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映 画
「ヒットマン」「ぼくのお日さま」のとっておき情報
(2024年9月14日11:00)
映画評論家・荒木久文氏が「ヒットマン」と「ぼくのお日さま」のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、9月9日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 早速、1本目紹介します。タイトル「ヒットマン」。
殺し屋のことですね。9月13日公開です。
ストーリーです。舞台はアメリカニューオーリンズ。時代はスマホもないから、1990年ぐらいですね。大学で心理学を教えてるゲイリー・ジョンソンという人。猫と静かに暮らしているんですが、一方彼は地元の警察に盗聴などの技術スタッフとして捜査に協力していました。ある日「おとり捜査」で、アメリカでは普通にやってるんですね…。ニセの殺し屋役の警官が職務停止となり、なんとゲイリーが代わりを務めることになります。
ゲイリーのおとり捜査っていうのは、まず、「誰か殺したい人はいませんか?殺しの依頼受付ますよ。」と闇のルートに流すんです。するとゲイリーが偽の殺し屋になって、依頼人と会うんです。「こいつを是非殺してください」と頼んでくる、その依頼人を殺人教唆とかでパクっちゃうんですよ。なんか、ちょっと引っかけで卑怯だなと思うんですけど、そういうことなんです。
鈴木 なるほど、そういうことか。ありがちな、アメリカでやってそうですもんね。
荒木 ゲイリーが代わりを務めて捜査は大成功します。それに乗じて、その後も「偽の殺し屋」を演じて、警察の捜査に協力するようになります。そんなある日、マディソンという女性が彼に夫の殺害を依頼してきます。美人の彼女にゲイリーは思わず手を差し伸べ、この出会いで2人は恋に落ちてしまうんです。殺人依頼は断ったんです。
ところが、マディソンの夫が何者かに殺害されるという事件が起こってしまい、さて…ということなんです。ゲイリー役は、『トップガン マーヴェリック』で人気になったグレン・パウエルが演じています。ダイちゃん、見てますよね。
鈴木 ああ!
荒木 なんか、ブラピに似てるとか、ライアンゴズリングに似てるとか。今、ハリウッドで最もエキサイティングな若手俳優NO1と言われています。 「恋するプリテンダー」もそうだったし、「ツイスターズ」もヒットして超売れっ子ですよね。ハリウッドで最も忙しい俳優の1人とされていて、もうしょっちゅう見ている感じがして、近所の弁当屋の兄ちゃんみたいな気がします。
鈴木 あはははは。近所の弁当屋にあんなカッコいい人いませんよ。
荒木 いないですね!そんな彼が今回は脚本も担当しています。自分の良さをわかっているのかどうなのか、グレン・パウエルの七変化というかコスプレがいちいち面白くって、わかりやすい作品になっていましたよ。
殺しの依頼人によって、七三のスーツにしたり、ロン毛の昔のヒッピーとか、そんな感じにしてたりとかね。この作品の監督はリチャード・リンクレイターなんです。
彼の作品でなんといっても有名なのは、『6才のボクが、大人になるまで』。
テキサスの6才の少年が18才までになるまでの本人と成長と家族の軌跡を実際に12年かけて撮影したんですね。ドキュメンタリーじゃなくドラマです。主人公をはじめ母親役、父親役、それからお姉ちゃん役も全部12年間同じ役を演じきった作品なんですよ。
