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映 画
「スオミの話をしよう」「ぼくが生きてる、ふたつの世界」「とりつくしま」のとっておき情報
(2024年9月22日12:00)
映画評論家・荒木久文氏が「スオミの話をしよう」「ぼくが生きてる、ふたつの世界」「とりつくしま」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、9月16 日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 今日も「映画の話をしよう」ということで、最初は「スオミの話をしよう」というタイトルの公開中の作品です。
あの三谷幸喜さんが監督と脚本を担当したものですが、長澤まさみが主演です。
突然失踪した女性と、彼女について語たる5人の男たちを描いています。
長澤さん、どうですか?好きですか?
鈴木 あの~、OKって感じです。
荒木 なるほど(笑)。ストーリーは、超豪邸に暮らしている著名な詩人がいます。ところが、彼の結婚したばかりの妻・スオミさん、長澤まさみさんがやってますが、行方不明になります。知らせを聞いて豪邸を訪れた刑事は、なんとスオミの元夫だったんです。刑事はすぐにでも捜査を開始すべきだと主張しますが、現在の夫である詩人は「たいしたことじゃないんだ」とその提案を拒否します。そうこうしているうちに、やがてスオミを知る男たち、というか、実は元夫たちが続々と屋敷にやって来るんです。
鈴木 えーっ、それ、バツ4、バツ5、バツ6のパターンですか。どういうことなんですか?
荒木 スオミさん、なんと5回も結婚していたんですね。最初の夫は庭師、遠藤憲一さんがやっています。2番目の夫はYouTuberで松坂桃李さん。3番目の夫は警察官の小林隆さんです。4番目の夫がさっきの刑事、西島秀俊さん。そして5番目のお金持ち詩人は坂東彌十郎さんです。
5人の男たちは、はじめスオミの心配していたのですが、そのうち、誰が一番スオミを愛していたのかとか、誰が一番スオミに愛されていたのかとか、彼女の安否をそっちのけで言い争いになってしまいます。で、男たちの口から語られるスオミは、それぞれがまったく違う性格の女性で見た目もバラバラなんです。
鈴木 見た目もバラバラなの?
荒木 そうなんですよ。それぞれの男たちにとっては知らないことばかりなんです。本物のスオミとは一体何なのか?…というね。
鈴木 ちょっと怖いな、それ。
荒木 ま、ミステリーコメディみたいなものね。はっきり言って、これはもう長澤まさみを鑑賞して愛でるための作品です。
鈴木 あはははは。なるほど。
荒木 もっと言うと、女優長澤まさみの為にある映画で、どっちでもいいと言うダイちゃん向きじゃないかもしれない。
鈴木 あはははは。そういう事になりますね。
荒木 キャラクターの演じ分けは見ものなんですけど、チャイナドレスやボディコンや、いろいろファッションが凄い。先週、グレンパウエルの七変化ってお話したんですけど、今回は長澤まさみ七変化です。演技は本人も難しかったらしいですよ。1人5役、いや、1人5キャラクターですからね。
鈴木 人格を演じるんですもんね。
荒木 そういうことですね。周りの出演者も豪華です。みんな芸達者で会話劇と言ってもいいような、セリフがとっても多い作品なのですが、安心して見られます。
監督が演劇みたいに撮りたいと言って、1カ月も稽古したらしいです。
三谷監督、いろんな「まさみ」を演じさせたいというパターンなんですけど。
この映画の一人の人物について多くの人間が語り合い、その人間の意外な面が見えてくるというパターンは日本の映画作品などでもいくつかあるんですね。
有吉佐和子の小説「悪女について」とか。映画だと「キサラギ」という、自殺したマイナーアイドルの一周忌にファンが集まって、5人の男が語り合うという映画もあります。
人間の持っている人に対するイメージって違う事ありますよね。
鈴木 違いますね、ありますね。
