんですよ。全体としての売上は過去最高だった2019年の2,611億円でしたが、今年は1,432億円で約半分(54.9%)となりました。

鈴木    あー、コロナですか?

荒木   そうです、コロナの影響でね。
その邦画収入の3分の1が『鬼滅の刃』なんですよ。すごいことですよね。ということで、鬼滅の刃の売上は歴代1位ですから。そういう意味ではすごいですよね。

今のは昨年どんな映画が見られたのかというデータだったのですが、今度は昨年公開され 見た映画の中で、見た人の印象に残った映画、素晴らしい映画はどんな作品だったのか?という記録というかデータです。
ダイちゃんは去年発表してくれましたね。

鈴木   はい。『1917 命をかけた伝令』ですね。あれは本当よかったなぁ。

荒木   ダイちゃんの選んだ『1917 命をかけた伝令』はどのあたりに入っているのか。 まずはプロの評論家・映画記者などはどんな作品が優れた作品、印象に残ったのかというデータです。これは私も所属する映画評論家関係者で作る「日本映画ペンクラブ」が会員の投票による集計があります。先日発表になりました。

アラキンのムービーキャッチャー/2020年の映画界と「騙し絵の牙」のとっておき情報
「海辺の映画館-キネマの玉手箱」(公式サイトから)

2020年プロが選んだベスト映画!
ますは日本映画です。
5位『朝が来る』
4位『罪の声』
3位『アンダードッグ』
2位『スパイの妻』
1位『海辺の映画館-キネマの玉手箱』

鈴木   鬼滅がトップ5に入ってないじゃないですか!

荒木   全然、全然!(笑)
大林宣彦監督の作品『海辺の映画館-キネマの玉手箱』が堂々の1位です。

アラキンのムービーキャッチャー/2020年の映画界と「騙し絵の牙」のとっておき情報
「パラサイト 半地下の家族」

続いて外国映画ですが、
5位『はちどり』、『異端の鳥』の2作品です。
4位『ジュディ 虹の彼方に』ジュディ・ガーランドの映画です。
3位『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
2位『ジョジョ・ラビット』
そして堂々の1位が『パラサイト 半地下の家族』

鈴木   パラサイトかぁ。

荒木   そして文化映画というドキュメンタリー映画部門ですが、
3位『はりぼて』、これは富山市議会の議員汚職とかそういったこと描いたドキュメンタリーです。面白かったです。
2位はこの番組でも紹介しました『なぜ君は総理大臣になれないのか』

鈴木   ははは!あれ面白そうですね。

荒木   面白いですよ。
1位『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』
ということで、プロが選んだベスト映画はこのようになりました。

鈴木   『1917 命をかけた伝令』は?

荒木   あ、ないですね…。
私も『1917 命をかけた伝令』、非常に評価していて面白かったと思うんですけどね。 1位の『海辺の映画館-キネマの玉手箱』は売り上げランキングでは100位以下ですね。

鈴木   そういうもんなんですよ。

荒木   そうですねー。では一般の人は何がよかったと思っているのか?
日本映画から見てみましょう。
日本映画の代表的な雑誌『キネマ旬報』の読者投票による読者選出日本映画ベストテンです。

5位『罪の声』
4位『スパイの妻』
3位『コンフィデンスマンJP プリンセス編』
2位『ミッドナイトスワン』、草彅剛君のジェンダーストーリーですね。
そしてなんと1位は私もびっくりしました。『天外者(てんがらもん)』というこの番組でも紹介しましたが、三浦春馬さん主演の五代友厚の伝記映画です。
というのがキネマ旬報の読者投票によるベストテンでした。

鈴木   プロから見るのと我々一般の視聴者とで違っていて面白いですね。

荒木   そうですね。このキネマ旬報は日本映画好きな人は必ず買っている雑誌ですので、本当に好きな人が選んでいるんですよ。

最後に外国映画です。洋画と言えばこの雑誌ですね。『月刊SCREEN』の読者による第70回スクリーン映画大賞2020を見てみましょう。

5位『ジョジョ・ラビット』
4位『ワンダーウーマン 1984』
3位『パラサイト 半地下の家族』
2位『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
堂々の第1位『TENET テネット』

鈴木   『TENET テネット』もあったな、そうだな。

荒木   そうなんですよ。ダイちゃんのはね10位にも入らなかったですね。

鈴木   10位にも入ってない??『1917 命をかけた伝令』?

荒木   そうなんです。

鈴木   わかってないなー。

荒木   あはははは!ランキング見ると私の好きなもの入ってない、わかってないなと思いますよね。

鈴木   うん、面白い面白い。

荒木   ということで2020年の映画総まとめということでお話しました。

そして春休みの作品から紹介していきましょう。
『騙し絵の牙』という3月26日公開の作品ですが、1月の頭に「今年の映画ベスト5に入るから観た方がいいですよ」とダイちゃんにも推薦しましたよね。

アラキンのムービーキャッチャー/2020年の映画界と「騙し絵の牙」のとっておき情報
「騙し絵の牙」(2021年3月26日(金)全国公開)(©2021「騙し絵の牙」製作委員会)(配給:松竹)