12年間よくかんばりましたよね。ふつう、いやになっちゃうよね。スタッフも頑張りましたよね。
鈴木 そうですよね。
荒木 12年ですよ。1人の女と付き合うのも12年嫌だもんね。
鈴木 嫌だけど荒木さん。このコーナーもそんな感じですよ。
荒木 ああ、そっかー。
鈴木 そうですよ。嫌になってないでしょう、このコーナー。
荒木 全然。
鈴木 ほらねー!!そういうことよ、全然なんてことないのよ。
荒木 ちょうど12年くらいだね。この番組も。昔 紹介したことあるかもしれませんね。ほかにもイーサン・ホークとジュリー・デルピーの「ビフォア・サンセット」とかね。これも18年近く、二人の同じ男女を描いたラブストーリーでした。
私も好きなんだけどロングタームの作品が得意です。目の付け所がとてもユニークですよ。アカデミー賞にもノミネートされたり、当然、ハリウッドにも呼ばれちゃったりしてるんですけど。
鈴木 多才だね、才能があるんだね。
荒木 だけど、インディペンデント映画みたいなものも捨てないんですよ。
鈴木 そこがいいんですよ。
荒木 ハリウッドと行ったり来たりしてるっていう。有名な監督は、もうほとんど一方通行で行っちゃってばかりなんですけどね。
鈴木 やっぱり、オルタナの匂いが残ってるかどうかって大事ですよ。
荒木 今回はちょっと意外な傾向だったんですけどグレン・パウエルのアシストというか、原作をグレン・パウエルが持ってきたそうなんです。そして脚本を一緒に書いてやったということで、グレン・パウエルを立てて非常にグレン・パウエルが輝くような作りになっています。
鈴木 周りの関係者にも愛されているということですよね。
荒木 そうですね。2人は10代の頃から知り合いなんですって。だからそういうことで、あまり自分の色を出してないとう感じを僕は受けました。
この映画の主人公のモデルとなった潜入捜査官のゲイリー・ジョンソンは、実際に地方検事局で働きながら講師として地元のコミュニティカレッジで心理学などを教えていた人物です。90年頃から偽の殺し屋として警察に協力しはじめ、70人以上を逮捕に導いたと言われます。
鈴木 よく消されなかったよ!
荒木 そうだよね。というか、こんなにこんな殺しの依頼って多いんだ?!って思いましたね(笑)。
鈴木 多いんですよ。そうやって殺しのリストは簡単に出来上がるんですね。
荒木 殺してやりたいって奴って何人かいましたけどね。
鈴木 僕も確かに…って、何言ってんですか、荒木さん(笑)。
荒木 あはははは。ま、なかなか新しい感じですね。ちょっとエロい展開もあるんですよ。その女性マディソンがセクシーで、ベットシーンなんかもあるんですがデートムービーとしてもいいですね。ロマンス要素と殺し屋の要素、スリリングでバランスよく満足させてくれるクライムコメディとでも言いましょうか。
鈴木 いいですね、クレイムコメディは官能性も必要ですからね。
荒木 確かにね。いろんな要素が盛り込まれています。そして先ほども言ったように彼の七変化が楽しめるんです。
鈴木 それは、いわゆる変装ということですか?
荒木 そうですね。いろんなタイプに変装するわけですけど、考えてみたら恰好によって人間の意識とか違ったり、気分が違いますよね。
鈴木 わかります。スーツ着たら、俺でもそうなるもん。
荒木 ダイちゃんて、スーツ着たことあるの?
鈴木 当り前じゃないですか。俺、意外にジャケット姿は、自分では好きなんですよ。仕事でなくても。ジャケット着たいんですけど、暑くてすぐ脱いじゃうから最初だけなんですよ。
荒木 髪の毛は昔からそのままでしょ?