荒木 ダイちゃんの、世間に知られている人のイメージはパブリックイメージって言いますけど、明るくて元気で、物事にこだわらないという印象があるんですけど、みんな そんな感じだよね?ダイちゃんのイメージって。
鈴木 でも、それってどこか、荒木さんのってことだよね。
荒木 そう?ダイちゃんに対するイメージでもあるし、ただ、実際に会ってみると思慮深い人でもあるんですね。
鈴木 おっ、荒木さん!今、マイク通して、エアハグしたよ。きゅーって、ハグした。
荒木 はい。ありがとうございます。
鈴木 あはははは。
荒木 話していると、アイツこうだよねと言うのと、そんなことないよ、反対だよという人もありますよね。
鈴木 あるある、あるよ。
荒木 特に、タレントさんとかどうですかね。そんな感じ多いよね。
あと、大きな声で言えないけど広告代理店の人とかね。
鈴木 多面性って、いい意味じゃない人いっぱいいるからね。
荒木 影、日向というか、表の顔と裏の顔がある人がいるんで、人に対する評価って全然違ってきますけど、私みたいな歳になると、人間やはり、自然にナチュラルに穏やかに生きたいですよね。そう心がけてはいるんですけど、なかなかそうはいかない。
死んだ時にはお葬式でバカでスケベだったけど穏やかで正直な人だったと、皆さん、新海さん、ダイちゃんに言われたいと、がんばります。
鈴木 荒木さ~ん、死なないでくださいね~。
荒木 話がそれてしましたけど、「スオミの話をしよう」という、現在公開中の、人間の持ってるイメージの違いを上手く使った作品です。
そしてダイちゃん、コーダという言葉を知っていますよね。
鈴木 はい、知ってますよ。
荒木 音楽のコーダじゃなくて、耳の聞こえない両親のもとに生まれた、耳の聞こえる子供のことを言います。
鈴木 そっち側の方のね。
荒木 「Children of Deaf Adults」ね。ダイちゃんが、映画「コーダ あいのうた」を推薦してたことありましたよね。次にご紹介する「ぼくが生きてる、ふたつの世界」は、9月20日公開なんですが、このコーダを主人公にした作品です。
舞台は宮城県の小さな町です。主人公は五十嵐大くんという、ダイちゃんと同じ名前です。耳の聞こえない両親のもとで愛情を受けて育った彼は、幼い頃は母親に手話で“通訳”をすることも普通だったのですが、成長するとともに周囲から特別視されることや偏見に戸惑いや苛立ちを感じるようになって、思春期には母の明るさすら疎ましくなってくるんです。
反抗期とかそういう風になるんだろうね・・・。複雑な心情を持て余したまま20歳になった大ちゃんは、逃げるように上京し誰も自分の生い立ちを知らない大都会で生活を始めるんです。目的は家を離れることだったのに世間のことがわかるに従い、自分と家族の存在について認識するようになります。そして数年後、彼は父親の入院の知らせを受けて実家に帰ってきます・・・という話なんですけど。
これは、エッセイストの五十嵐大さんによる自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」という本を映画化したものです。吉沢亮さんが主演を務めます。吉沢さんて、今30歳くらいですけど、中2の役から演じているんだよね。30歳くらいまで。自然なんですよ。
演技素晴らしくて。主演賞ものです。吉沢亮の代表作になるんじゃないかと思うくらい。
鈴木 そうですか。
荒木 はい。こういう映画って、ちっちゃい頃からたどっていくので、子役が似てないことってシラケることがあるんですけど、この作品、赤ちゃんから子役から大人になるまで、4人くらい出るのかな。みんなすぅげーえ、似ているんだよね(笑)。
鈴木 じゃあ、全然違和感なく。
荒木 全然違和感ないの。本当に似ていて凄いなと思いまして。ずい分オーデションやったらしいけどね。
鈴木 探したんでしょうね。
荒木 はい。母親役の忍足亜希子さんとか、父親役の今井彰人さんをはじめ、ろう者、耳の聴こえない役の人は、すべてろうあ者の俳優がやっているんです。だからリアリティあります。