鈴木   そのとおりです。

荒木   この作品は『罪の声』などで知られる作家の塩田武士さんが主人公に大泉洋さんをイメージして書いた、つまり「主人公をあてがき」という言い方をしますが、その小説を当然というか大泉洋さん主演で映画化した作品です。

ストーリーです。
舞台は大手出版社「薫風」と書いて「薫風社(くんぷうしゃ)」と読みます。創立100年を超す、伝統を誇る老舗出版社です。
でも最近は、「出版不況」で本が売れない大変な状況です。そんな中、創業一族の社長が急逝し、次期社長の座をめぐって権力争いが勃発します。同時に実力者の専務が推し進める会社改革によって、売れていない雑誌はどんどん休刊・廃刊のピンチに陥ります。 その中のカルチャー雑誌「トリニティ」は売り上げが伸び悩んでいましたが、変わり者と言われる速水(大泉洋さん)が編集長をしていたのですが、上から大変な無理難題を押し付けられて、大ピンチです…。さあ雑誌は継続できるのか?
彼、速水編集長は次期社長争いや、周りを巻き込んで、裏切りや陰謀が渦巻く中、起死回生をかけてアッという大胆な作戦に打って出ます。

松岡茉優さん演じる新人の女性編集者高野。この人が重要な役回りをします。
二人がイケメン新人作家、大御所作家、そして一作だけ出版して消えてしまった伝説の作家、そして人気モデルなんかを軽快なトークで口説きながら、ライバル雑誌や同僚、会社の上層部など次々に現れるクセモノたち…本当に出版業界にはこんな人たち居ますよ。
ちょっと変わってて、頭は悪くないんですが、煮ても焼いて食えないこのクセモノたち。放送業界と同じぐらい変わった人達の集まりですよ。こういう人たちとスリリングな戦いを繰り広げていきます。

罠、嘘、リーク、裏切り、告発などの陰謀が渦巻く中で逆転また逆転、どんでん返しのうえでまたどんでん返しと「壮絶な騙し合い」を展開するわけですが、目が離せません。

大泉さん大活躍中ですよね。昨年は紅白の司会までやって。いろいろな顔があって、どの顔が本当の大泉洋さんなのかわからないですよね。

作者の塩田さんは、4年にわたり大泉さんを取材し、その話術や笑いを緻密に分析、主人公の速水輝と大泉さんの“完全同期化”を目指したそうです。
他の出演者も松岡茉優さん、池田エライザさん、斎藤工さん、中村倫也さん、佐野史郎さん、リリー・フランキーさん、國村隼さん、木村佳乃さん、佐藤浩市さんなど超豪華です。

ただ私が一番びっくりしたのは、今回の映画、前に読んでいた原作本の『騙し絵の牙』とは内容的には大きく違っていることです。
全体の設定や入りは原作に忠実なのですが、後半どんどん違ってきます。
出演者も原作にない人がどんどん入り込んできて、原作を読んで展開が次はこうなるんだよね…と思っていた私は「えっ?えっ?」と混乱しましたよ。ここまで違うと。
もうすっかり別物?というか別作品ですね。最後も違うんですよ。

鈴木   ラストも違うの?

荒木   違うんですよ。
タイトルと設定だけ同じオリジナルと言っていいんじゃないですかね。びっくりしました。 原作もすごく面白かったんですが、この映画もまた面白いんですよ。

鈴木   じゃあ賛否両論の否のほうが出てこない感じですか?

荒木   出てこないと思います。
映画は映画で面白い、原作は原作で面白いので。
展開のテンポの良さ、思わず笑っちゃうようなコミカルな部分はもちろんそのままです。 原作の持つ独特の嫌味のある切れ味を生かしていますし、テンポもいい。新しい物語に仕立て上げています。
そんな映画を作っちゃったのは吉田大八さんという監督です。もちろん脚本もこの人。 吉田大八さんというと、『桐島、部活やめるってよ』とか、『紙の月』でお馴染みのすごい監督ですが、今回ことさら思いました。

最近の出版業界や、それに関わる作家の現状も細かいところまでよく分かります。 出版業界の置かれている危機的状況ね。放送業界も似たようなものですが、本当によく理解できますよ。その実情をはじめ、業界用語の解説や流通、収益の仕組みに至るまで事細かに描かれています。その辺もあわせて見ていただきたいと思います。

鈴木   出版業界とか放送業界に就職したいなーなんて未来を持っている方は観ておいたほうがいいかもしれないですよね。

荒木   そうですね。ちょっと大げさには描いてありますが、内情は本質的には同じものがありますからね。就活生や大泉さんファンの方にはおすすめしたいですね。
小説を読んだ人でも楽しめますし、映画を観て小説を読んでも楽しめますし、非常に面白い作品です。前にも言ったように今年の傑作映画の一本ですので是非ご覧になってください。
『騙し絵の牙』という3月26日公開の作品でした。

鈴木   恐らく来年の今頃、また荒木さんとお話していたら、今日みたいなパターンで『騙し絵の牙』が入ってくるかもしれないですよね。

荒木   そうですよね。ただ、狭い業界の映画なので分からない人には分からないかもしれませんし、あとは大泉さんをどう評価するかですよね。まあ大泉さんはファンも広いですから、売上も期待できるんじゃないかと思います。

鈴木   荒木さん、本日もありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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