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映 画

「ベイビー・ブローカー」「神は見返りを求める」のとっておき情報
(2022年6月24日20:30)
映画評論家・荒木久文氏が「ベイビー・ブローカー」と「神は見返りを求める」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、6月20日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん、今日もよろしくお願いします。
荒木 ハイ よろしくお願いします。
今日はね 私から言わせると、天才と言っていい監督の作品をご紹介したいと思います。日本のふたりの監督の作品です。
まずは一人目の監督 是枝裕和監督 家族を描くとこの人の右に出る人はいないでしょう。
話題の映画です。6月24日公開「ベイビー・ブローカー」からご紹介。
あの是枝裕和監督と韓国の国民的俳優で「パラサイト 半地下の家族」などで知られるソン・ガンホ主演による話題の韓国映画です。
ストーリーです。ソン・ガンホが演じるのは、古びたクリーニング店を営む中年男サンヒョン、しょっちゅう借金とりに追われています。もう一人、弟分ですね。児童養護施設出身のドンス。彼は「赤ちゃんポスト」のある施設で働いています。韓国の「赤ちゃんポスト」は「ベイビー・ボックス」といわれていて、具体的には 宅配BOXみたいなつくりとなっていて、生んだけれど、赤ちゃんを育てられない人が匿名で赤ちゃんを置いていくというもの。 教会とか養護施設に作られています。
日本にもありますが…。
鈴木 どこにあるんですか?
荒木 日本には熊本県と北海道の2か所にあって、熊本が先で、有名ですね。これまでに150人以上が預けられていいます。
鈴木 南と北ですね。
荒木 ああ、そうですね。韓国には今3か所程度だそうですが。
鈴木 それでも3か所なんですか?
荒木 国外でもこうしたシステムを採用している国や地域が多数ありまして、ドイツで100か所、パキスタンなどでは300カ所以上であるということですね。
鈴木 えーそうなんですか?
荒木 赤ちゃんポストは当初、「捨て子を助長する」との批判を受けたしね、いろいろ問題というか賛否があるところですよね。今回そういうところがテーマになっているわけです。
鈴木 なるほど。
荒木 今回の映画、男二人は「ベイビー・ブローカー」と呼ばれる赤ちゃんを売り買いする裏稼業。もちろん犯罪です。
赤ちゃんポストに来た赤ちゃんを横流しして、お金を儲けているってことですね。
鈴木 タイトルだけ聞くとバイオレンスアクションモノみたいですね。
荒木 全然違います。心温まる、ハートウォーミングストーリーですよ。
ある土砂降りの雨の晩、若い母親ソヨンが生まれたばかりの赤ちゃんをポストに預けます。
サンヒョンとドンスの二人は 彼女の赤ん坊をこっそりと自分のうちに連れ帰ります。
もちろん、子供のほしい夫婦などに売ってしまうため…ですね。
しかし、ソヨンは翌日思い直して赤ちゃんを取り戻しに来ますが、当然赤ん坊がいません。
彼女は警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく赤ちゃんを連れ出したことを白状し
「赤ちゃんを育ててくれる家族 養父母を見つけようとしていた」という言い訳します。
その言葉を信用したわけではありませんが、母親ソヨンは、成り行きから二人と共に
養父母探しの旅に出ることになります。
一方、二人の「ベイビー・ブローカー」を逮捕するため尾行をしていた二人の女性刑事。
この二人も決定的な証拠をつかもうと彼らの後を追って旅に出ます…というお話。
鈴木 なるほど…わかりました。
荒木 出演はソン・ガンホと相棒役はカン・ドンウォン、女性刑事には
ペ・ドゥナとイ・ジュヨン。この二人は韓国映画には欠かせない女優さんたち、
韓国映画には必ず出てくる人たちですよ。また母親ソヨンには、アーティスト“IU”と
して活動するイ・ジウンら韓国の人気も実力もトップクラスのキャストが集結しました。
赤ちゃんを売買する男達という物騒な話ですが、実際、ソン・ガンホのキャラクターは、どこか人のいい、とぼけた感じがちょっとコメディっぽい味が出ています。
初めはお金のためだったのが、血の繋がりのない者達が旅を続ける中で、なんと赤ちゃんを中心に少しずつ血の繋がりを越えて家族になっていくのですが、すごく自然です。
擬似家族が本当の家族のようになっていくわけです。これは俳優と演出の素晴らしい力です。
見どころはいろいろあるんですが、役者はうまいし、赤ちゃんまでうまいという…。
鈴木 え?
荒木 赤ちゃんがソン・ガンホの動きを目で追ったり、抱っこした時に相手のほっぺたを触ったり…そういうシーンをうまくとらえているんですね。
鈴木 演技しているのかな?
荒木 もちろん偶然ではあるのですが、まるで、赤ちゃんが演技しているようです。
赤ちゃんポストや赤ちゃんの売買という比較的重めなテーマではあるものの、血を越えた家族の繋がりとか母性、生まれるという奇跡、そういうものがとにかく優しく温かく描かれています。
鈴木 韓国映画で「ベイビー・ブローカー」、バイオレンス…ではないんですね。
荒木 まあ、赤ちゃんポストが是か非かという問題提起、そこに殺人事件にまつわるサスペンスが加わっています。エンディングがちょっとショッキングです。見終わった後は、なんとも複雑な感情をいだきました。いくつもの感情ね。
鈴木 なるほど…。
荒木 こうした疑似家族というのは是枝監督の作品には多かれ少なかれ必ず入ってくる要素ですね。その典型が「万引き家族」ほかにも「そして父になる」などですが。
今回の映画は是枝監督曰く、「そして父になる」で、子を産む女性には母性がすぐ芽生えるが、男性が父になるのは難しいという観点から父性について描いたが、"全ての女性が出産で母性が芽生えるわけではない母性も最初からある訳ではなく、母になるのだ"という意見から作ったのがきっかけで、それが「ベイビー・ブローカー」とのこと。重くなりがちなテーマを笑顔にさせる是枝監督の作品はやはりすごい!!
