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映 画

「アプレンティス: ドナルド・トランプの創り方」のとっておき情報
(2025年1月25日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が、「アプレンティス: ドナルド・トランプの創り方」のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、1月20日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 デイヴィド・リンチが亡くなりましたね。
鈴木 ちょっとショックですよね。
荒木 「ツインピークス」や「エレファントマン」、ダイちゃんも好きだったですよね。
鈴木 「ワイルド・アット・ハート」っていうちょっと笑っちゃうロードムービー的な。あれで当時プルプルしましたね。
荒木 この人、難解な作品が多かったんですけどその謎を解く手掛かりになる、細かいアイテムとかもあって、頭を使ってみなけりゃいけないんで疲れましたけどね。
鈴木 まさしくカルト王ですよ。
荒木 私の印象に残っているのは「マルホランド・ドライブ」。2001年でしたか、比較的わかりやすかったのではないかと思うのですが。本人も変わった人らしかったですね。
鈴木 タバコ吸い過ぎで肺で息が吸えなかったんでしょう?
荒木 そうなの?(笑)。
鈴木 肺気腫かなんかだったらしいよ。
荒木 そうか。ご冥福をお祈りしたいと思います。
話はがらっと変わりますが、第47代アメリカ合衆国の大統領に就任するドナルド・トランプさんの就任式。今夜だよね。
鈴木 日本時間で今夜2時くらいでしょう。
荒木 ダイちゃん、彼にはどんなイメージを持ってます?
鈴木 僕はニューヨークのお父さんの会社を頂いちゃった、若いカッコいい実業家って頃から知ってて、それが、まず大統領になったってのがびっくりした。だけどアメリカ人じゃないから何とも言えないんだけど、もし僕はアメリカに住んでいるアメリカ人だったら、トランプさんは俺たちのこと一番見守ってくれてるって思うかもしれないなぁって気がするよ。
荒木 その立場にならないとわからないからね。
鈴木 わかんないからねー。
荒木 どちらにしろ、強引で私たちの周りにいないタイプですよね。
鈴木 有罪で大統領になれるんですからね。あり得ないですよね。
荒木 ちょっと常識とはかけ離れてますよね。発想とか方法論とか、はじめはこんな非常識な男が、おっさんが、って思ってたんですけど、最近は世の中ガラッと変わるんじゃないかみたいな、変な期待を持ってたりするんですよね。
鈴木 でも、トランプさんがいた4年間ってアメリカは経済的にはよかったんですよね。
荒木 まあそうですよね。いろんな状況・要素があって、経済がよかったってのもありますけどね。最近もメキシコ湾をアメリカ湾と呼ぶことにしようとかね。
鈴木 グリーンランドがどうとかカナダをどうだとか、どうなっちゃうんですか?
荒木 本当にしちゃうんじゃないかと思ってます。
鈴木 そういう意味での実行力とかは凄いなって感じしますよ。
荒木 そういう意味とかある意味とか、頭に必ずつきますね。
鈴木 そうそう、そういう事。

荒木 そして、今回ご紹介する映画は先週から公開中「アプレンティス: ドナルド・トランプの創り方」です。この映画は1980年、ドナルド・トランプの青年時代。
彼が小さな不動産屋の息子だったのが不動産王と呼ばれるようになった、まさにその時代を描いた劇映画・ドラマです。ドキュメンタリーではありません。
「アプレンティス」というのは大工さんとか、植木屋さんとか、茶道とかのお師匠さんに対する「お弟子さん」、または「見習い」という意味ですね。彼がかつて司会を務めたテレビ番組のタイトルでもあるんですね。
鈴木 You're fired!ですよ。
荒木 映画の内容なんですが、トランプは大学を卒業しニューヨークで不動産経営の父親の手伝いをしています。彼自身はちょっと気弱でナイーブと言うか、頼りないという好青年として描かれています。父親の持っている、あまり高級ではないいわゆるアパート、比較的貧しい人が住んでいるのですが、毎日そこに家賃を取りに回っているわけです。なかなかすんなり払ってれない人もいるし、コインを投げつけられたり、怒鳴られたりまあ大変です。しかし基本的に賢いんでしょうね、この人。そんな中、いつまでもこんなことをやっていてもしょうがない、もっと儲かって事業を拡大出来ないかと考えてせこい不動産屋を脱却しようと廃墟になってしまっているホテルを買収するんですね。