監督は、「きみはいい子」などの呉美保監督ですから、感動的で普遍的な母と子の物語なんですけど、演出も抑えていて、大事件や派手なことは起こらないんですけど、本当に真摯にひとつの家族を描いているという感動的な作品ですね。最後に感情を揺さぶられて余韻が残るという、自分の家族のことも見つめたくなるという、そんな作品でした。
「ぼくが生きてる、ふたつの世界」という9月20日公開の作品です。
鈴木 なんか、魂の探求の旅になりそうですね。
荒木 そうですね、そういう感じですよ。
さて、突然ですけど、「とりつくしまもない」って言いますよね。
鈴木 言葉的にね。よく言いますよ。
荒木 完全に相手にしてもらえないとか、頑なでどうしようもないとかね。
もともと、海の言葉なんですね。航海用語からきていて、嵐などで船が沈みそうな時に着岸出来る様な島がなくなって、どうすることも出来ない様子からきたらしいです。
鈴木 ある意味、言葉文字通りじゃないですか。取り付く島がないって。
荒木 そうなんです。「取り付く島もない」の「ない」がつかない「とりつくしま」だけで使われることはない言葉ですよね。
鈴木 ないですね。
荒木 ところがこの作品は「とりつくしま」だけ。タイトルが。
鈴木 タイトル、「とりつくしま」っていう映画なの?
荒木 そうなんです。「ない」が「ない」という。今公開中の映画なんですが、言葉どおり「とりつくしま」は、「とりつくもの」と解釈していいでしょうね。
女性監督の東かほりさんが、自身の母親でもある作家の東直子さんの小説を映画化したもので、死んだ人間が、モノですね、マグカップだとか、公園のジャングルジムとかに憑りついて、大切な人の傍で、その人を見つめるという4話のエピソードをまとめたものです。
この映画、きょんきょんがやってます。“とりつくしま係”が、まず死んだ人の前に現れて、「この世に未練があるなら、なにかモノになって戻ることができますよ。」と言う。
するとマグカップになったり、ジャングルジムになりたいとか、お婆ちゃんは孫にあげたカメラになりたいとかですね、ピッチャーをやってる息子を見守る為に、マウンドにおいてあるロージンバッグの中身のロージンの粉になりたいとかですね。最後にモノとなって、大切な人の近くで過ごす姿を描き出しているんですけど。
死んだ後に、物に憑りついて、心残りや後悔を見る事ができたらというのは、亡くなった人には誰しもあることなんでしょうね。実際には、死んだことないのでわかりませんが。このパターンの映画って、いくつかあるんですけど、死んだ人の視点から見て生きることと、我々生きている方から見た、死んだ人しか思いを馳せられないんですけど。
鈴木 それしか出来ないもんね。
荒木 そうだよね。死んだ人から見て、生きている人への愛情ってのは彼らにとっては残った人たちの思いってのは、我々が去って行った人たちより強い思いがあるんじゃないかというね。
鈴木 どうなんだろうね。絶対、一方通行だからね。我々は死ぬまでわかんないからね。
荒木 そうなんですよね。だから、もしかしたら残された人の何倍も気持ちが強いんじゃないかという。スリラーじゃないんだけど、ファンタジーなんですけど、そういう意味では心に響く作品でしたよ。今週半ばまでの公開らしいですので、見たい方はお早めに行って欲しいんですけど。ちょっと変わった、「とりつくしま」というタイトルで公開中の作品でした。今日は、3本短めにご紹介しました。
鈴木 今日の3本、どれも興味深いですね。
荒木 ちょっと地味な作品が多いんですけど。まあ1本目は地味じゃないか。ファッショナブルで踊っていて歌まで歌ってますからね、長澤まさみさん。長澤まさみさんが「付き合ってください・・」と向こうから来たら相手にしてあげるかもしれないと、不遜な発言をしたダイちゃん(笑)…。
鈴木 本当、ファンの皆様、申し訳ございませんでした。ということですよね。ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。