鈴木 髪の毛だって、すげー短かかった時もあれば、バサバサ長い時もあります。荒木さんに会った時だって坊主頭だったことだってありますよ。
荒木 坊主頭はあるけど、七三とかはないでしょう?サラリーマン風。
鈴木 それは、くせっ毛だから七三になんないです。
荒木 あはははは。ドレットヘアとかにすると気分も変わって、自分の性格とか人から見る印象も変わるし、自分も変われる感じになることないですかね。
鈴木 だけど、多分イベントの日に、逆モヒカンにしていったら、クビになると思いますよ。イベントの司会とかは。
荒木 そうだね。
鈴木 でしょっ!そう考えると無難な頭しかないじゃん。
荒木 そういうのもあるからねー。って、また話が横に反れちゃいました。9月13日公開の「ヒットマン」でした。
もう1本。こちらは、「ぼくのお日さま」というほんわかしたタイトルです。9/6(金)〜9/8(日)テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテにて3日間限定先行公開され、9/13(金)より全国公開になります。ストーリーです。北海道か東北か、冬はとても雪が多い寒い田舎町です。少年タクヤ君。中一ぐらいかな? この町の少年たちは冬はアイスホッケーをする子が多いです。
彼は軽い吃音を持っていて、あまり友達も多くないんですね。ある日、フィギュアスケートを練習する少女、さくらちゃんを見て一瞬で心を奪われます。このさくらちゃんのコーチを務めていたのは元フィギュアスケート選手の荒川くんっていう、池松壮亮さんがやってます。昔は全日本クラスでしたが今は夢破れてコーチをしているという青年です。
荒川コーチは、タクヤ君がフィギュアのステップを真似して何度も転ぶタクヤくんの姿を目にしてます。「タクヤ君、ちょっとフィギュアやってみないか」と基礎を教えるようになるんです。で、さくらさんへの恋をサポートするようになるんです。やがて荒川コーチの提案でタクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めることになるのですが、桜ちゃんはひそかに荒川コーチに憧れている…というものです。
鈴木 タクヤ君じゃないんだね。
荒木 じゃないんですよ。そこがストーリーの面白いところなんですけど。注目は監督の奥山大史さんていう方なんですけど、この人が、監督・脚本・撮影・編集を手がけていて、これが商業映画デビュー作なんです。その前に、「僕はイエス様が嫌い」という映画でサンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞してる人なんです。
そして、今回この映画はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出典されているんです。
日本人監督としては史上最年少、まだ28歳。
鈴木 最年少にして、海外に目を向けているんですね。
荒木 注目ですよ。本人も小さな時、フィギアをやっていたそうです。注目の若手監督です。池松壮亮さん主演の越山敬達くんがタクヤ役。中西希亜良ちゃんがさくらちゃん役なんですけど、2人ともスケートの経験はあるんです。一番上手くなくてはいけない池松壮亮くんが、全くなかったんですって。
鈴木 えっ?スケート、池松君、できてる?
荒木 うまく滑ってましたけど、半年以上練習したらしいですよ。
鈴木 吹替えじゃなくて、ちゃんと半年練習してたんだ。
荒木 ダイちゃん、フィギュアとかどうですか?
鈴木 全然無理です。俺、ローラースケート、アイススケート、ダメ!足の裏が動くのがダメなの。
荒木 あはははは。
映画は絵がとても綺麗なの。水彩画的な美しさと言ったらいいのかな。雪景色の場面が多いんですけど、そこに射す冬の暖かな光とか池なのか川なのか凍ってしまう水面、夏は夏で雑草の緑、昔のフィルム写真を見ているような気分です。
鈴木 それが、恋する人たちの思いみたいじゃないですか。
晴れたり曇ったり、雪になったり。
荒木 その中で、池松壮亮さんのナチュラルな存在感というか、とても自然な演技です。ダイちゃんの大学の後輩ですけど、いい役者ですよ。ストーリーとしては、大事件が起こるわけでもなく淡々と小さな波乱を含んだストーリーが展開するというもので、見る人に判断をゆだねる感じでしょうか。
鈴木 そういうの好きですよ、僕。
荒木 そうですね、あんまり主張、主張って感じじゃないです。
鈴木 白黒じゃなく、こっちがどう思うのかってのがいいですよ。
荒木 この映画、カンヌ国際映画祭の他にも、台北映画祭に出品されてて、トリプル受賞してます。
鈴木 これ、注目だな。
荒木 この奥山さん、注目なので見てください。主題歌は、音楽デュオ「ハンバート ハンバート」が2014年に出している、同じタイトルの「僕のお日さま」が主題歌に使われています。
鈴木 10年前の曲を主題歌にするという感性もいいですね。
荒木 そうですね。ということで、「ぼくのお日さま」9月13日公開です。今日は、監督注目、シブい役者、シブい監督を紹介しました。
鈴木 シブい荒木さんが紹介してくれました。ところで荒木さん、長野出身だから、当然スケートってできるんですよね?
荒木 スケートは、昔、下駄スケートっていうのをやったことありますよ。
鈴木 ああ!でも滑るんですよね。
荒木 滑ります、凍った田んぼでね。
鈴木 すげ~!
荒木 ま、昔のことですから、60年も前の(笑)。
鈴木 ありがとうございます。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。