それをリニューアルしてオープンします。買収資金は親を説得して出させるのですが、これが大成功するんです。これに味を占めた彼は、同じように次々ホテルを買収して多くの資産を持つ不動産王と言われるようになっていくんですね。この時代、彼は一人の重要な人間と知り合います。ロイ・コーンという弁護士のおじさんです。ロイ・キーンじゃないですよ。
鈴木 あはははは。ロイ・キーン、アイルランドのね、大好きでした。
荒木 もともとロイ・コーンは、父親のアパートが黒人を入居させないという差別をやっていて、これを訴えられ倒産寸前だったのがきっかけで依頼されて入ってきた人なんです。めちゃくちゃ頭のいい人で、天才でしょうね。でも卑劣な悪党なんですね。
この人がのちのトランプの先生、お師匠さん的な立場になる人なんです。だから、ドナルド・トランプはこの人のアプレンティス、つまりお弟子さんというわけなんですよ。
さっき言ったようにロイ・コーンという人は優秀な弁護士ですが、頭に悪徳という言葉が付きます。悪い弁護士です。金のためには何でも平気で引き受けて汚い手で勝ってたんですね。
鈴木 それって、頭がいいからできるんだよ。
荒木 そういうことですね。彼は口癖のように、とにかく言った者勝ちなんだと。最後に勝つのは正義ではなく嘘でもハッタリでも声高に述べたてて、より多くの注目を集めた人が勝つんだ─というような処世訓で、というか考え方で世を渡ってきたんです。
そういう人がロイ・コーンだったんです、だから、頭から敵を中傷、攻撃、脅し文句を突きつけることによって、たとえ相手が降参しようが容赦なく叩きのめす。ね、誰かと似てますよね。
鈴木 今のYouTubeの時代を先取りしてるよ、それ。
荒木 そうかもね。
鈴木 言ったもん勝ち出したもん勝ちみたいな。
荒木 もともとロイ・コーンは検察官だったんですけど、政治家になって“赤狩り”を進めるんですね、ご存じの。特に政府内のゲイを見つけ出して追放する役をやってたんですね。当時ゲイは社会的な問題とみなされてましたからね。でもね、自分もゲイだったんです。
鈴木 あー!なるほど。
荒木 その後、隠れゲイとして生活を送ってたんですが、AIDSを発症し1986年に59歳で亡くなりました。
鈴木 あらららららーっ!亡くなったんだ。
荒木 そうなんですよ。
で、ロイ・コーンのトランプへの教えは、大きく分けると3つです。
鈴木 3つもあるの!?
荒木 1番目。攻撃は最大の防御である。常に攻撃しろ。間違いといわれても反論、議論しちゃいけない。自分のスローガンと主張をあくまで貫き敵の弱点を見つけ拡大して攻撃しろ。攻撃あるのみ。
鈴木 まさしくトランプだな。
荒木 2番目。自分の弱点は無視しろ。批判は無視。何を言われても、正しくとも間違いでもNoと言え。事実であるかどうかが問題ではない。否定し続けろ。
鈴木 トランプ、ちゃんとやってるね。
荒木 3番目。いくら負けても勝利を主張しろ。負けを認めては駄目。まあ、弁護士の場合、負けると仕事が来なくなりますから。
鈴木 そうですよね。
荒木 これが2020年に選挙に負けたことを否定し続けた根拠ですね。
鈴木 本当は、負けたことわかってんですかね?どうなんですかね。
荒木 わかってんでしょう。どうですダイちゃん?我々にはないものでしょう。
鈴木 できないです俺。だって、選挙で負けたら、負けは負けじゃないですか、結局。それをインチキって言えないですよ。
荒木 すぐに、ゴメンって言っちゃうよね。
鈴木 ゴメンって言って、また来週ねーって、問題ない方がいいじゃないですか。
荒木 そうだよね、それじゃダメ!
鈴木 ダメなんだね。
荒木 トランプはロイ・コーンの仕事、そのやり方脅迫や裏切りを学び、彼の教えを忠実に守り覚えて、忠実に守って実行していくんですよね。
鈴木 それで、今の地位に繋がるんだ。
荒木 そうなんですよ。だけどね、トランプはロイ・コーンの忠実な弟子ではあったんですけど、のちにこの先生に対してひどい仕打ちをすることになります。そのあたりも映画には細かく描かれていますので見てください。
鈴木 えっ?それは実話ってことなの?