韓国の名優さんと是枝監督のコラボですから、これおもしろくないわけありませんので
一歩進んだ作品、当然カンヌの賞の対象になるんであろうと感じました。
鈴木 血のつながりがある家族より、時にはいつも生活している血のつながりのない家族のほうがよけい家族っぽいってありますからね。

荒木 ありますよね。6月24日公開「ベイビー・ブローカー」ご紹介しました。
もう一本 も一人は 人の心をざわつかせる作品を作る天才でしょう。
「神は見返りを求める」という6月23日公開の吉田恵輔監督作品です。
あらすじから行きましょう。
田母神(たもがみ)さんは(ムロツヨシさん演じています)イベント会社勤務、
合コンで岸井ゆきのさん演じるYouTuber・ゆりちゃんと出会います。
ゆりちゃんはユーチュバーと言っても。再生回数がほぼゼロという、みじめーな最底辺ユーチューバーです。そんな彼女をかわいそうに思った田母神さんは、見返りも求めず彼女の動画つくりを手伝い始めます。2人は動画作りを通して前向きでいい感じのパートナーになり、それほど人気は出ないながらも、力を合わせて前向きにがんばっていきました。しかし 突然、あることをきっかけにやさしかった田母神さんが、見返りを求めるイヤーな男に豹変します。
それをきっかけに二人の仲は険悪に・・・対抗するように、ゆりちゃんまでもが容姿や振る舞いが別人のようになり、恩を仇で返す女に激変し二人は反目し互いにいやがらせの応酬を繰り返します…というコメディなんですが…。
まず、"見返りを求める男" "恩を仇で返す女"という岸井ゆきのとムロツヨシの多面性というか二面性演技が素晴らしいですよね
ダイちゃんの周りにもいるでしょう…。
鈴木 異性とか、同性同士に限らず、とっても仲良かったのに、敵同士になっちゃた人とか…いますよ、いますよ…いっぱい。
荒木 友情って見返りがないから友情なんでしょうけど、その裏には見返りや、メリットを求めるという、人間の性が必ずあるんだよと言っているんですね。ある意味 本質を突いてはいますよね。
正直 非常に刺激的でめちゃくちゃ面白かったですね、これ。私、吉田恵輔監督の作品がもともと好きなこともありますが、彼の作品は人間の光と闇を映し出すリアルな天才ですよ。この吉田監督、オリジナル脚本が多く、いろんなパターンの作品に挑戦し評価されています。ちょっと過去の作品を見ると、「なま夏」(2006年)、「机のなかみ」(2006年)、「純喫茶磯辺()2008年)、「さんかく」(2010年)、「麦子さんと」(2013年)、「銀の匙 Silver Spoon」(2014年)、「ヒメアノ〜ル」(2016年)、「犬猿」(2018年)、「愛しのアイリーン」(2018年)、「BLUE/ブルー」(2021年)、「空白」(2021年)、「空白」は話題になりましたね。内容的にもほんとにスタンスの広い監督ですよね。
タッチも穏やかな女優さんのポートレート的作品からスプラッターバイオレンス系まで幅の広―いこなし、見事にそこに自らの作家性を表現しています。
鈴木 バラエティ豊かですね。
荒木 最近の吉田恵輔監督は、人間の嫌な部分を描く観る者の心を容赦なくえぐって、えぐってえぐり続ける。人間の黒い感情が渦巻く様は見事。それを通じて人の心を騒つかせる天才!目の付け所がすごいんですよ。
この人の作品 群像劇とまでいかないまでも登場人物が比較的多いです。
映画というものは 観客が誰かに感情移入するものです。
誰かの視線で見ることになるのですが、この人の作品の場合はある意味感情移入しにくいです。…ということはここに登場する嫌な人間…多いですが、ねたみ、つらみ、人の悪口、執着心、劣等感、独占欲、名誉欲、ありますよね、誰の心にも…出すかどうかは別として、自分の悪いところを少しづつ持っているのに気が付くんですよ。
鈴木 なるほど…でも 認めたくないんですよ。
荒木 みたくない人間の嫌な部分が割とコミカルにポップに描かれているので一見笑えそうなんですが つまり、間違いなく、自分自身を見ている。
鈴木 いやいやいやいや…あかん。
荒木 笑いながら心を掻き乱されます。もしかしたら自分にも当てはまるところがあるかもしれない...と考えたら決して笑えない。見終わったとそう思うんですよ。
さっき言ったように、えぐって、えぐってえぐりまくって人間の黒い感情が渦巻くさまを撮るのが見事なんですが、でも非常にカラッとしてて、吉田さんらしいですよね。
ユーチューバーって言うと最近の最先端の職業でもあるんですが、承認欲求と言うか、見て見て・・ということが強いですよね。ところでダイちゃんのおすすめYouTubeはなんですかね。
鈴木 私も何個かチャンネル登録しています。まず、ミステリーチャンネルみたいなもの「世界の七不思議」とかそういうものを説明するもの、あとは「アップルチャンネル」で、アップルの新製品を紹介するものとか…面白いよ。
荒木 そうですよね、ユーチューブ はい。私はへずまりゅうの見てましたが、最近は「貴闘力チャンネル」…これが面白いですよ。相撲界の悪口三昧…。
鈴木 「江川さん」のチャンネルも面白いですよ。
荒木 最後はユーチューブ談議になってしましましたが、2本目ご紹介したのは6月24日から公開の吉田恵輔監督「神は見返りを求め」』でした。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。