荒木 実話ですね。他にも映画では最初の妻との離婚だとか、落ちぶれたお兄さんの死の問題など家族の問題も出てきますし、彼自身の女性問題とか、体の問題、特に容貌の問題です。見てくれの問題からお腹の脂肪を外科手術で取ったりですとか、あの髪型の秘密。見慣れたから今は変には思わないけど最初は面白いヘアスタイルだと思ったよね。
鈴木 なんか薄くなりそうで、なるようで、ならないんですよね。
荒木 その辺に秘密があるんですけど、当初、かつらじゃないかと疑われてね。人の前で髪引っ張らせてましたよね。
鈴木 ははははは。確認されちゃって(笑)。
荒木 実は、あの人、頭の部分を手術しているんですよ。
鈴木 えっ!?知らなかった。
荒木 何の為の手術だったかは、映画を見ていただくとわかるんですけど。
この映画、主人公のドナルド・トランプを演ずるのは「マーベル」でウィンター・ソルジャーやってたサバスチャン・スタンですね。てっぺんに毛無いんですけど(笑)。ハンサムな人ですよね、イケメンで。だんだん本人に見えてくるんですよね、不思議です。
鈴木 そこはそういう、そういう事なんですよ。
荒木 撮り方もあるんでしょうね、ちょっと口をとんがらかせて、下から撮るとそっくりです。監督は、イラン出身のアリ・アッバスと言う監督です。前に「聖地には蜘蛛が巣を張る」という面白い映画撮ってます。この監督、自身の生命も脅かしかねないリスクを背負ってますよね。でもアカデミー賞取るんじゃないかな。ノミネートされるんじゃないと思います。
鈴木 でも、ドキュメンタリーじゃないんですもんね。
荒木 ドキュメンタリーじゃないです。10月の全米公開時にはトランプが上映阻止にまで動いたと言われていますが、これは本当かどうかはわかりませんけどね。本人は見ていないらしいけど、例のごとくインチキでごみ映画だ!!と言っているようです。
鈴木 見たらトランプでも、心がどっか痛くなるから嫌なんじゃないんですか。
荒木 そうでしょうね。自分のことを根掘り葉掘りね。脚本家はインタビューをずっとしてきた人らしいんでよく知ってるらしいです。
鈴木 先ほど荒木さんが言ったようにトランプにお兄ちゃんがいて、彼が酒、煙草、ドラック、一切やらないのは、それでお兄ちゃんが亡くなってるからなんですよね。
荒木 そうなんですよ。酒とドラックで死んでるんですよ。
鈴木 それは、有名な話なんですよね。
荒木 はい。それからびっくりするのはアメリカでは、昨年の10月の選挙期間中から公開されているのですね。選挙週にこの種の、いわゆるこんなアンチ候補者映画が公開されるというのはびっくりですよね。
鈴木 それをまた民主党やバイデンの企みだとか言ってんじゃないの?
荒木 そうそう、そういうことでしょうね。日本とはそのあたりちょっと違うなと。そういう意味では健全なんでしょうかね?
鈴木 言いたいこと言えるしね。
荒木 世界中で最もヤバい大統領と呼ばれてるトランプさんなんですけども、良くも悪くも「今のアメリカ」を象徴している人物なんでしょね。
鈴木 ほんと!まさしく「シビル・ウォー」ですよ。
荒木 今後のアメリカはどうなるんでしょうね? 私たち関係なきゃいいけど、関係あるからね。
鈴木 関係あるから!荒木さん的にはこの4年間は悲観的ですか?
荒木 悲観的、楽観的というか、いろんな事がぐちゃぐちゃになるだろうね。
鈴木 方法も全部変えるって言ってますから。
荒木 そうですよね。混乱するでしょうね。
鈴木 ですね!
荒木 後で、後世の歴史家がどう評価するかが面白いですね。
鈴木 もしかしたら、50年後、100年後、名大統領って言われてるかもしれないじゃないですか。
荒木 その辺が面白いですよね…。ということで第47代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプさん。映画のキャッチだと好青年が怪物になるまでを描いたと言われる作品です。
鈴木 怪物だってことですもんね。
荒木 「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」。
現在公開中の映画ご紹介しました。
鈴木 ありがとうございます。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。